アイヒマンテストとは
「アイヒマンテスト」は1963年にアメリカのイェール大学の心理学者であるスタンリー・ミルグラムが発表した心理学の実験です。
彼の名をとって「ミルグラム実験」とも呼ばれたこの実験は、閉ざされた状況下におかれた人間はその場の権威ある人間の指示に簡単に従ってしまい、残酷な行為をも受け入れてしまうという心理状態を明らかにした実験でした。
ユダヤ人を両親に持つミルグラムは、ナチス・ドイツが行ったホロコーストに対して、その実行のプロセスにおける人間の心理を解明する目的でこの実験を行いました。
アドルフ・アイヒマンの裁判
「アイヒマンテスト」の名称はナチス・ドイツの親衛隊中佐(最終階級)として多くのユダヤ人をガス室に送り込んだ人物アドルフ・アイヒマンの名に由来しています。
アイヒマンは第二次世界大戦がドイツの敗戦で終了すると、南米のアルゼンチンへと逃亡し偽名を使って別人になりすまし、一労働者として生活を送っていました。
やがてイスラエルの情報機関モサドがアイヒマンであることを突き止めて、身柄を拘束して裁判を行いました。その裁判の席上でアイヒマンは、自らの行動は上からの命令に従っただけであるという主張を繰り返し行いました。
この裁判が行われる前には、多数のユダヤ人をガス室に送ったアイヒマンという人物は異常な犯罪者ではないかと考えられていただけに、その主張はある意味拍子抜けしたものでした。
この疑問から「アイヒマンテスト」と呼ばれる心理実験にミルグラムは取り組んだと伝えられています。
対象者の属性
「アイヒマンテスト」の実験への参加者は新聞紙上において「記憶についての実験」という体で20歳から50歳までの男性が集まられました。参加した人達の学歴なども多岐に渡っていました。
実験では参加者を「生徒」と「教師」の二種類に分けて、質問の結果に対する罰の影響を見る実験だと伝えらえました。参加者達はくじで教師役と生徒役のどちらかになることを決められましたが、実は教師役のみが本当の実験の対象者であり、生徒役は仕掛け人が演じたものでした。
テストの進め方
対象者らは実験に先立ち45ボルトの電気ショックを自ら体感させられていました。
その後に教師役と生徒役とは互いに別の部屋へと入れられ、インターフォン越しに双方の声だけが聞こえる環境下におかれます。このとき教師役の参加者は、その行動を強制されるような圧力などは与えられていない状態でした。
教師役の参加者は、最初に2つの相互に関連した単語を読み上げ、続いて片方の単語だけを読み上げて、それに関する単語を4つ述べて、生徒役が回答するようになっていました。
生徒役はその4つの単語の中から正解と思しき番号のボタンを選択することで回答を行う方式でした。生徒が正しい回答を行うと、教師はさらに別の単語の問題に移り、生徒の回答が誤っている場合、教師が生徒に電気ショックを与える事とされました。加えて電気ショックは始めは45ボルトですが、生徒が誤った回答をする毎に15ボルトずつ高めていくものとされました。
権威の前での服従の心理
こうして実験が行われ、仕掛け人である生徒役は間違った回答を徐々に出し始めます。これに対して対象者となった教師役は、先に決めたルール通りに生徒役に罰となる電気ショックを与え、間違いが重なるごとに15Vずつ電圧を上げていく事となりました。
実際には仕掛け人である生徒役は、電気ショックを受けた振りをしているのですが、教師役はそうとは知らず実験を続けます。
教師役となった対象者の多くが生徒役のうめき声を聞いて多少の躊躇を見せたものの、実験の管理者が継続を促すと教師役の40人中、25人が電気ショックの連続で無反応に陥った生徒に対しても、最大となる450Vに至るまで電気ショックを与え続けました。またそれ以外の人でも、300Vより手前で拒絶したものはいないという結果となりました。
この結果は以後も複数回にわたり再現できることが確認され、権威の前に人間は簡単に服従するという恐ろしい本質を突きつけたのでした。
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