トランプ政権が在韓米軍約2万8500人のうち4500人を撤収し、グアムなどインド太平洋地域の他の拠点に移す案を検討している。
この計画が実現すれば、東アジアの安全保障環境に深刻な影響を及ぼし、朝鮮戦争再来のリスクが高まる可能性がある。
今回は、その背景にある政治的・軍事的な狙いと、地域にもたらす潜在的な危機について検証する。
在韓米軍の戦略的意義

画像 : 在韓米軍 public domain
在韓米軍は、朝鮮半島における北朝鮮の軍事行動を抑止する中核である。
北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、東・南シナ海での中国の覇権的行動に対抗する戦略的要衝でもある。
米軍の駐留は、韓国との同盟を象徴し、北朝鮮に対し軍事衝突のコストを明確に示す役割を果たす。
現在の兵力は約2万8500人で、地上戦力、航空戦力、情報収集能力を備え、即応態勢を維持している。
米インド太平洋軍司令官も、兵力削減が北朝鮮の侵略リスクを高めると繰り返し警告している。
トランプ氏は第1次政権時から、在韓米軍の駐留経費を問題視し、韓国に大幅な負担増を求めてきた。
財政負担の軽減と「米国第一」の政策を優先し、駐留米軍の縮小を検討した経緯がある。
今回の4500人撤収案は、対北朝鮮政策の見直しと連動し、韓国への経済的圧力を強化する意図が窺える。
グアムなどへの部隊移転は、米国の戦略的柔軟性を高める一方、朝鮮半島での即応能力を下げる可能性がある。
北朝鮮の反応とリスク
北朝鮮は、在韓米軍の縮小を米国のコミットメント低下と受け止める可能性が高い。
金正恩政権は、軍事的挑発を通じて米韓同盟の亀裂を広げようとしてきた。
2023年以降、弾道ミサイル発射や核実験の準備とみられる活動を活発化させ、米韓の対応を試している。
在韓米軍の4500人撤収は、全体の約16%に相当し、地上戦力や指揮系統に影響を及ぼす。北朝鮮がこれを好機とみて、限定的な軍事行動やサイバー攻撃を仕掛ける可能性は否定できない。
過去の例では、1994年の第一次核危機や2010年の延坪島砲撃事件で、北朝鮮は米韓の対応の隙を突いた。
地域安全保障への影響

画像 : トランプ大統領 public domain
在韓米軍の縮小は、韓国国内の政治的動揺を招く。
保守派は同盟の弱体化を懸念し、革新派は自主防衛の必要性を強調するが、韓国軍単独での北朝鮮抑止は困難である。韓国は短期間での軍事力強化が難しく、米国の核の傘への依存度が高い。
米軍撤収は、日本を含む地域同盟国にも不安を広げ、中国の影響力拡大を許す恐れがある。
中国は既に南シナ海での軍事拠点強化を進めており、米軍の後退はインド太平洋でのパワーバランスをさらに傾ける。
最悪のシナリオとして、米軍縮小が北朝鮮に誤ったシグナルを送り、軍事衝突を誘発する可能性がある。
北朝鮮は、米韓同盟の弱体化を好機とみて、限定的な攻撃や国境付近での挑発をエスカレートさせるかもしれない。
例えば、DMZ(非武装地帯)での小規模衝突が、双方の報復を招き、全面戦争に発展するリスクはゼロではない。
1950年の朝鮮戦争勃発時、北朝鮮はソ連の支援を受けて電撃侵攻を行った。
現代では核兵器の存在が抑止力となる一方、誤算によるエスカレーションの危険性は高い。
米軍の即応能力低下は、初期対応の遅れを招き、被害を拡大させる。
国際社会と日本の対応
日本は、在韓米軍縮小による直接的影響を受ける。
北朝鮮のミサイル脅威が増せば、日本海側での防衛態勢強化が急務となる。
日米同盟の枠組みも再検討を迫られ、米国のアジアへのコミットメント低下が中国やロシアの行動を助長する可能性がある。
国際社会では、国連安保理での対北朝鮮制裁強化が議論されるだろうが、中国とロシアの拒否権により実効性は低い。
韓国国内では、反米感情の高まりや自主防衛論の台頭が予想されるが、経済的・技術的制約から即座の対応は困難である。
トランプ政権の在韓米軍4500人撤収案は、財政的・戦略的再編の試みであるが、東アジアの安全保障に深刻なリスクをもたらす。北朝鮮の挑発を誘発し、米韓同盟の信頼性を損なう可能性がある。
最悪の場合、誤算やエスカレーションが朝鮮戦争再来の火種となりかねない。
米国は、短期的な経済的利益と長期的な地域安定のバランスを慎重に検討する必要がある。韓国や日本を含む同盟国は、対話と軍事態勢の強化を通じて、この危機的状況に対応しなければならないだろう。
東アジアの平和は、米軍の駐留と同盟の結束にかかっている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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