
画像 : 中国調査船 フリーマントルにおける雪竜(2016年)Bahnfrend CC BY-SA 4.0
海上保安庁の発表によれば、中国の海洋調査船が先月下旬から、鹿児島県奄美大島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、同意のない海洋調査活動を繰り返していることが確認された。
これは、日本の主権的権利が及ぶ海域における国際法上の問題行為であり、先月下旬からの確認だけでも6回目に上る異常な頻度である。
EEZ内での海洋調査活動には、沿岸国の事前の同意が必要となるのが国際海洋法上の原則である。
しかし、中国調査船はこれを無視し、無断でワイヤーのようなものを海中に投入するなど、調査とみられる行動を続けている。
この海域は、日本の安全保障上も重要な位置にあり、こうした活動は単なる科学的調査の範疇を超えた意図的な示威行為と受け取られている。
日本政府は外交ルートを通じて中国側に厳重に抗議し、活動の中止を求めているが、中国側は「通常かつ合法的な活動である」との主張を繰り返しており、事態の改善には至っていない。
この一連の行動の背景には、海洋権益の拡大と軍事的な情報収集という、中国の明確な国家戦略が存在しているとみられる。
地理的な重要性と軍事的な狙い

画像 : 日本の排他的経済水域の地図(2016年)CC BY 4.0
中国調査船が特に奄美大島沖のEEZを頻繁に活動海域としている点には、地理的、軍事的な重要性が深く関わっている。
奄美大島は、九州と沖縄を結ぶ「南西諸島」の一部であり、この海域は東シナ海から太平洋へ抜ける重要な航路に面している。
潜水艦や水上艦艇が太平洋へ進出する際の要衝であり、海流や海底地形などの海洋情報は、軍事作戦において極めて重要な価値を持つ。
中国海軍は近年、太平洋へのアクセスを重視しており、今回の調査活動はそのための海洋環境データの収集が主要な目的である可能性が高い。
具体的には、潜水艦の運用に不可欠な水温、塩分濃度、音波伝播速度などのデータを把握しようとしていると考えられる。
これらの情報は、対潜水艦作戦や自国の潜水艦の隠密行動に直結するからだ。
また、頻繁な活動自体が、日本の領土・領海に対する「現状変更の試み」を国際社会に既に認めさせるための「サラミ・スライシング」戦略の一環である可能性も否定できない。
わずかながらも侵犯行為を繰り返すことで、既成事実を積み重ね、日本の対応能力と国際的な関心を試しているとの見方もある。
主権侵害の継続と日本の対応

画像 : 奄美大島 マネン崎展望所から望む大島海峡(瀬戸内町) 岩元剛 CC BY 3.0
中国によるこの種の無許可調査は、日本のEEZ内での主権的権利の侵害であり、国際海洋法上の義務違反にあたる。
国際法は、沿岸国にそのEEZ内での資源の探査、開発、保全および管理に関する主権的権利を認めている。
海洋科学調査も、この主権的権利の行使に影響を及ぼすため、沿岸国の同意が必要とされているのだ。
日本政府としては、海上保安庁の巡視船による監視と警告を継続するとともに、外交ルートを通じて中国側に強く中止を求め続ける必要がある。
しかし、重要なのは、国際社会に対し中国の行動が「一方的な現状変更の試み」であり、「国際法に反する行為」であることを明確に訴え、連携を強化することである。
海洋安全保障に対する日本の関与と決意を示すためにも、毅然とした態度での対応が求められる。
この問題は、日中二国間だけの問題ではなく、「法の支配」に基づく国際秩序の維持という観点から、国際社会全体で取り組むべき課題である。
中国の調査船活動の頻度が増す中、日本は「海における自由と安全」を守るための具体的な抑止力と外交力を強化していく必要があるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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