阿蘇にピラミッドを建てた団体
天下一家の会 は、以前に日本で起こった廃墟ブームの際によく取り上げられていた、熊本県の阿蘇に巨大なピラミッドの形をした建物を建設した団体です。
1997年にこの建物は取り壊されて現在は無くなっていますが、1978年に13億円を投じて造られた8階建てのビルだったと言います。
この建物は当時約180万人もの人が関わったとされる、日本最大の「ネズミ講」組織・「天下一家の会」の本部として建てられたものでした。しかもこれ以外にも全国に16ケ所もの施設を建造し、そのすべてが同じく廃墟になったとされています。
そんな「天下一家の会」と180万人もの人を巻き込んだとされる事件を調べてみました。
ネズミ講の元祖
「天下一家の会」は1967年に、内村健一という戦中に特攻隊の生き残りだった人物が熊本県上益城郡甲佐町で設立した団体でした。この団体は別名を第一経済相互研究所と言いました。
内村は、この団体において日本で初となる「ネズミ講」を始めたとされています。
「ネズミ講」とは生き物のネズミの繁殖力の強さから呼ばれる仕組みの俗称で、正式には「無限連鎖講」とされています。
この内容は、ある組織の会員となった人間が、その下の子会員を勧誘し、その子会員がさらに孫会員を勧誘しという連鎖を繰り返すことで、最初の会員は自分の5世代下の会員から金品を受け取れるとした勧誘ビジネスの元祖でした。
仮に子会員を4人ずつ勧誘し、各人がそれぞれ1,000円を出資したとすると、5世代経過時点では1,024人分の金額が最初の人に入ると謳われており、計算上では1,024,000円にも上るものでした。
こうして早い者勝ちということで、180万人もの人がお金を払って会員となったのでした。
しかし、当然早期に会員になった人以外は、最初のお金を支払っただけで戻ってくることもなく、一気に社会問題となりました。
脱税容疑での逮捕
現在ではこうした「ネズミ講」は、この事件が起こったこともあり、計算すればすぐに日本どころか世界中の人間を覆いつくすことになることが知られ、前提としてそもそも成立しないと思われるかもしれません。
しかし、その当時にはこうした「ネズミ講」を取り締まる法律そのものが存在せず、熊本国税局による所得税法違と、それに続く熊本地検の脱税容疑で、1972年にかろうじて内村を逮捕できたのでした。
その後、この事件を教訓として内村の逮捕から7年後の1979年にようやく「無限連鎖講の防止に関する法律」が施行されました。
以後は規制されることになりましたが、内村に対しては「法の不遡及」の原則から適用されませんでした。
逮捕容疑の検討
国や自治体の公的機関においては、内村に対する「詐欺罪」や「出資法違反」の適用の是非についても検討されましたが、どちらも立件されていません。
これは「詐欺罪」の成立には「故意による欺罔が必要」であると考えられるためと思われます。内村の「ネズミ講」の場合でも、加入した会員が順当に会員を増加させることが出来れば、確かに報酬を得ることは可能であったため、これには該当しないと判断されたようです。
続く「出資法」においても、熊本地検が当時の大蔵省と共同で「天下一家の会」の入会金について検討を行ったものの、出資金の返還を確約している訳ではなく、子会員以降からの送金で成立していることから、これを出資金と見做すことにも無理があると判断されたものと考えられています。
ネズミ講とマルチ商法・MLM
「天下一家の会」で問題となった「ネズミ講」は現在の「マルチ商法・MLM(マルチレベルマーケティング)」と会員組織を用いる点で類似の商法ではありますが、大きく異なる点があります。
「ネズミ講」では金品そのものを扱うのに対して、「MLM」は何らかの「商品の販売」を介在させている点です。
ここが大きな違いとなっており、一概に「マルチ商法・MLM」が「ネズミ講」のように違法とは断定できない点となっています。
但し、商品が介在したとしても、商品本来の価値に比べあきらかに販売価格が高価なものは「ネズミ講」と見做されます。
「マルチ商法・MLM」は法律上では「連鎖販売取引」と表現されており、これは「特定商取引法(特商法)の第33条」で規定されている販売の仕組みであり、その法律に則っている限りにおいては「違法」とは言えないため、現在でも複数の団体・会社が活動しています。
おいしそうな話には用心するしかないようです。
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