イランへの米軍空爆で中東情勢が緊迫の度を増している。
日本の外務省は現地情勢の悪化を受け、イラン全土の渡航危険情報を最高レベルの退避勧告(レベル4)に引き上げた。
しかし一方で、中国に対しては重大事件が報じられても危険情報すら発出されていない。
なぜ対応にこれほどの差があるのか。その背景について、いくつか考えてみたい。
イランへの渡航レベル4 引き上げの背景

画像 : イランの首都テヘラン wiki c Amir1140
外務省は2025年6月13日以降、イスラエルによるイランへの攻撃と、それに続く両国間の軍事衝突の激化を受け、イラン全土の危険情報をレベル4に引き上げた。
具体的には、パキスタンやイラクとの国境地帯での治安悪化、テロ組織や麻薬密輸組織との衝突、さらにはイランとイスラエルの報復攻撃による死傷者の発生が理由として挙げられている。
このような明確な軍事衝突や治安の急激な悪化は、邦人の生命に直接的な脅威をもたらすため、外務省は迅速に最高レベルの警告を発出した。
レベル4は「渡航中止」ではなく「退避」を求める最も厳しい勧告であり、在留邦人に対しては速やかな出国を促すものである。
この対応は、邦人の安全を最優先に考えた危機管理の一環と言える。
中国への危険情報未発出の理由

画像 : 外務省庁舎 wiki c Rs1421
一方、中国については、新疆ウイグル自治区とチベット自治区を除き、危険情報が発出されておらず、レベル0(危険情報なし)が維持されている。
これは、2024年に発生した日本人学校児童刺殺事件(広東省深圳市)や、日本人母子襲撃事件(江蘇省蘇州市)など、邦人に対する凶悪事件が続いているにもかかわらず、疑念を感じる人も少なくなかろう。
外務省は総合的な判断として、犯罪統計や事案の概要を考慮しつつ、危険レベルの引き上げを見送っているとみられる。
具体的には、中国全土で治安が一律に悪化しているわけではなく、事件が局所的かつ孤立したものであると評価している可能性がある。
また、日中間の経済・外交関係を考慮し、過度な警告が両国関係に悪影響を及ぼすことを避けたい意図も推測される。
外務省の海外安全情報の信頼性
外務省の海外安全情報は、邦人の安全確保を目的に、中長期的な治安情勢や政治・社会状況を総合的に判断して発出される。
しかし、その信頼性については、いくつかの課題が浮かび上がる。
第一に、危険レベルの設定基準が曖昧で、国民に十分に説明されていない点だ。
イランのように明確な軍事衝突があれば迅速に対応するが、中国のような複雑なケースでは、事件の背景(反日感情や個別犯罪)や外交的配慮が判断に影響を与える可能性がある。これは、情報の客観性や一貫性に対する疑問を生む。
第二に、情報の更新頻度や具体性が不足している場合がある。
中国の危険情報は今年になって一回も更新されておらず、最新の事件を反映していない。
これに対し、国民はリアルタイムでの情報提供を期待しており、外務省は現実を認識していないといった批判も聞かれる。
海外邦人の安全確保のために

画像 : 北京市内 故宮博物院の正門となっている神武門 wiki c kallgan
海外邦人の安全を確保するためには、外務省がより透明性のある情報発信を行う必要がある。
危険レベルの設定基準を明確化し、事件ごとの評価プロセスを公開することで、国民の理解を得やすくなる。
中国の場合、反日感情によるリスクや不当拘束の可能性を具体的に記載し、渡航者や在留邦人に予防策を促すことが重要だ。
さらに、在外公館を通じた現地情報の収集・発信を強化し、緊急時の退避支援体制を整えることも不可欠である。
外務省がイランにレベル4を適用したのは、明確な軍事衝突による危険性の急上昇が理由であり、迅速な対応は邦人保護の観点から適切だった。
一方、中国への危険情報未発出は、事件の局所性や外交的配慮が背景にあると推測されるが、国民への説明不足が不信感を招いている。
海外安全情報の信頼性を高めるためには、基準の透明性、更新の迅速性、他国との整合性を強化する必要があるだろう。
邦人の安全を最優先に、客観的かつタイムリーな情報提供が求められる。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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