
画像 : 日韓トンネル構想図(2009)Uploader CC BY-SA 3.0
九州と韓国・釜山を海底で結ぶ「日韓海底トンネル」。
この構想は、古くは戦前から存在し、現在に至るまで政治、経済、そしてナショナリズムの狭間で幾度となく浮上しては沈んできた。
夢の「ユーラシア鉄道」の起点となるのか、あるいは国家安全保障を脅かす火種となるのか。
今回は、改めてこの巨大プロジェクトの正体に迫ってみたい。
半世紀以上続く壮大な構想の歴史
日韓海底トンネルの構想は、1930年代の「大東亜縦貫鉄道構想」にまで遡る。
これは当時、日本本土から壱岐・対馬を経て釜山に至る海底トンネルを建設し、東京から昭南(現・シンガポール)までを鉄道で結ぶ構想であった。
当時は軍事的な色彩が強かったが、戦後、1980年代に入ると、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の文鮮明氏が1981年の国際会議で「国際ハイウェイプロジェクト」を提唱し、その起点として日韓トンネル構想を掲げたことで、再び注目を浴びることとなった。

画像 : 文鮮明氏 Wash D.C. 1995 John Mathew Smith CC BY-SA 2.0
一方で、霊感商法被害救済担当弁護士らからは、同構想が献金集めの名目として利用されたとの批判も出ている。
1986年10月には、佐賀県唐津市名護屋で「名護屋調査斜坑」の掘削が開始され、約470mまで掘削された坑道の一部が現在も残されている。
政治の場でも、韓国の歴代大統領(盧泰愚氏や金大中氏など)が前向きな発言を残した時期もあり、一時は日韓両国の友好のシンボルとして語られたこともあった。
しかし2011年1月、韓国国土海洋部は韓国交通研究院の調査結果を受け、「経済性がない」として推進中断を明らかにした。
以後も政治家による発言はあるものの、公式な国家プロジェクトとしては始動していない。
実現によって期待される経済的メリットと物流革命
もしトンネルが開通すれば、その経済的インパクトは計り知れない。
全長は約220km前後とされ、英仏海峡トンネル(約50km)の4倍規模となり、実現すれば世界最長級の海底トンネルとなる。
最大の利点は、日本が「島国」から「半島」を通じてユーラシア大陸と陸路でつながることだ。
トラックや貨物列車による物流が実現すれば、東京からロンドンまでを鉄道で結ぶ「鉄のシルクロード」が完成する。
これにより、航空便より安く、船便より速い「第三の輸送手段」が確立され、東アジア全体の経済活性化が期待される。
また、建設に伴う巨大なインフラ投資は、九州地方に数兆円規模の経済波及効果をもたらすという試算もある。
安全保障と巨額コストという厚い壁
一方で、慎重派や反対派の声も根強い。
まず指摘されるのが約10兆、試算によっては15兆円規模とも見積もられている天文学的な建設費用だ。
これほどの巨費を投じて、果たして投資回収が可能なのかという採算性の問題が常に付きまとう。
さらに深刻なのが、安全保障上の懸念である。
「トンネルは国防上の弱点になりかねない」という意見や、韓国側からは「日本による経済侵略の道筋になる」という懸念、日本側からは「朝鮮半島の有事や大陸からのリスクが直接陸路で流入する」という不安が根強く存在する。
また、複雑な日韓関係により、協力体制を築くこと自体が困難な状況にあるのが実情だ。

画像 : 高市早苗首相がAPEC首脳会議出席のため韓国・慶州を訪問(2025年10月30日)Cabinet Secretariat CC BY 4.0
未来への架け橋か、あるいは幻想か
日韓海底トンネルは、単なる土木工事の域を超えた、極めて政治的なプロジェクトである。
工法については、海底を直接掘削する方式だけでなく、コンクリート製ケーソンを海中に据え付ける沈埋トンネル方式なども提案されているが、対馬トラフ(最大水深約220m)を含む地質条件の克服が最大の技術課題とされる。
理論上は現代のシールド工法等で実現可能とされているが、真にクリアすべきは物理的な岩盤ではなく、両国民の間に横たわる「心理的な壁」だ。
脱炭素社会に向けた鉄道輸送の再評価や、北東アジアの平和構築という観点からは魅力的な選択肢だが、現時点では「遠い未来の構想」と言わざるを得ない。
しかし、欧州が地続きの利点を活かして発展したように、このトンネルがいつかアジアの統合を象徴するゲートウェイになる日が来るのか、議論はこれからも続いていくだろう。
参考 : 『日韓海底トンネル建設論議のための試論的研究』申章澈 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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