台湾海峡を挟む緊張が極限まで高まるなか、日本と同様に「当事者」としての危機感を強めているのが韓国だ。
地理的に近く、米国と同盟関係にある韓国にとって、台湾有事は決して「対岸の火事」ではない。
しかし、その捉え方は複雑怪奇であり、安全保障上のジレンマが渦巻いている。
米韓同盟の義務と北朝鮮の野心

画像 : 台湾有事と朝鮮半島有事イメージ 草の実堂作成
韓国が最も恐れているシナリオは、台湾有事が「朝鮮半島有事」を誘発する連鎖反応だ。
もし台湾海峡で武力衝突が発生すれば、在韓米軍の主力や在日米軍が台湾防衛に投入される可能性が高い。
この「力の空白」を、北朝鮮が千載一遇の好機と捉えないはずがない。
韓国の軍事専門家の間では、中国が米国の戦力を分散させるために、北朝鮮に挑発行動や局地戦を促す「二正面作戦」への警戒が強まっている。
韓国政府にとって、台湾防衛への協力は米韓同盟の維持に不可欠だが、それによって自国の防衛が疎かになれば本末転倒である。
この「同盟の義務」と「自国の安全」の狭間で、韓国は極めて難しい舵取りを迫られている。
経済的生命線と中国への依存
韓国にとって、台湾海峡はエネルギー資源や輸出入品の多くが通過する、極めて重要なシーレーン(海上交通路)である。
ここが封鎖されれば、韓国経済は一瞬にして麻痺する。しかし、韓国の最大の貿易相手国は依然として中国だ。
韓国世論は、自由民主主義の価値観を共有する台湾に同情的ではあるものの、経済的な報復を恐れる声も根強い。
過去の「THAAD(高高度防衛ミサイル)」配備の際に見られた中国による激しい経済制裁の記憶は、今なお韓国社会に深い影を落としている。
台湾有事において米国に全面的に同調することは、中国との経済関係を完全に断絶する覚悟を意味するため、政府は慎重な姿勢を崩せないのが実情だ。

画像 : 2025年10月31日、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議出席のため韓国の慶州を訪問した高市早苗総理を出迎える李在明大統領 首相官邸HP CC BY-SA 4.0
戦略的曖昧さと現実的な選択
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権期以降、韓国は「力による現状変更に反対する」と述べ、一歩踏み込んだ発言を見せるようになった。
しかし、具体的な軍事支援の是非については明言を避けている。
これは「北朝鮮を抑止するために中国の協力が必要」という、韓国特有の事情があるからだ。
結局のところ、韓国が台湾有事をどう捉えるかは、「自国の存立」という極めて現実的なフィルターを通したものになる。
自由主義陣営の一員としての責任を果たしつつ、北朝鮮の暴走を食い止め、かつ経済的破滅を避ける。
この針の穴を通すような外交戦略が、今の韓国に求められている。
台湾海峡の波高き時、それは朝鮮半島の静寂が破られる時でもある。
私たちは、この隣国の苦悩を、日本の安全保障と照らし合わせて注視し続ける必要があるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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