宗教

【神社に祀られる神様を知る】海上安全・商売繁盛なら「住吉さま(すみよしさま)」へお参りを

祭神の住吉さまは海上守護・航海守護と祓の神

画像:天瓊を以て滄海を探るの図(小林永濯・画、明治時代)wiki c

画像:天瓊を以て滄海を探るの図(小林永濯・画、明治時代)wiki c

「住吉さま」をお祀りする神社は、全国で約2,000社といわれる。

日本神話によると伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉の国を脱した後、海で身を清めるための禊祓(みそぎはらい)を行った。

『日本書紀』によるとその時に、底筒男命(そこつつのおのみこと)・中筒男命(なかつつのおのみこと)・表筒男命(うわつつのおのみこと)が海の底・中・表から出現したという。「住吉さま」を冠する住吉神社などでは、この住吉三神を中心に祀る神社が多い。

また、住吉三神は『古事記』では、底筒之男神(そこつつのおのかみ)・中筒之男神(なかつつのおのかみ)・上筒之男神(うわつつのおのかみ)と表記される。

ちなみに、底筒男命・中筒男命・表筒男命の「筒(つつ)」とは、「津々浦々」の「津々(つつ)」、すなわち港を、あるいは、航海の目印とした「星(つつ)」を表すともいう。

「住吉」と名が付く神社の多くが、海岸や河口近くに鎮座しているのは、海上の安全を守る海上守護・航海守護の神だからだ。

また、住吉三神の出現時に伊弉諾尊が行ったように「住吉さま」は「祓(はらい)」の神でもある。

祓は神道の神事において、禊や斎戒の後に行われる極めて重要な浄化の儀式だ。神を迎えるための準備として、清浄な空間をつくりあげるために祓い清め「浄明正直(じょうめいしょうちょく)」の境地を求めることが神道の根本とされる。

「浄明正直」は、清(きよ)き(浄き)、明(あか)き(明るい)、正しき、直(なお)き(素直な)心のことで、穢れを祓う禊は、海や川の清水で身を清める行為でもあった。

総本社は大阪市住吉区に鎮座する住吉大社

画像:住吉大社本宮(写真提供:住吉大社)

画像:住吉大社本宮(写真提供:住吉大社)

「住吉さま」の総本社は、大阪市住吉区に鎮座する住吉大社である。その創建は、第14代仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)の皇后である神功皇后(じんぐうこうごう)に由来する。

神功皇后が新羅出征からの帰路、自分の子で皇太子の応神天皇の異母兄・香坂皇子・忍熊皇子が反乱を起こした。

このために皇后の率いる船団が瀬戸内海を彷徨い、務古水門(現在の武庫川)に至り皇后が占うと、底筒男命・中筒男命・表筒男命の住吉三神が現れた。

画像:『名高百勇伝』「神功皇后」歌川国芳 作 wiki c

画像:『名高百勇伝』「神功皇后」歌川国芳 作 wiki c

三神は「我が魂を大津の渟中倉の長峡(おおつのぬなくらのながお)に祀りなさい。そこで往来する舟の安全を見守ることにしよう」といわれた。

皇后が、その教えの通りに三神を祀ると、無事に畿内に帰京できたという。

これが、住吉大社創建の由緒で、211年のこととされる。いま住吉大社の周辺は市街地となっているが、かつては松の木の緑が美しい海岸線だった。

土佐日記にも登場し神威を顕わす住吉三神

昔は、陸上交通よりも、海上交通の方がはるかに利便性に秀でていた。しかし、一方で海路は自然現象に左右されやすい。それゆえに「海上安全」を神に祈った。

『古今和歌集』の選者として名高い紀貫之が綴ったという日本最古の日記文学『土佐日記』の中にも、住吉三神にまつわる話しが登場する。

画像:紀貫之(狩野探幽『三十六歌仙額』)wiki c

画像:紀貫之(狩野探幽『三十六歌仙額』)wiki c

紀貫之の一行が、任地の土佐国から帰京の船旅の折り、突風が吹いて進めなくなった。船頭が「住吉明神が何かを欲しがっている」というので、幣を奉納させが、波はますます荒れた。

船頭は「弊では満足できていないため、もっと喜ぶような品を奉納しなさい」というので、鏡を海に奉納すると、たちまち海はに静まったという。

「住吉さま」は、不浄を祓う禊の神であるとともに、航海・漁業の神であった。そして、そこから外交・貿易・産業の神として信仰を発展させていった。

そのご利益は「海上安全」「漁業守護」「商売繁盛」で知られる。その方面に縁のある方は、ぜひお参りして、御神徳を結んでいただきたい。

※参考文献:
高野晃彰・招福探求巡拝の会著『日本全国一の宮巡拝パーフェクトガイド』メイツユニバーサルコンテンツ、2023年4月

関連記事 : 【神社に祀られる神様を知る】必勝祈願・芸能上達なら「八幡さま(はちまんさま)」にお参りを

 

アバター画像

高野晃彰

投稿者の記事一覧

編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 禅宗の事実上の開祖「慧能(えのう)の生涯」
  2. 東大寺二月堂はなぜ二月なのか?
  3. 関ケ原の戦い以降の長宗我部氏と土佐について
  4. 落語の歴史、階級、流派について詳しく解説
  5. 戦国の陣形 「日本の戦で実は全然使われてなかった」
  6. 『狛犬だけじゃない』狛猫・狛カエル・狛ウサギ〜ユニークな狛〇〇に…
  7. 【自衛隊の闇組織】 諜報組織「別班」は本当に存在していた ~日曜…
  8. 日本酒と日本神話について調べてみた【ヤマタノオロチを酔わせた八塩…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

日本は『第二のウクライナ』となるのか? ~外交・防衛の視点から考える

2025年に入り、ウクライナ情勢は一段と厳しさを増している。ロシアによる侵略が続く中…

河上彦斎 ~「るろうに剣心」のモチーフと言われる剣客

緋村剣心のモチーフ河上彦斎(かわかみげんさい)は肥後の細川藩出身の武士であり、幕末の京に…

平家討伐「第一の矢」を放った佐々木経高。北条泰時が見届けたその壮絶な最期が泣ける【鎌倉殿の13人】

……經高者進於前庭。先發矢。是源家征平氏最前一箭也。【読み】経高は前庭に進み先ず矢を発つ。こ…

豊臣五奉行・増田長盛【豊臣家を滅ぼした元凶?】

増田長盛とは増田長盛(ましたながもり)は豊臣政権の五奉行の一人で、石田三成らと共に秀吉の…

カリブ海にはなぜ海賊がいたのか?【カリブの海賊たち】

ジョニー・デップ主演の映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」や、東京ディズニーランドのアトラクション「…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP