自然&動物

グランピングが日本で注目される理由 「アウトドア界の新しい逸材」

長期化するコロナ禍を切っ掛けに、会社に足を運ばずとも自身のライフスタイルと並行しながら仕事に打ち込める働き方が問われるようになった。

グランピング

国内外の好きな場所で、好きな風景を眺めながら仕事を行う『ノマドワーク』や、平日は都内、週末は地方へと2つの活動拠点を移動しながら仕事をこなす『デュワルワーク』といった新しいワークスタイルを実行する人々も急増している。

スマートフォンやパソコンが手元にあれば場所を問わずに仕事をこなせる現代だからこそ、時間と場所に捉われない働き方への関心が、年々高まっているのだろう。

旅するように働く気分を演出する話題の「グランピング」とは?

まるで旅するように自分の活動拠点を選択できる働き方は、仕事に対するモチベーションの向上や時間の有効活用といった、自分なりのライフスタイルを実現できる良い機会だ。こうした在宅ワークの環境を積極的に提供する企業も多く、ビジネスホテル内のカフェやラウンジを貸出するサービスが始められている。

そんな中、快適な在宅ワークの環境として人気を博しているのが、「グランピング」の存在だ。

『グラマラス/魅力的(Glamorous)』と『キャンピング(Camping)』の造語から名付けられた「グランピング」施設は、自然豊かな空間で宿泊や食事も行えることから、仕事を行う場所に特定の決まりがない『在宅ワーク』を推奨した新たな日常の場として注目を浴びている。

宿泊する部屋には冷暖房も完備されており、1年を通して楽しめる魅力もある。

グランピング

敷地内にバーベキュースペースや温泉を設けている「グランピング」施設もあるため、緑に囲まれた「グランピング」を活用しながら仕事に取り組む人々の姿は、『仕事(Work)』と『休暇(Vacation)』を両立させた『ワーケーション(Workation)』に通ずるものがある。

異文化を取り入れた「グランピング」を盛り上げる部屋の構造形態

予め設営されているテントやロッジに宿泊し、『リゾート感覚で楽しめるアウトドア』という定義で誕生した「グランピング」。テントタイプからロッジタイプといった多種多様な部屋の構造は、実在する海外の伝統的な住居からインスピレーションを受けているものが多い。

「グランピング」施設で最も多く採用され人気も高い『ベルテント』は、北欧の原住民族が住居として使用していた『ラブー(Lavvu)』や、アメリカインディアンの移動用住居『ティピー(Tipi)』を象って造られたといわれている。

グランピング

ベルテント

サイド部分が立ち上がっている姿がベル(鐘)の形状に似ていることから『ベルテント』と名付けられた。

A型に広がるエントランス部分にライトを装飾することで、サーカスのテントを思わせる遊び心や、可愛らしさを演出することができる。

『ベルテント』と同等に人気を誇る『ドームテント』は、モンゴルの遊牧民が暮らす移動式住居『ゲル(パオとも呼ばれる。)』をモデルに構造され、丸みを帯びたテントの中に、生活に必要な家具を置いて生活する『ゲル』の特徴が反映されている。

グランピング

『ゲル(パオ)』内の様子

中でも存在感を放っているのが、部屋の360度全てが、スノードームのように透明でできた新感覚の『クリアドームテント』だ。

夜には室内から星空を観察することができ、備え付けのカーテンでプライベート空間もしっかり確保できることから秘密基地を連想させる印象もある。

そして、室内の開放的な雰囲気が好評を得ている『ロッジ』タイプは、野生動物の狩猟や観察目的で使用されているアフリカの『サファリロッジ』を参考に造られており、大自然に溶け込むように佇んでいる。

グランピング

宿泊施設としても人気のアフリカの『サファリロッジ』

イギリスの日常に浸透する「グランピング」文化の影響力

「グランピング」文化を逸早く、日常に取り入れた最初の国といわれているのが『イギリス』だ。

長い休暇が取れると、自然溢れる郊外へ出向き、自宅同様の快適さを感じられるよう、家具や調度品を持ち合わせてトレーラーハウスに長期滞在するイギリスの習慣が、「グランピング」の始まりとされている。その後、イギリスの田園や農村地域が広がる観光地で展開された「グランピング」施設の魅力が、欧州、そしてアジア圏に広まった。

昨今、日本でも話題を呼んでいる「グランピング」の空間を利用した結婚式『グランピングウェディング』も、巨大な『ベルテント』を式場としたイギリス文化が影響しているといわれている。

日本各地で勢いが止まらない「グランピング」事業の動き

日本全国に展開されている「グランピング」施設では、北欧インテリアを基調とした温かみのある室内を意識している。優しいパステルカラーで統一された家具と木製のインテリアを合わせることで、充実したレジャー空間と自然との融合を維持することができるからだ。

デザイン性を重視した雰囲気は、『インスタ映え』の効果にも繋がる。

特に昨年の2021年は、関東地方を中心に観光地へのアクセスが便利な立地を狙った「グランピング」事業が勢いを増して展開された。大自然に囲まれた環境はもちろん、都市開発に向けた動きも見られる「グランピング」施設の例として以下の3ヶ所をあげる。

•《千葉県》2021年4月よりオープン
廃校となった小学校がグランピング施設へと変身を遂げたことで話題の『高滝湖グランピングリゾート』
https://www.takatakiko-glamping.com

•《茨城県》2021年6月よりグランドオープン
春の絶景ネモフィラで有名な「国営ひたちなか海浜公園」から5分の立地に建設された『イーストコースト ファイン 茨城ひたちなか』
https://www.eastcoast-fineglamping.com

•《山梨県》2021年11月よりグランドオープン
富士山を一望できる独立型グランピング施設『ザ・ヴィラ・グランピング』
https://www.glamping-kawaguchiko.com

最も必要なのは「グランピング」実用化への取り組み

本来は忙しく送る日常生活を離れ、非日常を味わうために活用されるべき存在の「グランピング」だが、日本で「グランピング」が注目を浴びるようになった背景には、『コロナ禍』で余儀なくされた在宅ワークやソーシャルディスタンスを行いながら楽しめるアクティビティといった『新たな環境作りの確立』が関係している。しかしそれは、いずれコロナの終息を迎えた頃には「グランピング」の必要性も減少傾向に陥ることも示している。

その間に重要とされるのは、「グランピング」の環境だからこそ、実感できる癒し効果であったり、自然と共存することで得られる活動意欲の励みといった魅力を日常的に広めていくことだ。カフェやレストランの内装に「グランピング」の要素を取り入れている店舗は、そういった「グランピング」の長所を上手く活用し、一時的な流行で終わらせない試みを心掛けているのだ。

自身でレジャーに使用する用具の準備も必要なく、身軽で参加できるという利点を考慮して設定された宿泊プランを手軽な価格に改定することも、「グランピング」事業を実用化させるためには重要な課題だ。ある一定の流行りで終わらせるのではなく、日常の身近な存在として「グランピング」文化を日本で浸透させるには、幅広い世代からの理解と、自らが情報源となって世界に発信する力を持つ若年層からの支持が必要不可欠だからである。

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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