国際情勢

中国の『債務帝国主義』とは「低中所得国を巨額融資で支配する?」

世界各地で進むインフラ建設の背後には、中国が掲げる「一帯一路」構想がある。

道路や鉄道、港湾の整備は発展の象徴のように見えるが、その多くは中国からの巨額融資によって進められてきた。

中国による「債務帝国主義」とは、こうした経済的影響力を通じて他国を支配する戦略を指す。

中国が低中所得国に対して巨額の融資を行い、インフラ整備などの名目で資金を提供する一方、返済困難に陥った国々に対して港湾や資源などの戦略的資産を譲渡させる、あるいは政治的影響力を強める手法である。

この手法は、中国の「一帯一路」構想と密接に結びつき、国際社会で議論を呼んでいる。

本稿では、この「債務帝国主義」の実態とその影響、そして各国や国際社会が直面する課題を追っていく。

一帯一路と債務の構図

画像 : 2018年時点の一帯一路主要プロジェクト地図。鉄道、パイプライン、港湾、発電所の分布を示す『Infrastrukturatlas』 CC BY 4.0

中国の「一帯一路」構想は、2013年に習近平国家主席が提唱した国際的なインフラ投資プロジェクトである。

アジア、アフリカ、欧州を結ぶ経済圏の構築を目指し、道路、鉄道、港湾、エネルギー施設の建設に多額の資金を投じる。

しかし、この融資の多くは高金利であり、受ける国々は経済基盤が脆弱な場合が多い。

例えば、スリランカはハンバントタ港の建設資金を中国から借り入れたが、返済不能に陥り、港の99年間の租借権を中国に譲渡した。

この事例は「債務帝国主義」の典型例として取り上げられることが多い。

中国は経済支援を掲げながら、実際には戦略的資産を押さえ、自らの影響力を広げている。

影響を受ける国々の実態

画像 : CPECの一環として建設されたパキスタン最長の高速道路「スッカル–ムルタン高速道路(Sukkur–Multan Motorway, M-5)」CC BY-SA 4.0

債務帝国主義の影響は、アフリカや南アジア、東南アジアの新興国で顕著である。

ジブチでは、中国が融資した軍事基地や港湾施設の建設により、同国の対外債務の80%以上が中国向けとなっている。

パキスタンでは、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)プロジェクトで同様の問題が浮上。
巨額の債務により、経済的自立が難しくなり、中国への依存が深まっている。

これらの国々は、インフラ整備による経済成長を期待したが、実際には債務の罠に陥り、財政難や政治的圧力に直面するケースが増えている。

国際社会の懸念と対抗策

このように、債務帝国主義に対する国際社会の懸念は強い。

米国やEUは、中国の融資が透明性を欠き、受ける国の経済的脆弱性を悪用していると批判。

G7は2021年に「Build Back Better World(B3W)」を立ち上げ、中国の一帯一路に対抗するインフラ投資計画を推進した。

また、国際通貨基金(IMF)や世界銀行も、債務の持続可能性を重視した融資基準の見直しを進めている。

一方、中国はこれを「発展途上国支援」と主張し、帝国主義との批判を否定する。
しかし、債務負担による受ける国の主権侵害が問題視され、国際的な監視が強まっている。

今後の展望と課題

画像 : 第1回一帯一路国際協力サミットフォーラム(2017年)に出席した各国首脳 public domain

中国の債務帝国主義は、グローバルなパワーバランスに影響を与える。

中国は経済的支配を通じて、国際機関での発言力や地政学的優位性を高める狙いがある。

しかし、債務国の反発や国際社会の批判により、戦略の見直しを迫られる可能性もある。

受ける国々は、短期的な経済利益と長期的な主権喪失のリスクを天秤にかける必要がある。

また、国際社会は、透明で持続可能な融資の枠組みを構築し、債務の罠を防ぐ努力が求められる。

中国の影響力拡大は、グローバル経済の構造を大きく変える可能性を秘めており、注視が必要である。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「抗日戦争勝利80周年パレード」に金正恩が参加 ~習近平政権の狙…
  2. 『ホンダの中国・広州EV工場新設』背後に潜む「地政学リスク」の火…
  3. 防衛省が熊本に“射程1000km”ミサイル配備の計画 〜なぜ熊本…
  4. 安倍晋三氏の外交的レガシーを振り返る 〜トランプ氏の親友となった…
  5. 2019年の「ミュンヘン安全保障会議」を振り返る 〜米国vs中国…
  6. 中国が「小笠原諸島」を軍事的に重視する理由とは? ~その戦略的重…
  7. 自衛隊基地のそばに外国人が土地を買っている?知られざる安全保障リ…
  8. なぜイスラエル首相は戦い続けるのか?日本ではあまり語られない“も…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

ヒルトン ワイコロア ビレッジ(ハワイ島)の喫煙場所【Smoking place of Hilton Waikoloa Village (Hawaii)】

こんにちは。ゲーハーです。結婚して3年目で、ハワイ旅行に来ています。これも現地で書い…

ステルス技術の進化について調べてみた その1

ステルスという言葉は、アングロ・サクソン系単語で「盗む(スティール)」という動詞と同じ語源から派生し…

八丈島で天寿を全うした武将・宇喜多秀家

秀吉の一門衆へ宇喜多秀家(うきたひでいえ)は、豊臣政権では五大老の一人も務めた戦国大名で…

うなぎを食べると本当に精がつくのか調べてみた 【栄養、効果】

土用の丑の日はうなぎを食べる。 平賀源内がうなぎ屋の宣伝として考えたという話は有名だ…

山内一豊 〜「内助の功」でも知られる遅咲きの強運な武将

「内助の功」と強運山内一豊(やまうちかつとよ)は織田信長・豊臣秀吉・徳川家康に仕えた武将で、…

アーカイブ

PAGE TOP