2024年3月、アメリカ在住の中年男性が、加熱不足のベーコンを食べた後に脳に寄生虫感染症を発症したことが判明した。
その寄生虫を調べてみると、なんと主にブタに寄生する条虫(サナダムシ)だったのである。
男性の脳にブタの寄生虫!
この52歳の男性は、サナダムシの一種である有鉤条虫 (ゆうこうじょうちゅう)の幼虫に寄生されていた。
この寄生虫は本来ブタに寄生するものだが、十分に加熱されていない豚肉を食べたり、虫卵を含んだものを誤って口に入れてしまったりすることで、人間にも感染することがある。
また、すでに寄生虫に感染している人の糞便を介して感染する可能性もあり、具体的にはトイレの衛生管理などが悪い場合、虫卵を含む糞便から感染してしまう場合もあるという。
サナダムシの卵や幼虫を摂取すると、たいてい条虫症(じょうちゅうしょう)という状態になる。
条虫症では、寄生虫の幼虫が小さな袋(ほう)を作って腸の中に寄生する。
しかし、今回の男性は別の病気、嚢虫症(のうちゅうしょう)にかかっていた。
嚢虫症は、寄生虫の幼虫が筋肉や脳など、本来いるべきではない場所に入り込んでしまう感染症だ。
神経系に入り込んだ場合は、神経嚢虫症(しんけいのうちゅうしょう)と呼ばれる。
世界全体では、250万人から830万人もの人が神経嚢虫症にかかっているとされている。
この病気は発展途上国で多く見られ、特に豚が主要な食料源で衛生状態が悪い地域で発生しやすいという。
症状
神経嚢虫症の主な症状は「頭痛」と「てんかん発作」だ。
特に、てんかん発作は患者の80%ほどが経験するとされている。
症状の重症度は、脳のどの部分に寄生虫が入り込んだかによって変わってくる。
今回の男性は以前から片頭痛の持ち主だったが、ある時から頭痛の頻度と激しさが増し、普段効いていた薬も効かなくなってきたため、病院で診察を受けたという。
診察の結果、即入院
男性は診察を受けた病院で、CTスキャンを受けた。
その結果、男性の脳の「白質」と呼ばれる情報を伝える神経線維の束の中に、寄生虫の嚢胞(のうほう)が複数存在していることが判明した。
特に、脳の右下後方部分に集中的に寄生している様子が確認された。
医師たちは検査結果を深刻に受け止め、男性を緊急入院させる措置を取り、さらにMRI検査も行った。
その結果、脳の外側の層である灰白質の前頭部と中部にもさらに嚢胞が見つかり、脳自体も浮腫 (むくみ)を起こしていることがわかった。
これにより、男性は「神経嚢虫症」と診断された。
感染経路と原因
2024年3月7日に発行された「American Journal of Case Reports誌」の症例報告によると、この男性の感染経路には特に変わった点はなかったようだ。
例えば、最近海外旅行や農場などに行った形跡はなく、住居も近代的で衛生的だったそうだ。
しかし、男性は長年「十分に火が通っていない柔らかいベーコンを好んで食べる習慣」があったという。
アメリカ食品医薬品局 (FDA) は、豚肉を少なくとも145度になるまで加熱調理することを推奨している。
ベーコンは薄切り肉のため、正確に温度を測るのが難しいが、アメリカ農務省(USDA)によると「カリカリになるまでしっかり焼けば、安全な温度に達している」としている。
今回の症例報告を担当した医師たちは、男性の食習慣が最初の条虫症の感染源となり、さらにトイレ後などの手洗いが不十分だったために、嚢虫症にも感染してしまったのではないかと推測している。
治療経過と医師の見解
適切な治療により、男性は脳の神経嚢虫症から回復を遂げている。
先のレポートによると、寄生虫による病変の縮小を促す駆虫薬と抗炎症薬を用いた治療が成功し、頭痛の症状も改善したという。
医師たちは「一般的なアメリカ人は神経嚢虫症に感染する心配はない。海外旅行以外の要因で神経嚢虫症に感染するケースは非常に稀であり、アメリカではこれまで確認されていない」とコメントしている。
さいごに
今回の症状は稀なケースであるが、豚肉はしっかりと火を通したほうが安全だと筆者は思う。
また、本稿とは関係ないがベーコンなどの加工肉自体の摂取量は控え目にしたほうが、健康には良さそうに感じる。
なお、本稿は情報提供のみを目的としており、医学的なアドバイスを提供するものではないので、疑問などあれば、最寄りの医療関係者にお尋ねいただきたい。
参考 :
American Journal of Case Reports | Neurocysticercosis Presenting as Migraine in the United States
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