
画像 : 2018年時点の一帯一路主要プロジェクト地図。鉄道、パイプライン、港湾、発電所の分布を示す『Infrastrukturatlas』 CC BY 4.0
中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」。
アジア、アフリカ、欧州を陸路と海路で結ぶこの壮大なプロジェクトは、発展途上国にとってインフラ整備の救世主に見えた。
しかし、その実態をめぐっては、「債務の罠」と呼ばれる巧妙な経済的侵略ではないかとの疑念が、国際社会で繰り返し指摘されてきた。
その象徴的な事例として世界に衝撃を与えたのが、インド洋の真珠と称される島国、スリランカの悲劇である。
発展への渇望と中国の統制

画像 : スリランカの位置 Connormah CC BY-SA 3.0
スリランカが中国からの巨額融資に依存し始めた背景には、長年続いた内戦による経済の疲弊と、戦後復興への焦燥があった。
当時のラジャパクサ政権は、国家の近代化を急ぐあまり、返済能力を無視した過度な借入に踏み切った。
特に、大統領の地元であるハンバントタ港の建設は、経済的合理性に欠けるとの指摘が当初からなされていた。
しかし、中国側は寛大な融資条件を提示する一方で、結果としてスリランカ政府を「中国マネー」への強い依存状態へと導いていった。
国際社会が危惧した通り、港の稼働率は低迷し、スリランカはまたたく間に返済困難な債務を抱え込むこととなる。
資金提供という名の「支援」は、いつの間にか受取国の首を絞める「統制」の手段へと変貌を遂げたのである。
主権の剥奪と港湾の統制

画像 : 中国化するスリランカのハンバントタ港 Deneth17 CC BY-SA 3.0
2017年、ついに最悪の事態が現実のものとなった。
借金の返済に行き詰まったスリランカ政府は、債務の株式化という名目のもと、ハンバントタ港の運営権を中国企業に99年間にわたって貸与することを決定した。
これはまるで事実上の「租借地」のようなものであり、一国の主権が経済力によって奪われた歴史的な瞬間であった。
この港は、インド洋の主要航路に位置する地政学的な要衝である。
中国はこの拠点を手に入れたことで、単なる商業港としてだけでなく、将来的な軍事拠点としての活用も視野に入れていると見られている。
一帯一路が掲げる「共同繁栄」というスローガンの裏で、受取国は自国の土地と資源を担保に差し出し、中国の軍事・政治的影響力の下に置かれることになったのだ。
国民の困窮と独裁的投資への統制
経済的侵略の影響は、国家レベルの安全保障に留まらず、国民の生活を直撃した。
2022年、スリランカは深刻な外貨不足からデフォルト(債務不履行)に陥り、燃料や食料、医薬品の不足が深刻化。
国民の不満は爆発し、大規模な抗議デモによって大統領が国外逃亡を余儀なくされる事態にまで発展した。

画像 : 大統領府前に集まる市民(2022年)AntanO CC BY-SA 4.0
一帯一路による投資は、透明性に欠けることが多く、受け入れ側の独裁的な政権や汚職と結びつきやすい。
スリランカのケースは、一部の権力者が目先の利益と引き換えに国家の未来を売り渡した結果、国民がその重すぎる代償を払わされるという教訓を世界に示したのである。
中国による「統制」は、インフラの支配を通じて、その国の政治経済そのものを内部から崩壊させる危険性を孕んでいる。
スリランカの悲劇は、一帯一路がもたらす「甘い誘惑」の終着点である。
債務を通じて影響力を拡大する「新たな形の植民地主義」とも評されるこの構図に、国際社会はどう向き合うべきか。
ハンバントタ港を巡る攻防は、単なる一国の経済破綻ではなく、現代の覇権争いにおける生存戦略の最前線なのである。
参考 :
Sri Lanka Ministry of Finance and Treasury, Public Debt Summary
Reuters, Sri Lanka committed to repaying debt within 2027-2042 schedule, president says, March 6, 2024 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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