中華圏の人々が住む国や地域で、毎年盛大に祝われる「春節(しゅんせつ)」と呼ばれる旧正月。
最近では、チャイニーズニューイヤーと表記されることも多くなった。
旧暦の元旦に当る2月1日を皮切りにスタートする。
2週間後の『元宵節(げんしょうせつ)』という新年を迎えてから初めて満月となる日をもって「春節」の一連の行事は終了するため、それまでは、力強い爆竹の音や「春節」関連の音楽が街中で鳴り響くとても賑やかで活気のある日常が続く。
中華圏の文化を継承し続けるマレーシアでも、「春節」の盛り上がりは凄まじく、クリスマスの翌日からは一斉に「春節」の飾り付けが始まる。
目次
『赤色』にこだわる 「春節」のマレーシアの街並み
「春節」と聞いて一番に思い浮かぶのは、赤色に彩られる街並みの様子だ。
飾りのほとんどが、赤一色で統一されている理由には、中国に伝わる『年兽(ニアンショウ)』という怪物の伝説が関係している。
その昔、山に住んでいた『年兽』という怪物は、1年に1度だけ、「春節」の時期に山を降りては村人に危害を加えていた。
人々は自分の身や子供たちを『年兽』の危害から守るため、『年兽』が嫌う赤色の服を着用したり、村の至る所に赤い飾りを置いていた。
という伝説である。
また、『年兽』は大きな音を嫌うという弱点があったため、赤い火花を出しながら音を出す『爆竹』が邪気払いとして使用されるようになり、そのことが「春節」の時期に『爆竹』の音を街中に響かせる習慣に反映されたという諸説も残っている。
「春節」のイベントに必ず登場する『中国獅子舞(ライオン・ダンス)』も当初は『年兽』を追い払う儀式とされていたが、現在では『富をもたらす商売繁栄の象徴』としての認識が強い。
『紅包(ホンバオ)』と呼ばれる紙幣を包む袋も名前の通り、赤色でデザインされた物が多く『活力が上がり、幸運を運ぶ』といった願掛けの意味が込められている。
「春節」で用いられるものを赤色で統一することは、『邪気払いや幸福、喜び』といった縁起の良い気を自ら呼び寄せ、家族や友人の幸福を祈る風習に由来していることが分かる。
ちなみに『紅包』は「春節」に限らず、結婚式の御祝儀や出産祝いといった祝福の場での使用も可能だ。
マレーシアの「春節」①〜気になるマレーシアのお年玉事情〜
マレーシアで暮らす中華系の人々にとって「春節」は、家族団欒で過ごすことができる1年の中で最も重要な行事である。
親戚や友人宅に新年の挨拶回りへ出掛ける際には『紅包』に包んだお年玉と、みかん、そして『祝福語または吉祥語(きちじょうご)』と呼ばれる縁起の良い言葉だけを合わせた新年の挨拶を準備する必要がある。
マレーシアにおけるお年玉の相場は相手との関係性や親睦の深さによって変動することもあるが、毎年SNSなどを中心に目安となる額が発表されるため、それらを参考に準備を始める。
以下の金額は、今年2022年1月時点で発表された目安の額であり、1リンギット(以下RMで表記)=¥27の計算で記載しているものだ。
・自身の両親宛て 親1人に対してRM100(約¥2,700程度)
・自身の妻宛て RM100(¥2,700程度)〜自身の経済力に応じて制限はない。
・兄弟(姉妹)の子供宛て RM20(¥540程度)
・近縁の子供宛て RM10(¥270程度)
・遠縁の子供宛て RM5(¥135程度)
・友人の子供宛て RM5(¥135程度)
・未婚の友人宛て RM10(¥270程度)独身の場合は、お年玉を受け取るのみである。
金額の紹介文の最後には決まって、『金額よりも大切なのは、相手への気持ちが重要』と謳いながらも、特に配偶者である妻に対しては、怒られないように最も多い金額を渡すべきだというユーモアで締め括られている。
マレーシアの「春節」②〜訪問先で交換し合う幸せの『みかん』〜
お年玉と一緒に『みかん』を手渡す文化は、日本と大きく異なる特長でもある。
中国語で『橙子(チェンズ)』と発音する『みかん』の『橙(チェン/cheng)』の音と、成功を意味する『成(チェン/cheng)』の音が同じであることから、成功や幸運をもたらす果物『みかん』を配る習慣が誕生した。
他にも円満を意味する丸い形状であることや、黄金色を連想させる色合いであることから『みかん』が選ばれたという説もある。
成功や幸福を共に分かち合おうという相手への思いやりの気持ちを表現するために、『みかん』はお互いに交換することが決まっている。
マレーシアの「春節」③〜遊び心ある楽しい新年の挨拶〜
そして忘れてはいけないのが、『祝福語』を用いた新年の挨拶だ。
『祝福語』は、日本の『明けましておめでとうございます。』に当る『新年快乐(シンニェンクァイラ)』といった挨拶を始め、財運や健康、安全祈願を表す言葉がごまんと存在する。以下で紹介する『祝福語』は、紅包や提灯に記載される代表的なものだ。
・恭喜発財 財を成す、富に恵まれますように
・大吉大利 縁起よく全てが順調に進みますように
・心想事成 願いが叶いますように(達成されますように)
・身體健康 健康に過ごせますように
・出入平安 家内安全、交通安全
メールやメッセージカードで新年の挨拶を伝える時に、『今年』の部分をその年の『干支』に変えるだけでできる簡単な『祝福語』を用いるのも中華圏ならではの特徴だ。
《2022年 虎年にかけた新年の挨拶文の例》
・Happy 虎 Year Happy New Year
・虎年行大運 虎年には幸運がやってくる
・虎年大吉大利 良い虎年の1年を過ごせますように
マレーシアの「春節」④〜開運食材にこだわる文化〜
「春節」を迎えたマレーシアで食べる定番料理の中に、『魚生(ユーシェン)』という大皿に盛り付けられた伝統料理がある。
シンガポールの料理人が縁起の良い「春節」に因んで考案した料理で、主にマレーシアとシンガポールで食べられている開運料理だ。
新鮮な刺身と細かく千切りにされた野菜に甘酸っぱいソースをかけたあと、広東語で漁の網を引き上げる様子を表す『ローヘイ(撈起)』という言葉を口にしながら、具材が大皿からこぼれ落ちる程、高く上げながらかき混ぜることがルールとなっている。
料理を豪快に混ぜることは溢れるほどの大量の魚が釣れたことの例えであり、実践することで『新年に多くの富を得ることができる』といわれている。
食材に刺身が用いられるのは、中国語の『魚(ユー/Yu)』という発音が、有り余るという意味を持つ『余(ユー/Yu)』と同じであることから、祝福語の『年年有余(一年を裕福に過ごすことができる)』に由来する食べ物といわれているからだ。
色鮮やかな食材を家族全員でかき混ぜる姿は、『家族の調和』そのものであり、新たな希望を持って新年を迎えた「春節」の風物詩の一つとなっている。
家族以外でも、会社の発展や利益向上を願う企業では、忘年会の席で『魚生(ユーシェン)』を食べる機会を設けている。
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