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共謀罪 を分かりやすく解説

2017年6月15日未明、参議院本会議においてある法案が成立した。

テロ等準備罪」を新設する「改正組織犯罪処罰法」である。

メディアによっては「共謀罪」と表現されるこの法案は、実にややこしい。
そこで「共謀罪」とは何か、分かりやすく伝えられるように調べてみた。

国際組織犯罪防止(TOC)条約

共謀罪

※国際連合マーク

国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(こくさいてきなそしきはんざいのぼうしにかんするこくさいれんごうじょうやく)は、組織的な犯罪集団への参加・共謀や犯罪収益の洗浄(マネー・ローンダリング)・司法妨害・腐敗(公務員による汚職)等の処罰、およびそれらへの対処措置などについて定める国際条約である。この略称が国際組織犯罪防止条約。TOC条約、パレルモ条約とも呼ばれる。

本体条約のほか、「人身取引」に関する議定書、「密入国」に関する議定書 、「銃器」に関する議定書の、三議定書があり、2016年10月現在、署名国は147、締約国は187となっている。

簡単にいうなら

「犯罪集団が犯罪を犯したり、準備段階で発見した場合には、この条約に署名した国々は協力して捜査や逮捕に当たりましょう」

という条約だ。犯罪集団となっているが、現実的にはマフィアなどの犯罪を防いだり、逮捕するためのものだと思っていいだろう。

日本も条約本体については2000年12月にイタリアのパレルモで行われた署名会議において署名し、2003年(平成15年)5月14日に国会で承認したが、2017年6月現在も批准していない。なぜなのかというと、この条約には「共謀罪」、つまり「犯罪を企んでいる集団に手を貸したりするのもダメよ」という項目があるのだが、日本には「共謀罪」がなかった。なかったからこの条約に参加したくても参加できなかった。

そこで、「共謀罪」を含んだ「改正組織犯罪処罰法」を成立させる必要があった。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

共謀罪

※警察庁のマーク

名称からしてややこしいが、これが「改正組織犯罪処罰法」の正式な名称であり、俗に「共謀罪」と呼ばれる法律を含むもので、今回の話の核である。

Wikipediaでは、
『暴力団・テロ組織などの反社会的団体や、会社・政治団体・宗教団体などに擬装した団体による組織的な犯罪に対する刑罰の加重と、犯罪収益のマネー・ローンダリング(資金洗浄)行為の処罰、犯罪収益の没収・追徴などを定める』とあるが、

暴力団やテロ組織、さらには会社や宗教団体などが組織的な犯罪(テロなど)を起すと逮捕するよ」ということだ。

当然のことのように思えるが、1995年(平成7年)3月20日にオウム真理教が起した同時多発テロ事件で、日本にも「テロの危険性が存在する」と国民にも分かり、そうした犯罪を行う集団を取り締まるための法律として成立した。

それまでも組織的な犯罪はあったが、このような「大規模テロ」という犯罪は初めてのことだったので、「急いで対テロの法律を作らないといけない!」ということで成立したのだ。

地下鉄サリン事件発生以後は、「破壊活動防止法」という言葉が飛び交ったが、実際には適用されたなかった。

破壊活動防止法とは、テロが起きる可能性が低い時代において、「集団で、死傷者が出たり物を壊すような大きな犯罪を犯したら逮捕するよ。あとは悪いことを企んでいないか監視もするよ。それで、悪いことを企んでいるのが分かったら、集団を解散させるよ」という意味で作られた法律である。地下鉄サリン事件では実行犯やそれを指示した主犯格は逮捕されたが、オウム真理教そのものには「今後の危険性が低い」と判断されて適用されなかったのだ。

そこで、より現代の社会情勢に合った法律を作り、さらに色々な犯罪を取り締まれるようにしたのが、「改正組織犯罪処罰法」というわけである。

改正組織犯罪処罰法案提出までの流れ

共謀罪

ここまで書いただけでも混乱しそうだが、まとめてみよう。

「犯罪を行う集団がいるといけないから、破壊活動防止法を作ろう」

「日本でもテロが起きた!犯人は逮捕できても破壊活動防止法じゃ、犯人が所属していた集団までは取り締まれない!」

「組織犯罪処罰法を作ったからテロにも適用できるようになったよ」

「国際組織犯罪防止(TOC)条約が出来たって!?国際犯罪に対して協力する世界の流れに乗り遅れちゃうから、取り敢えず署名はしておこう」

「でも、日本には共謀罪がないから条約に批准できない!」

「それなら、共謀罪も盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を作ろう!これで、国際犯罪やテロ防止にも使えるぞ!」

というような流れになる。ちなみに共謀罪は「テロ等準備罪」という名称の法律で、
2017年6月15日に成立した同法案に盛り込まれているが、日本が締結を求められている国連国際組織犯罪防止(TOC)条約は、実質的にはマフィア対策の条約であって、テロ対策を念頭に置いたものにはなっていない。

共謀罪 の何が問題なのか?

共謀罪

安倍晋三内閣総理大臣は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に「テロ対策が大事だ」と訴え、国際組織犯罪防止(TOC)条約の締結には、この法案の成立が必要だと訴えている。

一方で野党は「(警察など)捜査当局の権限が乱用されるおそれがある」として廃案を求めていた。

メディアでも心配する声が多いが、具体的に何が問題なのだろう。

一番心配されているのは、「改正組織犯罪処罰法」のなかでも共謀罪の適用により、民間人や悪意のない人まで捜査対象になってしまうのではないかということである。それに対する政府の考えは、「テロ組織」「暴力団、組織的詐欺など」を想定しており、一般人は対象とならないとしている。例えば、飲酒の席で犯罪の実行について意気投合し気勢を上げただけでは、法案の共謀罪は成立しない。逮捕されることもないという。

しかし、「市民団体や労組、NPOなどがターゲットとなってしまうという乱用の危険があります。公安事件の場合、起訴まで持ち込めなくても、逮捕したり家宅捜索したりしてそれらの団体にダメージを与えることができるのです」という声も挙がっている。

つまり、法律が適用される範囲が広すぎるため、

「具体的に何をしたら共謀罪となるのかわからない」

「警察などが強引に共謀罪だといって、害のない市民や集団まで取り締まりの対象にするのではないか?」

といった点が主な問題点となっている。

最後に

法律は本当にややこしい。しかし、多くの法律を作っても、どんな犯罪もに完璧に適用させるのは難しい。そのため、どうしても曖昧な表現を残して、実際の犯行に照らし合わせて該当するかどうか見極めるのがポイントになる。

今回の法律とは直接関係ないが、東日本大震災で被害者の捜索にあたった自衛隊員は、法律により「私有地」には入れないため、「基地から流されたものの捜索をする」という名目で現場に入ることができた。

このように屁理屈のような名目でも、時には法律の解釈を変えることができることだけは覚えておこう。

 

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