ブラッドスポーツ
古代から東西問わず世界各地では動物を使った見世物が行われており、時の権力者から民衆に至るまで人気を博していました。
有名なものではニワトリを戦わせる闘鶏、犬と犬とを戦わせる闘犬、昆虫同士を戦わせる昆虫相撲など、様々な種類の生物が人間の好奇心を満たすために利用されてきた歴史が存在します。
現代でもスペインの闘牛や、日本の沖縄でのハブとマングースショーなんかもあるのですが、こういった動物を利用した見世物は「ブラッドスポーツ」と呼ばれ、動物愛護団体から厳しい指摘を受け減少傾向に向かっているのが現状です。
しかし、古代から近世にかけてヨーロッパでは目を背けたくなるような動物を使った残酷な遊びが「スポーツ」として行われていました。
今回はそんなヨーロッパにて行われていたブラッドスポーツについてご紹介します。
キツネ潰し
17世紀〜18世紀のヨーロッパの一部の国にて盛んに行われていた「スポーツ」です。
有名なものではポーランド王フリードリヒ・アウグスト2世がザクセン州のドレスデンで行った大会があります。
さて、このキツネ潰しというスポーツのやり方なのですが、まず大きな城の中庭や、広場を確保し、外周をキャンバスや板などで囲います。その後、2人組で網状か綱状のスリングの一端をそれぞれ持ち、スリングが地面に横たわるよう6~7.5mの間隔をとって立つことで準備はOKです。
全員の準備が整ったら、キツネたちを一斉に広場内に解き放ち、競技者はキツネがスリングの上を通るのを待ちます。
そして、ちょうどキツネがスリングの上に来たタイミングを狙ってスリングの両端を引っ張ると、スリングの反発でキツネは空高く舞い上がり、地面に激突し死亡。ここで一番高くキツネを飛ばせたものが優勝というスポーツです。
このドレスデンで行われた大会では647頭ものキツネを使ったそうなのですが、それでも足りなかったのか533頭のノウサギ、34頭のアナグマ、21頭のヤマネコを使って全て殺したと言います。
この大会以外にもオーストリアのレオポルト1世が行ったキツネ潰しが有名で、このときは庶民も参加し、地面に激突し弱り切った動物たちを庶民たちが棍棒で叩き潰すという凄惨な場であるにも関わらず、レオポルト1世は熱狂していたと言います。
またカップルの間ではこのスポーツは人気だったようであり、仮面舞踏会の余興などでも行われていました。この際はカップル同士で豪華な仮装や衣装を身に纏い、競技後に室内で酒と夕食を嗜みながら男女の親交を深める、といった感じだったそうです。
キツネやウサギなどの小動物をもっぱら使っていたのですが、時にはオオカミやイノシシなも利用し、ドレスに身を包んだ女性たちが動物に追い掛け回されるのを見て楽しんだともいうのですが、どちらにせよ良い趣味でないのは明らかです。
熊いじめ
インド、パキスタンなどの一部アジアでも行われていましたが、イギリスでは12世紀から19世紀までの7世紀間人気のスポーツでした。16世紀には人気がピークとなり、たくさんのクマが飼育されていたそうです。
熊いじめを催す闘技場は「ベアーガーデン」と呼ばれ、環状に立てられた高いフェンスが設けられており、観客用の高い椅子などで構成されていました。
鎖でつながれたクマに対し、訓練の行き届いた戦闘犬や猟犬を放ち戦わせると言ったもので、時には人間もこれに参加しました。また、エリザベス1世はこの娯楽を好んでおり、特等席で戦いを眺めるのを楽しんだと言います。
繋がれたクマが猟犬や人間を圧倒し、舞台が凄惨な殺戮ショーと化すことが一時期問題となりましたが、逆にそれが人気となるという矛盾を孕んでしまいます。
清教徒革命後、一時禁止されましたがすぐに復活し、19世紀にはコストが掛かり過ぎることから行われなくなりました。その後、動物虐待防止法が提案されクマいじめは完全に禁止されました。
鶏投げ
イングランドで古くから広く行われていたスポーツです。
ルールは闘鶏と違い、ニワトリを柱に括り付けて、人間が「コクステール」と呼ばれる重い棒を順番に投げつけ、雄鶏を殺した人が優勝というスポーツでした。
15世紀にイングランドで活躍した法律家のトマス・モアは幼少の頃このスポーツが得意であり、上手く棒をニワトリにぶつけられたと述懐しています。
もし雄鶏の脚が折れてしまったり、遊んでいるうちに弱ってしまった場合は、雄鶏が動かないようにするために陶器の壷の中に入れ、そのままニワトリが死ぬまで棒を投げつけたそうです。
このスポーツは上流から一般大衆まで人気があり、清教徒革命で禁止令が出た際には反乱が起きるほどでした。1840年までの間に鶏投げの事例はあったものの、そのあと鶏投げという伝統があったことさえ完全に忘れ去られ消滅しました。
ガチョウ引き
17世紀〜19 世紀にかけてベルギー、ドイツ、北アメリカの一部で行われていました。
ルールは通路を横切るように高所にロープを張って、そこに油を塗った生きたガチョウを吊るします。 競技者は馬に乗り通路を駆け抜けながらガチョウの首を掴み、その首を上手く引きちぎった人が優勝というものです。
これは生きたガチョウを用いることでガチョウが暴れて羽ばたき首の位置がわかりにくいことや、油により手が滑ることから、首を引きちぎることに残虐な競技性を持たせています。
社会階層を問わず、あらゆる人々がこれを楽しんだと記録されており、しばしば賭けの対象ともされ、人々はアルコールやお金を掛け楽しんだそうです。
また現在でも各所に文化としての形跡を残しており、ガチョウの日などにベルギーやドイツ、バスク地方で行われていますが、動物愛護の観点から事前に屠殺したガチョウ、またはイミテーションのガチョウを使用しています。
ロバいじめ
19世紀のイギリス。ヴィクトリア女王の時代に行われていました。
しかし、上記のスポーツらとは違ってそれほど普及しなかったとされています。
理由としてはロバは貴重な運搬動物であり、殺すコストが高すぎることと、猟犬がロバを敵と認識せず、競技として成り立たなかったことなどが挙げられます。
※後編へと続きます。
この記事へのコメントはありません。