沖縄県・尖閣諸島周辺で、中国の強硬な動きが加速している。
2025年5月に入り、中国海警局のヘリコプターによる領空侵犯、海洋調査船の無断活動、東シナ海での新たな構造物設置など、立て続けに挑発行為が確認された。
これらの行動は、中国が得意とする「サラミ戦術」の一環とされ、日本にとって看過できない脅威となっている。
この戦術は、サラミソーセージを薄く切るように、目立たない小さな行動を積み重ね、徐々に既成事実を築き上げ、相手国の実効支配を侵食する戦略だ。
中国の動きは、日本固有の領土である尖閣諸島を脅かし、さらには東シナ海全体の安全保障を揺さぶる危険性を孕んでいる。
日本は今、毅然とした対応を迫られているが、政府の「弱腰」とも揶揄される姿勢に、危機感を抱く声が広がっている。
サラミ戦術とは何か

画像 : 民間機から見た尖閣諸島。左から魚釣島、北小島、南小島(2010年9月15日)wiki c BehBeh
「サラミ戦術」とは、ハンガリー共産党の指導者ラーコシ・マーチャーシュに由来する言葉で、敵対勢力を少しずつ削り取り、最終的に大きな戦略的目標を達成する手法を指す。
外交や軍事において、一つ一つの行動は小さく、単体では戦争や大規模な対立を引き起こすほどのものではない。
しかし、これを繰り返すことで、相手国の抵抗を弱め、気づかぬうちに実効支配を確立する。
中国はこの戦術を、南シナ海での人工島建設やヒマラヤ国境での領土拡張で実践し、成功を収めてきた。
尖閣諸島でも同様の手法が見られ、2012年の尖閣国有化以降、中国海警船の航行が常態化。2024年には過去最多の355日間も航行が確認され、2025年5月時点で172日連続で海警船が尖閣周辺を徘徊している。
こうした動きは、日本側の対応を試しつつ、国際社会に「尖閣は中国のもの」と印象づける狙いがある。
最近の中国の挑発行為

画像 : 海上自衛隊も参加か 日本国海上保安庁 巡視船しきしま CC BY-SA 3.0
2025年5月3日、中国海警船4隻が尖閣領海に侵入し、そのうち1隻から発進したヘリコプターが日本の領空を約15分間侵犯した。
これは船搭載ヘリによる初の領空侵犯であり、専門家は「新たなフェーズに入った」と警鐘を鳴らす。
日本の民間小型機の飛行直後にこの侵犯が発生し、中国側は「日本機が中国の領空に不法侵入した」と逆抗議する厚顔無恥な態度を見せた。
さらに、5月7~8日には海警船2隻が領海侵入し、日本漁船を追い回すなど、攻撃的な行動が目立つ。
11日には日本の排他的経済水域(EEZ)内で、海洋調査船がパイプを海中に延ばす無断調査を行い、13日には東シナ海の日中中間線付近で新たな構造物設置の動きが確認された。
これらの行為は、単なる示威行動を超え、尖閣の実効支配を奪うための明確な意図を示している。
中国海警船の装備も脅威を増している。
2022年時点で、中国の1000トン級以上の海警船は海上保安庁の約2倍の157隻。76ミリ砲を搭載した船が常態的に尖閣周辺に配備され、海保の40ミリ砲では対抗できない状況だ。
2月6日には、76ミリ砲搭載船4隻が接続水域に入り、日本側の反応を試したとされる。
このような武装強化は、日本が軍事的対応を取らざるを得ない状況を作り出し、紛争の口実を与える可能性すらある。
日本の課題

画像 : サラミ戦術イメージ 草の実堂作成(AI)
日本政府は、航空自衛隊の戦闘機スクランブルや外交ルートでの抗議で対応しているが、効果は限定的だ。
自民党の木原稔前防衛相は、ドローンなど無人機による領空侵犯対策の検討を訴えたが、現在の海保や自衛隊の装備では、高度や速度、コスト面で中国のヘリやドローンに対抗しきれない。
海保は3万トン級の多目的巡視船の建造を計画するが、就役は2029年度と遠い。中国の動きがエスカレートする中、迅速な対応が求められるが、石破政権の「対中融和」姿勢への批判も高まっている。
中国のサラミ戦術は、尖閣だけでなく台湾や南シナ海でも展開され、アジアの力関係を変える可能性を秘めている。
専門家は、中国が台湾周辺でも同様の戦術で圧力を強め、シーレーン封鎖や心理戦を仕掛けていると指摘する。
尖閣での侵犯が常態化すれば、日本の実効支配は名ばかりとなり、国際社会での日本の立場も弱まる。
もし中国が尖閣に上陸する事態になれば、日米安保条約に基づく米国の介入が期待されるが、トランプ政権の不透明な姿勢を考えると、日本単独での対応力強化が急務だ。
日本は、防衛力の増強、ドローンや無人機の導入、海保と自衛隊の連携強化を早急に進める必要がある。
国民への情報公開も欠かせず、中国の動きを透明化し、国際社会の支持を得ることが重要だ。
サラミ戦術の「薄切り」を許せば、いずれ尖閣は中国の手中に落ちかねない。
今こそ、日本は毅然とした態度で主権を守り、領土と国民の安全を確保する覚悟が求められている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
この記事へのコメントはありません。