中国は21世紀に入り、海洋軍事戦略を急速に強化している。
経済成長と資源需要の増大に伴い、海洋進出は中国にとって不可欠な国策となった。
この戦略の中核に位置するのが「列島線」構想である。

画像 : 第一列島線から第三列島線 草の実堂作成
第一列島線は日本列島、台湾、フィリピンを結ぶ近海防衛線であり、第二列島線はグアムやパラオを含む中距離抑止線である。
そして、第三列島線は、ハワイからニュージーランド、アフリカ東岸に至る広大な遠洋防衛圏を指す。
この第三列島線は、中国の海洋覇権への野望を象徴する。
中国人民解放軍海軍(PLAN)は、空母や潜水艦の増強を通じて、太平洋とインド洋を結ぶ戦略的要衝を抑えることを目指している。
これは、米国の海洋支配に対抗し、グローバルな影響力を確立するための布石である。
第三列島線の地理と軍事的意義

画像 : 中国軍の空母「遼寧」(りょうねい)wiki c Baycrest
第三列島線は、地理的に極めて広範である。
具体的には、ハワイ東部から南下し、ニュージーランドを通過、さらにはインド洋のアフリカ東岸までを結ぶ仮想の防衛線である。
この線は、中国の遠洋進出能力を試す指標であり、米国の同盟網への挑戦を意味する。
軍事的に、第三列島線は中国海軍の遠海作戦能力の拡大を示す。
近年、中国は空母「遼寧」「山東」「福建」を運用し、航母打撃群の遠洋展開を強化している。
また、戦略核潜水艦や対艦ミサイルの配備も進む。
これにより、中国は第三列島線内で米国やその同盟国への抑止力を確立しつつある。
加えて、経済面では「一帯一路」構想と連動し、沿岸国の港湾インフラを確保することで、軍事・経済の両面で影響力を拡大している。
歴史的背景と戦略の進化

画像 : 劉華清(1955年)public domain
列島線構想は、冷戦期の米ソ対立に影響を受けた。
1980年代、劉華清(りゅうかせい)海軍司令官は、米国のシーパワー理論に学び、中国の海洋戦略を体系化した。
彼は、第一列島線を2000年までに、第二列島線を2020年までに、第三列島線を2049年までに支配するという、長期計画を提唱した。
そしてこの計画は、中国の経済力と技術力の向上とともに現実味を帯びてきた。
2010年代以降、中国は南シナ海での人工島建設やジブチでの海外基地設置など、第三列島線を見据えた動きを加速させている。
これらは、単なる軍事拠点の確保に留まらず、エネルギー供給路の保護や国際貿易の支配を企図する。
中国の海洋戦略は、歴史的な「陸の大国」から「海の大国」への転換を明確に示している。
国際社会への影響と課題

画像 : 2021年9月24日にワシントンD.C.のホワイトハウスで開催された初の対面による日米豪印戦略対話 public domain
第三列島線の追求は、国際社会に大きな波紋を広げている。
米国や日本、オーストラリアなどの同盟国は、中国の海洋進出を「ルールに基づく秩序」への挑戦とみなし、対抗策を講じている。具体的には、自由航行作戦(FONOP)や、QUAD(日米豪印)協力の強化が挙げられる。
一方、中国は、第三列島線を「防衛的戦略」と主張し、海洋権益の保護を強調する。
しかし、南シナ海や東シナ海での領有権争いを見る限り、周辺国との緊張は高まる一方である。
また、第三列島線の維持には膨大な軍事費と技術革新が必要であり、国内経済の減速や技術的障壁が課題となる。
国際的な孤立を避けるため、中国は経済的結びつきを強化しつつ、軍事力を背景に影響力を拡大する戦略を続けるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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