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日本のリニアモーターカーはなぜ開通に時間がかかるのか?

2027年の開業を目標として開発が進むリニアモーターカーですが、近年では中国などでも一足先に「リニア開通」のニュースが世界を駆け巡りました。

日本では「中央新幹線」の名称で、まず品川~名古屋間の開通を目指し、2037年までには名古屋~大阪間の営業運転を開始する予定です。

でも、他国に比べてあまりに遅い開業ですよね。日本のリニアは長い時間をかけて実用化されましたが、本当にそこまで時間がかかるものなんでしょうか?

リニアモーターカー の必要性

リニアモーターカー
【※横浜博覧会で初の営業運転を行ったHSST-05】

日本でリニアモーターカーの必要性が唱えられるようになったのは、都心から成田空港へのアクセスが切っ掛けでした。

当時、国鉄は「成田新幹線」を整備することを決めて、1976年の開業を目指しましたが、用地の買収が進まずに断念しました。ちなみに東京駅の東京ディズニーリゾートへ向かう「京葉線・武蔵野線地下ホーム」は、もともと成田新幹線用に建設されたものです。

そして、国鉄と日本航空は新幹線とは違う交通システムの開発に乗り出します。

それがリニアモーターカーでしたが、日本航空が常電動磁石を使うHSSTという方式を採用したのに対し、国鉄(JR)は超伝導磁石を使うマグレブ方式という異なる方式を採用しました。

最初に実用化したのはHSST方式のほうでしたが、1985年のつくば万国博覧会で初めて乗客を乗せた展示走行に成功しています。1989年には、横浜博覧会で営業運転を行いました。

先を越された実用化!

リニアモーターカー
【※浦東国際空港駅を出発する上海トランスラピッド】

そして、第3のリニアがドイツのトランスラピッドという常伝導リニアです。

超伝導と常伝導の違いはあとでお話しますが、2002年に中国で開業した「上海トランスラピッド」は、このトランスラピット方式を採用しています。

上海市内と上海浦東国際空港駅間、約30kmを最高時速431km/hで結ぶ、世界初の高速リニアモーターカーとなりました。乗車人数は574人で、所要時間は最速で7分20秒と確かに速いです!

しかも、建設決定から営業運転開始までわずか2年というスピードで完成しました。

でも、本国ドイツでは2011年にトランスラピッドの開発が終了しています。それは莫大な事業費がかかる上、海外への売り込みも予算の都合で大きく遅れたためです。

商業運転を実現したものの、コスト面で従来の電車や飛行機には敵わなかったわけですね。

それでも余裕の最先端技術!


【※JR東海の超電導リニア「L0系」】

では、なぜJR東海は今になって中央新幹線の建設を開始したのでしょうか?

それは、HSSTやトランスラピッドと違い、世界で唯一日本だけが実用化した「超伝導リニアモーターカー」だったからです。常伝導と超伝導の仕組みの違いはかなり専門的なものになるので、ここではその明らかな違いだけをお話しましょう。

常伝導タイプは超伝導タイプに比べて開発が容易ですが、車体を浮かせるパワーがあまりありません。

地上からは約1cmしか浮上せず、モノレールのようなガイドも必要になるため、高速走行をしているところに小石が落ちていただけで重大なトラブルに見舞われます。走行中は車両の逃げ場がないわけですね。

しかし、日本の超伝導リニアなら膨大なエネルギーで車体を約10cmも浮かせることができ、ガイドもないため車体は大きく加速できます。

実用化までには時間も掛かり、技術的・費用的にも大変困難な道のりでしたが、後発でも世界に負けないリニアモーターカーが完成しました!

中央新幹線に向けて


【※2016年10月時点の中央新幹線計画路線】

でも、中央新幹線の建設決定が2011年で、開業が2027年ですから、その実力を世界に示すのにはまだまだ待たないといけません。

国鉄では1970年代からリニアモーターカーの研究・開発を行っていますが、世界初の独自開発ということもありここまで時間がかかりました。

なんといっても、品川~名古屋間を最速40分、東京~大阪間を最速67分で結ぶというのは「世界最長・最速」のリニアモーターカーになるということです。しかし、そのコースの多くがトンネル区間ということもあって、工事に時間が掛かるのは仕方ありませんね。

中央新幹線というコンセプトは超伝導リニアが導入される以前からありました。しかし、最初は通常の新幹線を使う予定でしたが、リニアモーターカーの実用化と合わせて、東海地震などのトラブルで東海道新幹線が使えなくなった場合などに必要になるということなどのタイミングが合って、リニアによる中央新幹線が実現したんです。

東海道新幹線との違い

超伝導リニアが技術的に高度なもので、完成までに時間が掛かるというのは理解できますが、開通までに時間がかかるのは、お話したとおりです。

2020年の東京オリンピックの開催が決定する前に建設は決まっていましたが、普通だと東京オリンピックに合わせて開通を急ぎそうなものですよね。

東海道新幹線は1959年に着工し、東京オリンピックを直前に控えた1964年に完成しています。でも、調べてみたらこの早さには秘密がありました。

戦前、日本では輸送力の強化のために東京と下関間に高速鉄道を建設する計画がありました。始まりは、1938年(昭和13年)のことです。いずれは、朝鮮半島から東南アジア、中東までを結ぶ「中央アジア横断鉄道」の一部となる予定で、用地買収が行われたそうです。戦前のことなので強制的に東京~名古屋までの土地が確保できました。それが戦後になって新幹線の用地として転用できたので早く開通できたんですね。

まとめ

日本のリニアモーターカーの開業が世界的に遅れているのは、日本の技術力が劣っているわけではなく、逆に高度なためでした。

ここまで高度な技術を使うことに決めたのは日本が地震大国だということもあるそうです。十分な浮力があれば、万が一の時でもリスクが減るためです。

そして、上海トランスピッドの車内の騒音や振動が現行の新幹線並みなのに対し、超伝導リニアははるかに静かなのも特徴です。

早く乗ってみたいですね!

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コメント

  1. アバター
    • 匿名
    • 2020年 6月 14日 6:36pm

    公の部分でブレーキがかかっているのでしょうね。
    中国なら速攻ですよ。
    だから中国輝いてるんでしょうね。
    日本の繁栄は国民の堅実さと勤労性で、それにブレーキをかけ続けた霞が関の利権あさり。
    何が東大ですか、国際的に2流大学視されるのは当たり前の話です。
    これからの日本の起死回生のキーワードは脱官僚、脱東大なのははっきりしております。

    4
    7
  2. アバター
    • 名無しさん
    • 2021年 8月 28日 1:33pm

    日本のリニアモーターカーはなぜ開通に時間がかかるのか?と言う表題ですが、日本でもすでにリニアモーターカーは、走っています。最初に走らせたのが大阪メトロ、長堀鶴見緑地線です。その後神戸市営地下鉄海岸線や 大江戸線など、沢山は知っています。これらは鉄輪式リニアという名で浮上式リニアと、区別して呼ばれます。ただリニアとだけ記載されるとこう言う間違いが指摘されます。鉄輪しきりに粟、車輪で車体を保持してリニアモーターで走るため、急勾配に強く、車体を小さくできるので「車輪を小さくして」工事費用が押さえられるのです。又車利用の自動ドアや、商品のコンベア輸送などにリニアモーター「直線に動くモーター」わ使ってドアを空けたり、商品の分別に使っています。

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