ミイラ化石からスターダムへ
20世紀の終わり頃から恐竜の化石から羽毛があった証拠や羽毛の跡が発見され、現在では「羽毛恐竜」としてファンの間で幅広く認知されている。
羽毛恐竜の発見は世間に大きな衝撃を与えたが、羽毛が発見される遥か前に恐竜の皮膚がミイラ化した状態で発見される「超大発見」があった。
今回は、ミイラ化石の発見と特徴的な外見によってその名を世界に知らしめ、一躍スターダムへとのし上がったコリトサウルスを紹介する。
カナダの大発見
1914年、ティラノサウルスの発見者として知られるバーナム・ブラウンが、カナダのアルバータ州で完璧に近い保存状態の鳥脚類の化石を発見した。
欠けていたのは尾の一部と前肢のみというほぼ完璧な化石の持ち主には立派なトサカがあり、トサカの形がギリシャのコリント式ヘルメットに似ていた事もあって「コリトサウルス・カスアリウス」と命名された。
ほぼ完全な化石の発見だけでも貴重だったが、このコリトサウルスの化石はミイラ化した皮膚が残っており、コリトサウルスより一足先に皮膚の化石が発見されていたエドモントサウルス含め、7000万年も昔に生きていた恐竜の在りし日の姿が分かるという意味では貴重すぎる大発見だった。
恐竜の皮膚が残る原理だが、死亡した(例えば水辺の近くで何らかの生き埋めになった)場合、土と一緒に水の底に沈んだ恐竜は外に出る事も遺体が腐食して骨だけになる事もなく、ミイラとなって発掘されるのを待つ。
コリトサウルスが発見されたのも川であり、断言は出来ないが、早い段階で底に沈んだ事が完璧に近い保存状態で発見される事に繋がったというのが一般的な説である。
コリトサウルスのトレードマーク
コリトサウルスといえば、トレードマークの立派なトサカである。
コリトサウルスのトサカは古代ギリシャのコリント式ヘルメットの頭飾りに似ており、その形にちなんで「(コリント式)ヘルメットトカゲ」と命名されたというのは先述の通りだが、見方によっては本当にヘルメットを被っているようにも見えるため、非常に的を射た名前だった。
コリント式ヘルメットの飾りを見ると「モヒカン」を連想するが、それはさておき、立派なトサカは一度見たら忘れられないインパクトを持っており、名前を売る意味でも「トレードマーク」と呼ぶに相応しい。
なお、このトサカは鼻骨が拡張したものであり、子供の頃はそれほど大きくなかったが、成長するにつれてトサカも大きくなり、子供のコリトサウルスが大人になる頃には立派なトサカが出来ていた。
また、コリトサウルスのトサカはオスとメスで大きさに違いがあり、オスの方がトサカが大きかった。
立派なトサカには様々な説があり、クジャクの羽のようにメスへのアピールになっていたのか、オスの強さ(権力)の証明となっていたのか、完全に証明する事は出来ないが、20体以上の個体という豊富なサンプルがあるからこそ想像が膨らむ。
トサカの使い道
先述の通り、化石というサンプルが豊富なコリトサウルスは、特に研究が進んでいる恐竜の一つである。
トサカに関する研究も勿論進んでおり、鼻腔がかなり複雑に入り組んだ構造をしていた事も分かっている。
同じランベオサウルス亜科のパラサウロロフスのトサカの研究から、嗅覚が優れていた事や独特かつ大きな声を出していたと分かっている事から、コリトサウルスも優れた嗅覚と特徴的な鳴き声を持っていたと言われている。
気になるコリトサウルスの鳴き声だが、コリトサウルスの鼻腔を再現した模型を作って実験をしたら、霧笛のような音がしたという。
ちなみに、コリトサウルスの仲間であるランベオサウルス亜科の恐竜であるパラサウロロフスやランベオサウルスも形は違えど立派なトサカを持っているが、トサカの構造が似ている事からコリトサウルスと同じく優れた嗅覚とよく響く「声」を持っていたというのが今日の定説になっている。
カナダに響く声
実験で出た音とコリトサウルスの声が必ずしも同じとは限らないが、コリトサウルスの嗅覚が優れ、更には大きな声を出せたと分かった事は研究者にとって大きな意味を持っていた。
立てば二階の部屋が覗ける大きな身体の持ち主ではあったが、コリトサウルスには角やトゲ、鎧など肉食恐竜から身を守る武器がなく、出来る限り「先回り」するしかなかった。
(草食肉食関係なく恐竜の嗅覚はかなり鋭かったと言われているが)コリトサウルスが肉食恐竜よりも先に相手に気付いた時は、大きな声で群れの仲間に知らせていた。
勿論、この「警告音」は肉食恐竜の発見以外にも使われており、子供のコリトサウルスが群れからはぐれそうになった時に「遠くに行くな」と注意したり、はぐれた時は居場所を知らせたりするなど彼らの生活に於いて欠かせないものだった。
恐竜の生活やコミュニケーションを実際に見る事は出来ないが、コリトサウルスのように研究が進んだ恐竜は日常生活の想像が比較的容易となっている。
それに反応した仲間が共鳴して、ブラスバンドのような賑やかな光景が7000万年前のカナダに響き渡っていたと想像するのも面白い。
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