中国が台湾を手中に収めようとすれば、それは単なる政治的野心だけでは済まない。
現実には、気象条件や台湾の地形、そして中国軍の船の数が足りないという、極めて具体的なハードルが立ちはだかる。
今回は、政治的な駆け引きを脇に置き、この3つの「物理的壁」にスポットを当て、その困難さを紐解いてみよう。
気象条件:台湾海峡の「自然の要塞」

画像 : 台湾海峡 public domain
まず、台湾侵攻の最大の敵は「天候」だ。
台湾と中国本土を隔てる台湾海峡は、幅約130~180キロメートル。距離だけ見れば大したことはないように思えるが、ここは気象条件が極めて厳しいことで有名だ。特に注目すべきは、年間を通じて安定した上陸可能な期間が極端に短い点だ。
春から夏にかけては台風シーズンが到来し、強風と高波が海峡を荒れ狂う。特に7月から9月は台風のピークで、軍艦や輸送船がまともに航行できる状況ではない。
一方、冬場は北東モンスーンが吹き荒れ、風速20メートルを超える日も珍しくない。
こうした条件下で、大規模な船団を編成し、兵士や物資を運ぶのは至難の業だ。
軍事専門家によれば、上陸作戦に適した「穏やかな天候の窓」は、年間でわずか2~3カ月しかないという。
つまり、中国が侵攻を計画するなら、この短いタイミングを狙わねばならず、準備や動員のスケジュールがバレやすくなる。
自然が台湾を守る「見えない盾」となっているのだ。
台湾の地形:天然の「防御ライン」
次に、仮に中国軍が台湾海峡を渡り切ったとしても、台湾島そのものが「侵攻を拒む地形」でできている。

画像 : 太魯閣国家公園 wiki © Fred Hsu
台湾は島の70%以上が山岳地帯で、特に東部には標高3,000メートルを超える中央山脈が連なる。
これが天然のバリアとなり、上陸後の進軍を阻む。
上陸可能なビーチは西海岸に限られるが、ここもまた問題だらけだ。
海岸線の多くは泥だらけの干潟や岩場で、重い戦車や装甲車を展開するには不向き。さらに、台湾軍はこうした限られた上陸地点に防御陣地を集中させており、侵攻側にとっては「袋のネズミ」状態になりかねない。
都市部に目を向けても、台北のような大都市はビルが密集し、ゲリラ戦に最適な環境だ。過去の歴史を見ても、山岳地帯や市街地での戦闘は守備側に圧倒的に有利である。
中国軍がどれだけ兵力を投入しようと、地形の壁に足を取られ、泥沼化するのは目に見えている。
中国軍の船不足:数が揃わない現実
最後に、中国人民解放軍の「船の数」が決定的なボトルネックだ。

画像 : 中華人民共和国の航空母艦「山東」 wiki © Tyg728
台湾侵攻には、数十万の兵士と膨大な物資を運ぶ輸送船団が必要だが、現状の中国海軍にはそのキャパシティが不足している。
2025年現在、中国海軍は確かに成長を遂げ、空母や駆逐艦などの戦闘艦を増強してきた。しかし、上陸作戦に不可欠なのは「揚陸艦」や「輸送船」の数だ。
中国のシンクタンクの試算では、台湾全土を制圧するには最低でも20万~30万人の兵力を一度に上陸させる必要があり、そのためには数百隻規模の船団が求められる。ところが、中国の揚陸艦は2023年時点で約50隻程度しかなく、輸送船を含めても到底足りない。
さらに、こうした船は戦闘艦に比べて防御力が低く、台湾軍のミサイルや潜水艦の餌食になりやすい。
仮に船団を組めたとしても、護衛する戦闘艦の数が追いつかず、壊滅的な損失を被るリスクは高い。
数を揃えるにはまだ数年、いや十数年の準備が必要だろう。
中国の野望を阻む「現実の壁」
気象条件が作戦のタイミングを縛り、台湾の地形が侵攻軍を跳ね返し、船の不足がそもそも上陸を夢物語に変える。
これら3つの要素が絡み合い、中国にとって台湾侵攻は「絵に描いた餅」に近い。政治的な威嚇はできても、現実の軍事作戦となると話は別だ。
もちろん、中国が今後、船の増産や技術革新でこれらの壁を乗り越える可能性はゼロではない。しかし、今のところは、自然と地形、そして自らの準備不足が、台湾をがっちり守っていると言えそうだ。
果たして、この状況はいつまで続くのか? その答えは、時間と中国の執念にかかっている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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