宇宙

SLIM発電開始!逆さに着陸したJAXAの小型月着陸実証機(SLIM)が目覚め、新たな画像を送信

2024年1月28日に、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、月面に着陸した小型月着陸実証機(SLIM)の運用を再開し、SLIMと地球の通信を再確立したと発表した。

またJAXAは、運用再開後のマルチバンド観測を行い、観測対象の1つ、トイプードル(後述)を観測した結果の画像をX(旧ツイッター)へ投稿した。

画像: SLIM外観(前面に太陽電池パネルあり) credit by ©JAXA

SLIMは1月20日、月の表側で、赤道よりやや南の「神酒(みき)の海」にあるSHIOLI(しおり)クレーター付近に着陸した。

しかし、着陸直前に2基あるメインエンジンのうち1基が破損し、太陽電池パネルが西側を向く、「逆さま」の姿勢で着陸したため、太陽電池の発電ができず、運用再開に向けて、地上からのコマンドによって電源が切断されていた。

JAXAによると28日午後11時ごろ、SLIMとの通信が回復し、着陸後から約9日ぶりの運用再開となった。

そして、太陽電池の発電が開始されたため、マルチバンド分光カメラ(MBC)による月面の岩石の観測も再開された。

SLIMは今後数日間、月面での観測を行う予定だという。

待望の発電開始

JAXAは、太陽の位置が変わり、太陽電池パネルが太陽光を受け取れるようになるのを待ち、電源が復旧するとSLIMが自動的に起動するように設定していた。

これにより、JAXAはSLIMが起動していることに気づくことができ、通信系の再確立後、運用を再開することができた。

そして、すでにマルチバンド分光カメラでの本格的な観測が始まっている。

観測の再開・観測対象は犬種でネーミング

画像: 1月25日に公開された、SLIM搭載マルチバンド分光カメラ(MBC)による月面スキャン撮像モザイク画像の拡大図。モザイク画像の右側の灰色の部分はスキャン運用を途中で切り上げたためにデータのない部分。 credit JAXA、立命館大学、会津大学

SLIMは、着陸地点の周囲にある月の起源を探るために、興味深い岩石の検査を目的としている。

257枚の低解像度のモノクロ写真を合成して作成された風景画像をもとに、各岩石に愛称を付けて分類し、名前によって大きさの相対的な違いをスムーズに伝えることを目的としているという。

具体的には、JAXAは観測対象の岩の大きさがわかりやすいように、それぞれ犬種でネーミングしているようだ。
たとえば、大きな岩は「セントバーナード」、小さな岩には「シバイヌ」と名付けられている。

「発電開始後」初の今回は「Toy Poodle」という岩を撮像した画像が、X(旧Twitter)で公開された。

画像: マルチバンド観測のファーストライトにて「Toy Poodle」を観測。 credit by ©JAXSA

100℃以上の高温にも耐え抜いた

月では、昼夜の表面温度変化も大きく、赤道付近で昼は約110℃、夜は約マイナス170℃となる。

SLIMに搭載されている観測機器の半導体や精密機器の故障が懸念されていたが、見事に生き延びた。

NASAの月衛星が、SLIMを捉えていた

画像: NASA の月偵察周回無人衛星は、2024年1月24日に月面のJAXAのSLIMの画像を撮影した。 credit by ©NASA

2024年1月25日、NASAの月周回無人衛星「LRO」が、SLIMの着陸地点のすぐ上空を飛行し、SLIMの写真を撮影した。

SLIMは非常に小さな白い点としてを確認された。

着陸の前後で、月の表面に変化が生じたことも画像から確認できる。
これは着陸時のエンジン噴射によるものだという。

NASAによって観測されたおかげで、SLIMのピンポイント着陸の精度が改めて確実性を増した形となった。

今後の予定

本来、SLIMの運用は、月面の「昼の間の数日間」を予定されており、昼夜が約2週間ごとに訪れる月では、2月が夜になるとみられ、その前にSLIMを休眠状態にする予定になっている。

夜になると今度はマイナス100度以下の極めて厳しい環境となるため、限られた時間の中で「重要な6つの岩」をMBCで撮像するなど、精密なデータを撮ることが最優先となる。

月面の岩の分析が進むことで、月の進化や起源を知るための貴重な情報が得られると期待されている。

さいごに

トラブルはあったものの、想定通りに太陽電池パネルに太陽光が当たり、発電が開始された。

太陽電池発電と観測再開によって、JAXAは当初計画していたことのほとんどを成し遂げたのではないだろうか。

参考
挑戦的なSLIM電源系! | 宇宙科学研究所
NASA’s LRO Spots Japan’s Moon Lander

lolonao

lolonao

投稿者の記事一覧

フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 恐竜絶滅はネメシスの怒り!?「驚くべき恒星の事実」
  2. 人は宇宙服を着ずに、宇宙でどれくらい生きられるのか?
  3. 【宇宙のガソリンスタンド計画】ついに始動! 「死んだ衛星」に燃料…
  4. 【史上初】 火星を飛行したヘリコプターが損傷し、ミッション終了へ…
  5. 【アメリカ政府、初の宇宙ゴミ罰金】 衛星テレビ会社に15万ドルの…
  6. SpaceX初、民間企業の月着陸機、数週間以内に打ち上げへ
  7. 「2024年も続くアメリカのハイテク企業の人員削減」 NASAの…
  8. 【欧州の大型廃棄衛星が今月地球へ落下!】 燃え尽きるまでの軌跡を…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

『大正三美人』九条武子 ~女子教育家・歌人として慈善事業に捧げた生涯

九条武子(くじょう たけこ)は、京美人の代表格として『大正三美人』の一人に数えられる女性である。…

『古代中国』夫婦の寝室に侍女がいた理由とは?~ただの世話係じゃなかった

夫婦の寝室に侍女 奇妙な風習の理由現代の感覚では理解しがたいが、古代の中国において、夫婦…

葉隠(はがくれ)【戦前は軍国主義のそしりを受けるも忠義を説いた書】

武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり「葉隠(はがくれ)」と言えば多くの方が、あまりに有名な一文「武士…

【京都歴史観光】平安京の北方の守護神「鞍馬寺」から、都の水の神を祀る「貴船神社」をめぐる

794(延暦13)年から約1200年にわたり、日本の都として君臨した平安京・京都。日本で本格…

兼好法師に学ぶ 心の健康法 「病を受くる事も、多くは心より受く」

平安の世から現代に来た私には、現代の人々は著しく心の健康を損なっているように見える。そんな人…

アーカイブ

PAGE TOP