2025年7月16日、中国北京市の第2中級人民法院は、アステラス製薬の60代日本人男性社員に対し、「スパイ行為」の罪で懲役3年6か月の実刑判決を下した。
2023年3月に帰国直前に拘束されて以来、約2年半の拘束生活を経ての判決だ。
この事件は、中国で邦人拘束が増加する現状を象徴する。
日中関係の緊張や日本企業の進出に影を落とす中、なぜ邦人拘束が増えるのか。その要因を以下に分析する。
反スパイ法の拡大と不透明な運用

画像 : 習近平氏 public domain
中国は2014年に「反スパイ法」を施行し、2023年の改正でスパイ行為の定義を曖昧に拡大した。
「国家の安全と利益に関わる情報の窃取」などが対象となり、当局の裁量で広く解釈される。
この事件でも、具体的な罪状は非公開で、何がスパイ行為とされたのか不明だ。
こうした不透明さは邦人に不安を与え、2015年以降、17人の日本人が拘束され、11人が実刑を受けた。
法の曖昧な運用は、日常的なビジネス活動すら危険にさらし、今後も拘束リスクを高める。
地政学的対立と外交的圧力

画像 : 民間機から見た尖閣諸島。左から魚釣島、北小島、南小島(2010年9月15日)wiki c BehBeh
邦人拘束の背景には、日中間の地政学的緊張がある。
尖閣諸島や台湾問題を巡る対立が続き、中国は日本への牽制を強めている。
過去には、日中交流に関わる人物がスパイ容疑で拘束された例もあり、邦人が外交交渉の「道具」として利用される傾向が見られる。
日中首脳会談で日本が釈放を求めても進展は乏しく、拘束は外交摩擦の火種となっている。
地政学的な対立が続く限り、邦人拘束は増える可能性が高い。
企業活動への影響と撤退圧力
日本企業にとって、邦人拘束は重大なリスクだ。
今回の男性は中国日本商会の要職を務めたベテランだったが、帰国直前に拘束された。
反スパイ法の曖昧さは企業活動を制限し、駐在員の安全確保を困難にしている。
2025年現在、中国在住の日本人数は減少し、企業は「中国離れ」を加速させている。
投資縮小や駐在員削減が進む中、邦人拘束のリスクはさらに高まり、企業の中国進出意欲を下げる要因となる。
人権問題と国際的批判
中国の国家安全優先の政策は、人権問題とも連動する。
拘束された邦人は「監視居住」と呼ばれる過酷な環境に置かれ、肉体的・精神的負担を強いられる。
国際社会は司法の不透明性や人権侵害に懸念を示すが、中国は国内法を盾に批判を退ける。
日本政府は領事面会などで支援を続けるが、効果は限定的だ。
人権状況の悪化は、邦人拘束の増加を助長する一因であり、国際的圧力が高まっても中国の姿勢が変わる兆しはない。
今後の展望と必要な対策

画像 : 日本の製薬会社アステラス製薬の研究所「アステラス製薬御幸が丘研究センター」 public domain
邦人拘束の増加を抑えるには、日中間の対話強化と日本側の対策が急務だ。
企業はリスク管理や社員教育を徹底し、軍事施設の撮影や機密性の高い会話に注意を払う必要がある。
日本政府は邦人保護を強化するが、抜本的な解決には日中関係の改善が不可欠だ。
しかし、中国の強硬姿勢が続く限り、邦人拘束のリスクは高止まりするだろう。
企業と個人の慎重な対応が求められる中、人的交流の縮小は避けられない。
中国での邦人拘束は、法の曖昧さ、地政学的対立、経済的影響、人権問題が絡み合う複雑な課題だ。
日中双方の努力がなければ、関係悪化と拘束増加は続くだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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