日本国内で、台湾有事に対する懸念が日増しに高まっている。
これに伴い日本本土の各地でも、有事を見据えた備えが強化されているのは周知の事実だ。
しかし沖縄県に関しては、その地理的な特殊性から、本土とは一線を画した、より緊迫感のある特有の対策が求められている。
沖縄は台湾に極めて近く、地理的な位置が防衛上の最前線となり得る。
このため有事となれば、日本本土では想定しにくい切実な問題に直面するおそれがある。
最前線・沖縄の宿命と軍事施設の集中

画像 : 先島諸島 (南西諸島) public domain
沖縄県には、在日米軍専用施設の約7割が集中している。
政府は2025年、先島諸島の住民・観光客約12万人を6日間で本土へ段階的に退避させる計画を公表し、船舶・航空機を組み合わせて1日約2万人を輸送する設計を示した。
これは、米軍が台湾有事に介入する際の、重要な拠点となることを意味する。
もし実際に紛争が発生すれば、沖縄本島にある嘉手納基地や普天間飛行場といった米軍基地が、敵対勢力からのミサイル攻撃の最優先標的となることは避けられない。
これらの軍事施設は、住宅地や市街地に近接している場合が多く、攻撃の際には周辺住民の生命と財産に極めて重大な被害をもたらす危険性がある。
しかし、沖縄県において、住民の命を守るための強固なシェルターや避難施設が圧倒的に不足しているのが現状だ。
本土の都市部でも地下鉄の駅などを利用した避難訓練が進められているが、沖縄では基地が集中しているがゆえの住民保護策が、より喫緊の課題となっている。
地理的隔絶がもたらす孤立と独自の備え
沖縄が日本本土から地理的に離れているという事実は、有事の際に物資や人員の輸送が極めて困難になることを意味する。
食料、医薬品、燃料などの生活必需品の多くを県外からの輸送に依存している沖縄にとって、海上・航空路が遮断されれば、瞬く間に孤立状態に陥る。
このため、沖縄県独自の取り組みとして、食料・生活物資の備蓄強化や、災害時・有事の際の自立的な医療提供体制の構築が急務となっている。
また、住民を県外や国外へ退避させる「国民保護計画」においても、多数の島嶼からなる地理的特性上、避難経路の確保や輸送手段の手配など、本土とは比較にならないほどの複雑な課題を抱えている。
島嶼地域特有の広範囲な避難計画の必要性

画像 : 嘉手納基地 public domain
沖縄県は、本島だけでなく多数の離島から構成されており、これら島嶼地域それぞれの特性に応じた避難計画が求められる。
例えば、与那国島は台湾からわずか100km余りの距離に位置し、その緊張度は本島を遥かに上回る。
これらの離島では、避難のためのインフラが限られており、島外への迅速かつ安全な退避は容易ではない。
そのため、島内の堅固な建物を一時的な避難所として活用する計画や、船舶・航空機を用いた大規模な住民輸送のシミュレーションと準備が不可欠となる。
本土で検討されている「有事の備え」が、主に施設の防護や自衛隊の配備強化に焦点が当たるのに対し、沖縄では住民の避難と生活の維持という、より根源的な安全保障の課題が色濃く出ていると言える。
沖縄の安全保障対策は、単なる軍事的な準備に留まらず、地理的孤立、基地集中という特有の宿命を受け入れた上での、住民生活と生命を守り抜くための人道的な備えが中核をなす。
この特殊性を理解し、国全体としての支援体制を構築することが、台湾有事への真の備えとなるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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