「○○県民にはそこらへんの雑草でも食わせておけ!」
という暴言で話題になった作品がありましたが、一口に雑草と言っても、中には野菜に負けないほどの栄養や美味しさを備えた野草もあります。
よく知られているところではヨモギ(草餅や草団子など)や、ツクシ(炊き込みご飯や天ぷらなど)、フキノトウ(フキ味噌や天ぷらなど)にイタドリ(おひたしや天ぷらなど)ほか、たくさんの野草料理が季節の食卓を賑わせてくれるでしょう。
※毒さえなければ、天ぷらにすれば大抵の野草は美味しい説がありますよね。
今回は、そんな食べられる野草の一つ・スベリヒユを実際に食べてみました。
果たしてどんな味がするのでしょうか。
目次
味は「(ホウレン草+モロヘイヤ)÷2×1.65モロヘイヤ」?
理屈は後回しにして、まずは実際に食べてみたレビューから紹介します。
文字通り、その辺に生えていたスベリヒユを一株引っこ抜き、水でざっと洗って5分ばかり塩ゆでしたものを、そのまま食べてみました。

画像 : 今回食べたスベリヒユ。筆者撮影
外観はこんな感じ。茎も葉っぱもプルプルした感じで、何となく人工物感がしなくもありません。
ちなみに可食部は根っこを除く全体です。たまに葉っぱの先っちょが変色している部分もあり、そこは気分的に取り除きながら食べました。
アク抜きは一切していません。必要ないと思います。
また、茹でていると、小さな黒いつぶつぶが湯の中で踊っていました。これは種ですね。食べても問題ないでしょう。
それで肝心の味はどうなのかと言いますと……個人的には「ホウレン草とモロヘイヤを足して2で割り、約1.65のモロヘイヤを乗じた味」と感じました。美味しいと思います。
※ネットでは「独特な酸味がある」とあったものの、個人的にはあまり感じませんでした。
今回は、ただ塩ゆでのみでしたが、スベリヒユ自身に強い味が感じられないため、どんな味つけでも美味しくいけるのではないでしょうか。
ちなみにホウレン草と同じく、一度に量を食べると歯がシャバシャバした感じになって、それが若干気になります。
以上、初めてスベリヒユを食べてみたレビューでした。
言うまでもなく、その後お腹を壊すなどのトラブルはありません。
次はもっと味つけにこだわって、チャレンジしてみたいと思います。
スベリヒユは身近なスーパーフード

画像 : 採取したスベリヒユを塩ゆでに。筆者撮影
さて、スベリヒユを味わったところで、続いてその栄養価についても見ていきましょう。
スベリヒユにはビタミンA・ビタミンC・ビタミンE・オメガ3脂肪酸・アミノ酸・食物繊維が豊富に含まれています。
他にも抗酸化性・抗炎症作用をもつフラボノイドや、血糖値やコレステロール調節に効果があるとみられるトリゴネリンを含んでいるそうです。
漢方薬としては馬歯莧(ばしけん)と呼ばれ、解熱・解毒・利尿・虫刺され・湿疹・ニキビなどに効果があると言います。
ただし、スベリヒユはシュウ酸も多く含んでおり、過剰摂取は腎臓病や尿路結石のリスクを高める可能性があるため、注意しなくてはなりません。
シュウ酸は水溶性のため、茹でこぼすことである程度は除去できますが、ペットがスベリヒユを食べて中毒症状(腎不全など)を起こした事例もあるため要注意です。
何でも食べ過ぎはよくないのと、体質によって合う合わないがあるため、まずは少量ずつ試してみるのがいいでしょう。
スベリヒユのレシピあれこれ

画像 : 塩ゆでにしたスベリヒユ。今回はそのまま食べてみたが、次回は色んな料理や味つけを試してみたい。筆者撮影
そんなスベリヒユは、様々な料理を楽しめます。
生でサラダなどにして食べてもいいですが、アクが強いとの意見もあるので、一度は火を通した方がいいかも知れません。
<スベリヒユの美味しい食べ方例>
・和え物
・炒め物
・おひたし
・きんぴら
・汁の実
・酢の物
・天ぷら
・煮びたし
・味噌漬け
他にも茹でてから天日干しで乾燥させると、そのまま食べるよりも旨味が増すそうです。
長期間保存が利くので、使いたい時に使いたい分を水で戻して調理しましょう。
【要注意】スベリヒユと似ている?コニシキソウは食べないで!

画像 : コニシキソウ。うっかり食べないよう注意。
よく見れば「そんなの間違えないだろ」と思ってしまいますが、スベリヒユに似ていると言われるコニシキソウは毒草なので、絶対に食べないでください。
ここでは、スベリヒユとコニシキソウの見分け方をまとめました。
<スベリヒユ>
・茎が太く、スベスベしている
・葉が大きく厚い
・茎をちぎっても特に液は出ない
・葉の全体が緑色<コニシキソウ>
・茎が細く、細かいヒゲがある
・葉が小さく薄い
・茎をちぎると乳白色の液が出る
・葉の真ん中に赤い線が入っている
少しでも不安があったら、絶対に食べないでください。それが一番安全です。
「その辺の野草がタダで食べられるなら安いものだ」と、食中毒を起こしてしまったら、元も子もありません。
スベリヒユの語源や別名

画像 : スベリヒユ。皆さんの地方では、何と呼びますか?
スベリヒユ(滑莧)という名前の由来は諸説あり、葉や茎がスベスベとしているからとか、茹でた時の滑(ぬめ)りに由来するとも言われます。
また地方によってたくさん呼び名があるため、まとめてみました。
<ヒユ系>
ウマビユ、オオスベリヒユ、タチスベリヒユ
<ヒョウ系>
ヒョウ(オヒョウ、ヒョウナ)、スベラヒョウ、ズンベラヒョウ
<草系>
ゴシキソウ(五色草)、チギリグサ(千切草)、トンボグサ(蜻蛉草)、ヌメリグサ(滑草)、ヒデリクサ(旱草)
<その他>
アカジャ、アカヂシャ(赤苣)、イワイヅル(祝蔓)、ネガタ(根形)、ニンブトゥカー(念仏鉦)
<漢方系>
馬歯莧(ばしけん)、馬歯菜(ばしさい)、五行草(ごぎょうそう)、酸莧(さんけん)、豬母菜(ちょぼさい)、地馬菜(ちばさい)、馬蛇子菜(ばじゃしさい)、長寿菜(ちょうじゅさい)、老鼠耳(ろうそじ)、宝釧菜(ほうせんさい)
<学名/英名>
Portulaca oleracea(ポーチュラカ・オーロレシア)/Green purslane(グリーン・パースレイン)
スベリヒユは、世界の熱帯から温帯にかけて幅広く分布していることから、この他にも各地での呼び名があります。
日本では基本形の「ヒユ」と、それが訛ったのであろう「ヒョウ」が多く、他に性質や形状を表わした「~草」系で大きく三分されているようです。
ちなみにヒユ(莧)とは違う植物
スベリヒユ(滑莧)という植物があるのだから、滑らない?ヒユ(莧)という植物も存在します。
ヒユとスベリヒユは親戚同士なのかと思いきや、どうやら別の植物みたいです。
スベリヒユ:ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属スベリヒユ
ヒユ:ナデシコ目ヒユ科ヒユ属ヒユ
同じナデシコ目でありながら、そこからスベリヒユ科とヒユ科ではっきりと分かれていました。
ヒユとはハゲイトウ(葉鶏頭。葉が鶏のトサカに似ていることから)のうち、特に食用品種を指して呼ぶのたそうです。
ちなみに、スベリヒユ科は1属100種が、ヒユ科は174属2,500種がカテゴライズされているそうで、スベリヒユ科はかなりニッチな植物と言えるでしょう。
スベリヒユの花言葉

画像 : スベリヒユの花。花言葉は「いつも元気」「無邪気」。
せっかくスベリヒユの話をしているので、花言葉についても調べてみました。
スベリヒユの花言葉は「いつも元気」「無邪気」などがあると言います。
<いつも元気>
生命力が強く、旱(ひでり)でもなかなか枯れない。先ほどの別名で「ヒデリクサ」とあったのは、旱続きで作物が枯れてしまった時に、スベリヒユを採って食いつないだことを意味しています。
吊るされて 一期しまひぬ 辷莧(すべりひゆ) ※小林一茶
【句意】戸口に吊るされ、スベリヒユは生涯を終える(一期を終う)のだなぁ。
地方によっては、夏の邪気を祓うためにスベリヒユを引き抜いて戸口に吊るす習慣がありました。
引き抜かれてもなかなか枯れないスベリヒユの生命力が、魔を祓うと考えられたのでしょう。
<無邪気>
他の雑草たちすら枯れてしまうほど激しい旱であっても、健気に生い茂り、可愛い花を咲かせるスベリヒユ。その姿を見て、人々は「こんな非常事態でも、まったくお前は無邪気でいいな」と苦笑いつつ、癒やされ励まされたのかも知れませんね。
終わりに
今回は美味しく食べられる野草のスベリヒユを食べ、かつ調べてきました。
初めての、しかも市販ではなく自分で採った野草を食べるのは緊張するものですが、その美味しさを知るのは楽しい経験となります(くれぐれも毒草にはご注意ください)。
スベリヒユは日本のほぼ全域(主に平地の市街地周辺)に生えているため、よかったら試してみてはいかがでしょうか。
※参考文献:
・大海淳『野草をおいしく食べる本 フィールド別 見分け方、採り方、食べ方 110種』standards、2018年7月
・篠原準八『食べごろ 摘み草図鑑 採取時期・採取部位・調理方法がわかる』講談社、2008年10月
・高野昭人 監修『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社、2006年4月
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部
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