国際情勢

「日本が羨ましい」なぜ韓国で反中デモが拡大したのか?「チャイナ・アウト」の声

2025年11月、秋の深まりとともに冷え込むソウルの街角で、普段の賑わいとは異なる異質な熱気が渦巻いていた。

かつて日本人観光客で溢れかえった明洞や、新たなホットスポットとして知られる街並みに対し、一部の市民から浴びせられるのは歓迎の言葉ではない。

「チャイナ・アウト(中国は出ていけ)」。

耳を疑うようなシュプレヒコールが、首都の空に響き渡っているのである。

事の発端は9月末に韓国政府が導入した、中国人団体観光客に対する一時的な「ビザ免除政策」であった。
経済効果を狙ったこの施策は、瞬く間に裏目に出る。

堰を切ったように押し寄せた中国人観光客に対し、生活圏や文化を「侵食される」と感じた韓国市民の不満が爆発したのだ。

デモは明洞から、中華街として知られる大林洞へと飛び火し、その勢いは衰える気配を見せない。

また、最近日中関係が冷え込み、中国政府が国民に対して日本渡航自粛を呼びかけたことで、多くの中国人が韓国を訪れるという状況となっているのである。

画像 : 李在明大統領 public domain

意外に強い韓国の反中感情

この騒動の背景には、単なるオーバーツーリズムへの不満以上の、より根源的なイデオロギーの対立が横たわっている。

デモ参加者の人々は、中国の影響力に抗議し、「主権と文化の自由」を求める声を上げている。

彼らが嫌悪の視線を向ける先にあるのは、周辺国に対して威圧的な態度を崩さない中国政府の「統制」的な姿勢だ。

象徴的な出来事として挙げられるのが、同年10月の習近平国家主席の訪韓時の騒動である。

ソウル市内で反中スローガンを叫んだYouTuberが警察に検挙された事件は、「政府が中国の機嫌を伺い、国内の言論の自由すら制限し始めているのではないか」という疑念を、デモ参加者の間で広げる結果となった。

こうした空気の中で、街を埋め尽くす中国人観光客の姿は、その背後にいる権威主義的な国家体制の影そのものとして映っているのかもしれない。

「日本がうらやましい」と叫ぶデモ隊

画像 : 中国人観光客が押し寄せる明洞 SKTakek CC0

こうした中、デモ参加者の口から驚くべき言葉が飛び出した。

「私は日本がこんなにうらやましいと思ったことがない」。

これは、台湾有事に関する国会答弁で、中国に対して強い姿勢を見せた高市早苗首相の対応を引き合いに出し、韓国政府の対中姿勢との差を指摘する声である。

報道では、トランプ米大統領が高市首相に対し「中国を刺激しないよう助言した」とされる一方で、韓国の保守系支持層の一部には、日米が連携しつつも日本が独自の立場を主張する姿勢が、現政権の外交よりも強く映っているとの見方がある。

また、この対立をさらに複雑にしているのが台湾問題だ。

ソウルを訪れる台湾人観光客の間では、中国本土の観光客と誤認され敵意を向けられることを避けるため、「私は台湾から来ました」と記したバッジを着用する動きが広がっている。

中国本土の人間と混同され、敵意を向けられることを避けるための自衛策だが、これもまた、アジアにおける「自由主義陣営」と「権威主義陣営」の分断が、草の根レベルにまで浸透していることを示す哀しい実例と言えるだろう。

変わりゆく隣国の対中観

かつて「反日」がナショナリズムの代名詞であった韓国で、今や「反中」の声がそれを上回る勢いで広がりつつある。

それは、歴史認識をめぐる過去の対立ではなく、現在進行形の「自由」への脅威に対するリアルな反応だ。

今回のデモの中には、日本の対中姿勢を引き合いに出し、自国の外交を嘆く声も聞かれた。かつての「敵対」とは異なる、どこか「羨望」に近い感情が見え隠れする。

こうした空気の変化は、東アジアの地政学的感情が新たなフェーズに入ったことを告げているのかもしれない。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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