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切り裂きジャックの被害者女性たちと、犯人と疑われた男たち

画像 : 当時の事件を伝えるジャックのイラスト

皆さんは「切り裂きジャック事件」という未解決事件をご存知だろうか?

1888年に、イギリスのホワイトチャペル界隈を拠点にし、かなり広範囲において連続発生した未解決事件である。

1888年の夏の終わりから初冬の約2カ月の間に、売春婦5人が切り裂かれて殺害されたのである。

しかしその犯人の特定にはまだ至っていない。またこの事件は「劇場型犯罪の先駆け」とも言われており、精神疾患者から王室関係者までが「真犯人ではないか?」と疑われ、その議論は1世紀以上の経過をもって解決を見ていない。

切り裂きジャックは主にその殺害対象を売春婦に選んでおり、犯行は人通りのある公の場、また少し奥まったエリアでなされ、被害者はおそらくメスのような鋭利な刃物で切り刻まれた。

また特定の臓器の摘出なども見られたことから、真犯人はおそらく解剖学的知識があるとされ、当初は「医師がその犯人ではないか?」との見立ても有力説として知られていた。

しかも被害者がすべて女性という事で、その女性たちがほとんど警戒せずその犯人を自分の身近に引き寄せている事から、「もしかすると犯人は女性かもしれない」との見方も一説では有名で、「切り裂きジル説」も現在では物議をかもしている。

切り裂きジャックの「ジャック」はいわゆる不特定多数を個人名で呼んだ名称であり、ここでも犯人の正体が全くつかめていない事を表していよう。また「ジル」というのも「ジャック」と同じ意味合いを持ち、もし犯人が女性だったと仮定した上で単純につけた呼称のことである。

まず、切り裂きジャックの犯行による確実な被害者とされているのは、以下の5人だ。

・ 1888年8月31日(金) – メアリ・アン・ニコルズ(42歳)
・ 1888年9月8日(土) – アーニー・チャップマン(47歳)子宮と膀胱を犯人により持ち去られる。
・ 1888年9月30日(日)- エリザベス・ストライド(44歳)犯人が目撃されている唯一の事件。
・ 1888年9月30日(日) – キャサリン・エドウッズ(43歳)左の腎臓と子宮を犯人に持ち去られる。
・ 1888年11月9日(金)- メアリー・ジェイン・ケリー(25歳)皮膚や内臓を含めほぼ完全にバラバラという、最も残忍な殺され方をした。

犯行は夜、人目に付かない隔離されたような場所で行われ、週末・月末・もしくはそのすぐ後に実行されている点が共通しているが、相違点もある。

キャサリン・エドウッズはただ一人、シティ・オブ・ロンドンで殺害された。メアリ・アン・ニコルズはただ一人、開けた通りで発見された。アーニー・チャップマンは他の被害者とは違い、夜明け後に殺害されたと見られている。

壁の落書きについて

2件の殺人が犯された9月30日の早朝、アルフレッド・ロング巡査が犯行現場を捜索中、ゴールストン通りで血の付いた布を発見した。

後にこの布はキャサリン・エドウッズのエプロンの一部という事が分かった。
その近くの壁には白いチョークで書かれた文書があった。

画像 : ゴールストン通りの落書きの複写。public domain

その文書は

「The Jews are the men That Will not be Blamed for nothing.」

もしくは

「The Jews are not The men That Will be Blamed for nothing.(ユダヤ人は理由もなく責められる人たちなのではない)」

というものであった。

この文を見たトーマス・アーノルド警視は、夜が明けて人々がそれを目にする事を恐れた。彼はその文章が一般大衆の反ユダヤ主義的感情を煽るのではないかと思ったのである。

事実、メアリ・アン・ニコルズの殺害以降、ユダヤ人の犯行ではないかという噂がイースト・エンドで流れていた。そのためアーノルド警視はこの文書を消すように指示した。

この文章はスコットランドヤードの区域で見つかり、犯行場所はロンドン市警察の管轄内であったため、2つの異なった警察部隊に分かたれる事になった。

特にロンドン市警察の警察官達はアーノルドに反対であった。「この文章は証拠かもしれない。せめてその前に写真を撮るべきだ」と主張したがアーノルドは賛成せず、結局明け方に消されてしまったのである。


被疑者として挙げられた人物たち

「切り裂きジャック」と思われる被疑者については多数挙げられたが、その中でも特に有名なのは以下である。

モンタギュー・ジャン・ドゥルイト(Montague John Druitt、1857年8月15日 – 1888年12月1日)

画像 : Montague Druitt (1857–1888)

弁護士であり教師でもあった。風貌が当時の目撃証言と似ているとされた上、最後の事件の後、12月1日にテムズ川に飛び込み自殺している。

第一の事件と第二の事件の時に所在不明だったされており、当時の英国捜査当局の責任者でありこの事件を担当していたメルビル・マクノートンのメモによれば、20世紀半ばに入り、有力な容疑者として挙げられるようになっていた。

彼のメモによればモンタギューには精神病の既往歴があり、その延長で事件に関与していたのではないか?との見方が一様に立てられている。

ただマクノートンのメモには内容が間違っているものも多く、例えばモンタギューの職種を医師としていたり、その信憑性までは確認されていない。

マイケル・オストゥログ(Michael Ostrog、1833年 – 1904年頃?)

画像 : Michael Ostrog

ロシア人の医師であり、多数の殺人を含む前科があったとされる。

ロシア海軍付の外科医の経歴を持ちながら、彼には詐欺や窃盗の常襲犯とされるダークな部分もつきまとい、逮捕された末に特定の精神医療施設に隔離された経験も確認された。

そしてホワイトチャペル界隈での事件当時に所在不明だったのもあり、捜査当局ではしばらくの間、疑わしい人物として名前を挙げられていた。

トマス・ニール・クリーム(Thomas Neill Cream、1850年5月27日 – 1892年11月15日)

画像 : Neil-cream

アメリカ人医師として知られ、ストリキニーネという危険な薬物を常用する上、複数の売春婦を実際に毒殺しており、「ランベスの毒殺魔」として知られていた人物である。

しかし彼は1888年当時の一連の事件が起きた時、アメリカのイリノイ州にある刑務所に収監されていた。

上記したジャックによる確実な被害者として知られる5人の女性の殺害は無理であり、1892年の死刑執行時、絞首台で「自分が切り裂きジャックだ」と告白したという噂も立ったが、真実性は皆無に近い。

アーロン(エアラン)・コスミンスキー(Aaron Kosminski、1865年9月11日 – 1919年3月24日)

画像 : aaron_kosminski

彼はイーストエンド界隈に住んでおり、特に売春婦を憎み続けていた人物として知られる。

実際そのイースト・エンド地区で殺人が起きており、当時、目撃者の証言により逮捕されるに至ったが、ジャックが書いたものとされる手紙の文字と彼の筆跡鑑定が一致しなかった事から、その目撃証言は後に撤回された。

ジェイムズ・メイブリク(James Maybrick、1838年10月24日 – 1889年5月11日)

画像 : James Maybrick

彼は木綿商人であり、
1889年に妻であるフローレンス・チャンドラーに殺害されている。

彼は一連の事件が起きる3週間前、その現場近くのミドルセクス・ストリートに部屋を借りていた。それから100年近く後に発見された切り裂きジャックの物とされる日記は、彼が書いた直筆のものとされている。

現場近くで何度か目撃されており、「金色の口ヒゲを生やしていた」とされるそのジャックの特徴にも当てはまった。

また彼が書いた日記の内には「被害者の体の一部を持ち去って食した」との記述もあり、更に真犯人としての疑惑を高める事にはなったが、その手紙の発見まで100年以上が経過しており、その間に偽造・捏造できた可能性も高いため、真犯人とは言い切れない。

ジェイコブ・リービー(Jacob Levy、1856年 – 1891年)

ユダヤ人の精肉業者であり、当時犯人の輪郭として挙げられていた「死体の解体に慣れ、常日頃から血まみれの格好をしていても怪しまれない人物」として当局のプロファイリングにより特定された上、精肉業者関連の人物が怪しいという当時の噂もあった事から、かなり有力な容疑者として見られていた人物である。

彼が出席していてもおかしくないとされる「ユダヤ教社会主義の会合」が、1人目の殺害現場のバーナー街で開かれていた事。

また、2人目の被害者が身に付けていたエプロンが落ちていたそのすぐ横の壁に「ユダヤ人は理由もなく責められる人たちではない」と落書きされていた事から、ユダヤ人繋がりでも疑われる事になった。

更に彼は「梅毒」に罹患していたとされ、当時、売春婦と交わった多くの人が梅毒だった事から「売春婦を逆恨みしてその延長で殺害していた」と推定もできる。

また更には事件当時、彼はフィールドゲート街からミドルエセックス街に引っ越しており、両方の地区が犯行現場を結ぶ円内にあった事から、地理的プロファイリングにも一致する。

犯行が4件で終わったとされる理由は、彼の梅毒症状が進んだ事により犯行が難しくなった事と、同じ精肉業者で働いていたジョセフ・リービーにその犯行が疑われ、物理的に次の犯行へ臨むのが難しくなったからともされている。

最後に

上記6人以外にも多くの容疑者が挙げられてはいるが、いずれにしても現行犯で逮捕された人物はもちろんいない。警察当局の調べにしても、周囲の人物による目撃証言にしても、その確実性・信憑性を直接事件解決に繋げる事は出来ないでいる。

また犯人を追求する為の仮説も多く立てられてはいるが、やはり犯人特定には至っていない。

当時の英国王ビクトリアの孫、クラレンス公アルバートビクターまでが容疑者の1人として挙がっており、憶測が余計な情報までを呼び込み、有力情報と不要な情報との見分けが付かなくなった事からも、犯人追求までのメドは益々立たなくなった。

現在までに「犯人と疑われる人物たち」は多くいたが、未だに真犯人を絞る事ができないのが現状である。

 

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