NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」皆さんも楽しんでいますか?
第16回放送「さらば源内、見立ては蓬莱」で非業の死を遂げた平賀源内(安田顕)。エレキテル事業の失敗がトラウマとなり、孤独と狂気の末、罠にはめられ獄死して(獄中で毒殺されて)しまいます。
死を呼ぶ手袋事件(徳川家基暗殺)の黒幕が、一橋治済(生田斗真)であることを知ってしまった田沼意次(渡辺謙)は、源内にこれ以上深入りせぬよう警告しました。
それでも追及をやめなかった源内を救えば、更なる犠牲者を出すことになります。だから意次は、苦渋の決断で源内を見捨てざるを得なかったのです。
今回は諸説ある源内の最期について、巧みなアレンジがなされていました。
ここでは源内の末路に関する通説と、アレンジに込められた謎を探求してまいります。
【諸説あり】平賀源内の犯行と最期

平賀源内 wiki c
安永8年(1779年)11月20日、平賀源内は邸内で抜刀。2名を殺傷しました。
通説によると、被害者は以下の通りです。
説⑴ 門人の久五郎と、友人の丈右衛門。斬られた久五郎は死亡、丈右衛門は負傷。源内の動機は密貿易にからむ利害の対立とも、男色に関する痴情のもつれとも言われる。
説⑵ 大工の棟梁・秋田屋九五郎と、もう一人の棟梁。斬られた九五郎は死亡。もう一人は負傷。源内の動機は大名屋敷の修繕図面を彼らに盗まれたと誤解したためと言われる。
斬られたのは久五郎なのか九五郎なのか……大河ドラマでは大工の久五郎と、謎の武士(表向きは松本秀持の家臣)・丈右衛門という設定になっていました。
大名屋敷の修繕案件自体が架空であったという設定は、通説をフィクションとしてしまう大胆なアレンジと言えるでしょう。
久五郎の”煙草”は本当に煙草?
久五郎は大工じゃなくて煙草屋だ……そう笑う源内先生。どうやら久五郎の持ってくる煙草は実に美味しいらしいのです。
こう聞いて「それはいわゆる”危ない葉っぱ(麻薬)”ではないのか?」と直感したのは、筆者だけではないでしょう。
当時の日本ではほとんど出回っていないものの、例えば阿片(アヘン)は少量かつ高価ながら医療用に使われていました。また大麻(マリファナ)も古くから身近な植物として存在しています。
こうした薬物を知らぬ内に摂取させて、源内の心身を蝕んでいったのでしょう。
※あくまで大河ドラマの設定であり、実在の平賀源内が薬物中毒であったという記録は寡聞にして存じません。
「薩摩の芋は美味いのぅ」

悪事の後の焼き芋は美味い?(イメージ)
源内が非業の死を遂げた一方、平賀源内の遺作『七ツ星の龍と源内軒の仇討ち物語(仮称)』を焼き捨てる一橋治済。
その火で焼いた薩摩芋を、美味しそうに頬張る姿は、素晴らしい悪役ぶりと言えるでしょう。
「薩摩の芋は美味いのぅ」
この薩摩と言えば、琉球支配や大陸との密貿易で利益を上げていた九州の雄藩。
関ヶ原以来、反徳川幕府の筆頭格として、存在感を示してきました。
幕府の中心・御三卿(田安家・清水家・一橋家)の一人でありながら、絶えず権力への野望を燃やし、反幕勢力とすら手を組む老獪ぶりが感じられます。
久五郎を通じて平賀源内に盛った薬物も、薩摩の密貿易によって入手したのかも知れません。
七ツ星の龍とは何者?
平賀源内の書いた物語に登場する「七ツ星の龍(ななつぼしのりゅう)」。これは田沼意次がモデルと考えられます。
七ツ星とは田沼家の家紋・七曜紋。七曜(しちよう)とは日・月・火・水・木・金・土すなわち陰陽五行(いんようごぎょう)を示した7つの天体です。
また、龍とは田沼意次の幼名である龍助(りゅうすけ/たつすけ)から採っているのでしょう。
かつてのように田沼意次と平賀源内の二人が力を合わせ、死を呼ぶ手袋(にかこつけた連続暗殺犯=一橋治済)の謎を解き明かす……そんな痛快活劇でした。
これは大河ドラマのフィクションですが、七ツ星の龍と源内軒の活躍が、スピンオフ作品として登場するかも知れませんね。
エピローグ

画像:平賀源内の肖像画 木村黙老著『戯作者考補遺』(写本)より wiki c
乾坤の 手をちぢめたる 氷かな
これは獄中で寒さに震えた平賀源内の辞世です。そんな中で湯気の立つ飲み物を差し出されれば、思わず飲んでしまうでしょう。たとえそれが、毒であったとしても。
源内の亡骸が分からない以上(平秩東作が引き取った説もあるが)、何の毒であったかは分かりません。
※昔からしばしば暗殺につかわれたという鴆(ちん)毒などと考えられます。
それでも源内に毒を盛ったのが、一橋治済であることは疑いがないでしょう。
公には破傷風を発症して亡くなったとされていますが、実際のところは分かりません。
※ちなみに平賀源内が一橋治済に毒殺されたという記録もなく、真相は謎のままです。
しかしどうせ分からないなら、楽しいように考えたいもの。
きっと平賀源内は死んだことにして生き延びて、故郷の高松藩や田沼意次に匿われながら、天寿をまっとうしたと考えましょう。
終わりに
今回は平賀源内の最期に関する諸々の要素について、可能な限りで考察してみました。
かつて自分に耕書堂の屋号をつけてくれた偉大な師匠の最期を乗り越え、蔦重はより一層大きく成長することでしょう。
次回放送は1週お休みの5月4日(日)、物語の新展開が楽しみですね!
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部
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