国際情勢

中国とロシアは本当に“仲間”なのか?表と裏で分かれる両国の思惑とは

中国とロシアは、対米共闘のパートナーとして表向きは緊密な関係をアピールしている。

しかしその裏では、中央アジア、北極、シベリアといった重要地域で、両国は静かな綱引きを続けている。

とくにロシアは、中国の経済力と地政学的影響力の拡大に対し、警戒心を強めているのが実情だ。

表面的なパートナーシップ

画像 : 習近平国家首席 public domain

中国とロシアは、米国を中心とする西側諸国に対抗するため、戦略的パートナーシップを強調している。

上海協力機構(SCO)やBRICSなどの枠組みを通じて、両国は経済・軍事面での協力を深めてきた。

2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアは西側の制裁を受け、中国との経済関係を強化。ロシア産エネルギーの対中輸出は急増し、2024年には中国がロシアの最大の貿易相手国となった。

また、両国は合同軍事演習を定期的に実施し、対米牽制の姿勢を明確にしている。

中央アジアでの競争

画像 : 中央アジア public domain

しかし、中央アジアでは両国の利害が衝突する。

中央アジアは、天然資源が豊富で、地政学的にも重要な地域である。

中国は「一帯一路」構想を通じて、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンなどでインフラ投資を拡大し、経済的影響力を強化している。
※一帯一路とは、2013年に中国の習近平国家主席が提唱し、2017年から本格的に推進された巨大経済構想。アジアからヨーロッパ、アフリカまでを鉄道や港でつなぎ、中国の影響力を広げようとする“現代版シルクロード”である。

画像 : 第1回一帯一路国際協力サミットフォーラムに出席した各国首脳 public domain

例えば、中国-中央アジア間のガスパイプラインは、中国のエネルギー安全保障を支える一方、ロシアの伝統的な影響力を侵食する。

ロシアは、ユーラシア経済連合(EAEU)を通じて中央アジアでの主導権を維持しようとするが、中国の経済力に押され、影響力の低下を懸念する。

特に、カザフスタンでは中国の投資拡大がロシアの不信感を招いている。

北極での対立

北極地域でも、両国の競争が顕著である。

ロシアは北極圏に広大な領土を持ち、北極海航路(NSR)の開発を進めている。気候変動による氷の融解で、NSRはアジアと欧州を結ぶ新たな貿易ルートとして注目される。

一方、中国は「氷上シルクロード」構想を掲げ、北極での資源開発や航路利用に積極的に関与しようとしている。

画像 : 氷上シルクロード (researchgate)CC BY-NC-ND 4.0

ロシアは中国の投資を歓迎する一方で、軍事・安全保障面での主導権を譲らない姿勢を示す。

例えば、2023年にロシアは、北極での中国の活動を監視する軍事拠点を強化した。

中国の北極進出は、ロシアにとって経済的機会であると同時に、安全保障上の脅威と映る。

シベリアでの懸念

シベリア、特にロシア極東地域でも、中国の影響力拡大がロシアの警戒心を誘う。

中国はロシア極東でのエネルギー・農業分野への投資を増やし、労働者や企業も進出している。

ロシア側は経済的恩恵を認めつつ、人口流出が進む極東地域での中国人の増加を懸念する。
現地では、中国企業による土地買収や労働力流入が、ロシアの主権侵害や「静かなる侵略」への不安を煽る声もある。

2024年のロシア政府の報告では、極東地域での中国の経済活動に対する規制強化が議論された。

ロシアの中国への懸念

画像 : プーチン大統領 public domain

ロシアは、中国の経済力と人口規模に圧倒されることを警戒している。

ロシアのGDPは中国の約10分の1であり、軍事力でも核戦力を除けば中国が優位になりつつある。中国の技術力やグローバルな影響力の拡大は、ロシアにとって脅威である。

ウクライナ戦争でロシアが国際的に孤立する中、中国への依存度が高まるが、これはロシアにとって「不平等なパートナーシップ」と映る。
ロシア国内の専門家の間では、中国が将来的にロシアを「従属国」化するとの懸念も浮上している。

このように中国とロシアは、対米共闘のパートナーとして協力する一方、中央アジア、北極、シベリアでの利害対立が両国の関係に影を落とす形となっている。

表面的な友好関係の裏で、両国は競争相手としての側面を強めているのだ。
今後、両国の関係は、共通の敵である米国への対抗意識と、相互の不信感の間で揺れ動くであろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. ジンバブエの過酷な現在 【アフリカ食糧庫からの転落、ムガベ独裁後…
  2. 【世界で最も奇妙な食事をした男】ミシェル・ロティート ~ガラスや…
  3. 中国の教育事情 「かつての一人っ子政策の弊害」
  4. 兵馬俑で「エアジョーダン」が出土した!?
  5. 【王国・帝国・公国】国の呼び方の違いの意味を調べてみた
  6. 【RRR】 インド独立の英雄コムラム・ビーム 「その生涯をたどる…
  7. カラカウア国王について調べてみた【幻のハワイ,アジア連合】
  8. アメリカ海軍の原子力空母について調べてみた

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

関ヶ原の戦い!本当の裏切り者は誰だったのか? 【毛利輝元、吉川広家 編】

日本を東西に分けた天下分け目の関ヶ原の戦い。序盤は兵数、布陣共に西軍が有利であったが、徳川家…

江戸城内での刃傷事件「松平外記事件」 千代田の刃傷

江戸城内での刃傷事件江戸城内での刃傷事件は過去に7件起きており(※9件または11件とも)…

長屋王の変と藤原広嗣の乱 「奈良時代を皇位継承をめぐる内乱から見る」

政争が続いた奈良時代奈良時代は遣唐使を復活して唐に学生や僧侶を留学させたので、さまざまな文物が日…

神話や伝承に登場する『ラクダの怪物』 ~ノアの方舟に乗れなかった巨獣

ラクダは、主に砂漠に生息する、背中のコブが特徴的な哺乳類である。古来より人類はラクダ…

中国人富裕層がタワマンを爆買いする理由とは? ~安全保障上の3つの懸念

東京のタワーマンション(以下、タワマン)を、中国人富裕層が次々と買い漁る現象が、近年注目を集めている…

アーカイブ

PAGE TOP