近年、中国において外国人、特に日本人が「スパイ罪」で拘束されるケースが増加している。
最近では、旅系の人気YouTuberが中国・新疆ウイグル自治区を取材した後、約4か月間投稿が途絶え、安否を不安視する声が広がるなど、一般人にもリスクが懸念されるようになっている。
その背景には、国家安全法の強化や国際関係の緊張がある。
スパイ罪の適用範囲は年々拡大し、曖昧さを増すなかで、日常的な行為であっても当局の判断次第で「スパイ行為」と見なされる可能性がある。
今回は、中国でスパイ罪による拘束を回避するために必要な具体的な対策を、背景とともに解説する。
中国のスパイ罪とその背景

画像 : 習近平国家首席 public domain
中国の「国家安全法」や「反スパイ法」は、国家の安全を脅かす行為を厳しく取り締まる法律として、2014年以降強化されてきた。
これらの法律では、情報の収集や伝達、さらには特定の施設への接近が「スパイ行為」とみなされる場合がある。
特に、軍事施設や政府機関の周辺での写真撮影、ドローン使用、または機密とみなされる情報の所持が問題視される。
実際、2015年以降、複数の日本人がスパイ罪で拘束され、長期の拘留や裁判を経て釈放されたケースが確認されている。
これらの事例は、中国政府の監視体制の強化と、外国人への警戒心の高まりを反映している。
① 情報管理の徹底と事前準備

画像 : スマホ イメージ
中国を訪れる日本人がまず意識すべきは「情報管理の徹底」である。
スマートフォンやパソコンには、業務上の機密情報や政治的に敏感な内容を保存しない。
微信(WeChat)などの通信アプリは監視の対象となり得るため、重要な会話は暗号化されたアプリを使用するか、事前に内容を精査する。
また、中国入国前にデバイスを初期化し、必要最低限のデータのみを持ち込むのが賢明だ。
現地の法律を事前に調べ、軍事施設や政府関連施設の位置を確認しておくことも重要である。
特に、地方都市では、意図せず立ち入り禁止区域に近づくリスクがあるため、地図アプリを活用してルートを慎重に計画すべきだろう。
② 現地での行動に注意

画像 : スマホで撮影 イメージ
「現地での行動」も慎重さが求められる。
まず、写真撮影には細心の注意を払う。
観光地であっても、軍事施設や政府機関が近くにある場合、撮影がスパイ行為と誤解される可能性がある。
地元住民や公務員との会話では、政治や社会問題に関する話題を避け、個人的な意見を述べないようにする。
また、知人やビジネスパートナーから提供される情報や資料を受け取る際は、それが機密情報でないことを確認する。
不明な場合は、受け取りを断る勇気も必要だ。
さらに、ホテルの部屋や公共の場での会話も、盗聴の可能性を考慮して慎重に行う。
③ 緊急時の対応とサポート体制

画像 : 在中華人民共和国日本国大使館庁舎 public domain
万が一に備えて「拘束された場合の対応策」も準備しておくべきである。
まず、日本大使館や領事館の連絡先を常に携帯し、緊急時に即座に連絡できるようにする。
拘束されてしまった場合は、冷静さを保ち、供述を最小限に留める。
スパイ罪の容疑は曖昧な場合が多く、供述内容が不利に働く可能性があるためだ。
また、中国に赴く企業は事前に弁護士や専門家に相談し、緊急時の対応マニュアルを作成しておくことが推奨される。
日本政府も、渡航者向けにスパイ罪のリスクに関する情報を提供しているため、外務省や在中国日本国大使館などのウェブサイトを定期的に確認しよう。
『在中国日本国大使館』安全の手引(中国に渡航する方は必ずお読みください)
https://www.cn.emb-japan.go.jp/files/100764689.pdf
自由への渇望と政府の統制

画像 : 北京市街地 wiki©N509FZ
中国のスパイ罪問題は、同国の統制強化と国際社会との緊張関係を象徴している。
日本人としては、自由な移動や情報収集を求める一方で、現地の法制度や文化を尊重し、自己防衛のための知識と準備が不可欠である。
スパイ罪の適用は、時に政治的な意図を含む場合もあるため、個人の行動が国家間の問題に発展するリスクを常に意識する必要がある。
渡航前の準備、現地での慎重な行動、そして緊急時の対応策を組み合わせることで、拘束リスクを最小限に抑えるべきだろう。
参考 : 『在中国日本国大使館』安全の手引 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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