映画でブレイクした人気恐竜 ヴェロキラプトル
人気映画『ジュラシックパーク』シリーズで小さな身体ながらも素早い動きと知能の高さ、そして獰猛さで人間と観客を恐怖させるとともに、人気と知名度を得たのが ヴェロキラプトルである。
実際のヴェロキラプトルは大型犬くらいのサイズしかないため、映画のヴェロキラプトルは本物より大きくデザインされているのは有名な話だが、小さな身体というハンデを補って余りある狡猾さと「素早い泥棒」という名前に相応しいスピードで登場人物を追い詰める様は「敵役」ながらも多くのファンを虜にした。(サイズ的には同じドロマエオサウルス科のデイノニクスに近かったが、監督のスティーブン・スピルバーグが「ヴェロキラプトル」という名前を気に入っため、デイノニクスの身体を持った恐竜をヴェロキラプトルとして登場させたのがブレイクのきっかけになった)
当時の最新の説を取り入れているが故に、シリーズごとにヴェロキラプトルの外見や体格が変わるのはご愛敬だが、現在描かれているヴェロキラプトルは映画の公開当初とは別人(別恐竜?)というべき姿になっている。
今回は、近年の研究で大きく姿が変わったヴェロキラプトルを紹介する。
恐竜の常識を変えた革命児
1922年、モンゴルで新種の恐竜が発見された。
特徴的な鉤爪を持ったその恐竜は、身体の構造から素早く動く事が出来て、また、高い知能を持っている事が判明する。
これは、知能が低くて動きも遅いというのが一般的だった当時の恐竜に関するイメージと常識を一変させるもので、ヴェロキラプトルの発見は正に「革命」というべきものだった。(この流れは1964年にデイノニクスが発見された事で決定的なものとなる)
ヴェロキラプトルを語る上で欠かせないのは、1971年に発見されたプロトケラトプスとの格闘化石である。
恐竜が争っている化石が発見されただけでもかなり貴重だが、保存状態も良く、まるで二匹が生きているかのような(何らかの理由で生き埋め状態のまま化石になったとされている)化石の発見は「奇跡」というべきものだった。
ヴェロキラプトルの化石が発見される度に歴史に残る大発見となっていたが、21世紀に入ってから、更にこれまでの常識を変える化石が発見される。
ヴェロキラプトルの常識を変えた発見
2007年に発見されたヴェロキラプトルの腕から、羽毛が生えていた証拠とされる突起が確認される。
これまでも中国やモンゴルで羽毛を持った恐竜の化石は発見されており、恐竜が鳥類へと進化した証拠として注目されていたが、ヴェロキラプトルにも羽毛があったという事実はこれまでの常識を全て覆すほどの大発見だった。
以降のヴェロキラプトルに関するイラストは羽毛が追加され、映画に登場したヴェロキラプトルとは全く違う外見となっている。
なお、ヴェロキラプトルの近縁種であるドロマエオサウルス科の恐竜に羽毛があったという証拠は2020年現在発見されてはいないが、ヴェロキラプトルだけ突然変異で羽毛が生えたというのも考えにくい。
そういう事もあって、現在ではデイノニクスを初めとするドロマエオサウルス科の恐竜にはいずれも羽毛があったというのが定説となっており、羽毛はドロマエオサウルス科の恐竜の特徴となっている。
シックルクロウとは
ヴェロキラプトルが属するドロマエオサウルス科の恐竜のトレードマークであり、長年議論されるも未だに決着が着かないのが「シックルクロウ(sickle claw)」と呼ばれる足の鉤爪である。(sickleとは「鎌」という意味で、言葉の通り鎌のような爪の形状から由来している)
人間の指のように自在に動く鋭い爪は知能、敏捷性とともにヴェロキラプトルの大きな武器であり、ヴェロキラプトルのシックルクロウに憧れるファンは多い。
多くのファンを魅了するシックルクロウだが、どれくらい強力な武器だったのか、また相手を襲う以外の使い道はあったのか、という点でまだ明らかになっていない。
前述したプロトケラトプスとの格闘化石でシックルクロウが相手に食い込んでいるのを見ると、この爪で相手を切り裂いていたように思えるが、小型の恐竜であるヴェロキラプトルが自分よりも大きな恐竜を襲う(相手の身体にしがみつきながら噛み付く)ためのピッケル代わりに使っていたという説もある。
2005年には、マンチェスター大学のPhil Manning博士ら科学者グループがシックルクロウの威力を検証すべく、金属製の「ヴェロキラプトル鉤爪ロボ」を製作。
このヴェロキラプトルロボを使った実験では、豚肉にちょっとした傷を付けるだけで精一杯で、ワニの皮では全く刃が立たなかったそうだが、この実験には「落とし穴」がある。
金属で作られたシックルクロウは「角質」を考慮していない。
人間の視点で見ると爪の角質は美容面や外見的に気になる邪魔な存在だが、ヴェロキラプトルにとって角質はシックルクロウを補強する更なる武器になる。
今の研究ではシックルクロウは斬撃に使われていたという説が優勢だが、現代にヴェロキラプトルは存在していないのでシックルクロウの本当の使い方を見せて貰う事は出来ない。
もし、ロボットによる実験では全く歯が立たなかったワニの鱗を切り裂くほどの力と鋭さを持っていると証明されたら、ヴェロキラプトルは想像以上に恐ろしいハンターとして、草食恐竜から恐れられていたということになる。
群れか単独か
映画の影響で、ヴェロキラプトルは群れを作って集団で狩りを行っていたと思われているが、ヴェロキラプトルが集団で発見された事はなく、群れを作っていたという証拠も発見されていない。
また、デイノニクスの歯の化石を研究したところ、大人と子供で食べていた物が違う事が明らかになり、ヴェロキラプトルも同じような傾向が見られた。(コモドドラゴンも成長するにつれて食生活が変わる事で知られている)
活発に行動していた事から恐竜が恒温動物であったという可能性や、羽毛のあった証拠の発見で鳥の祖先である事を示唆するなど、ヴェロキラプトルは新たな発見がある度に、革命的な話題を提供している。
果たして次はどのような発見で我々を驚かせてくれるのだろうか。
絶滅しても、恐竜界の革命児は世界を動かし続けている。
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