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恐竜進化の証人 原竜脚類 「初期の恐竜の代表格」

恐竜進化の証人

原竜脚類

竜脚類 イメージ画像

史上最大級の生物として中生代の地上を支配した竜脚類だが、当然ながら最初から大きかった訳ではない。

恐竜黎明期には彼らの「祖先」にあたるグループが存在した。

それが、かつて原竜脚類と呼ばれていたグループである。(近年の研究の結果、原竜脚類という分類は消えており、厳密には不適切な呼称だが、今回はあえて「原竜脚類」と呼ぶ

アンキサウルスのような小型の恐竜から、プラテオサウルスやメラノロサウルスのように、当時最大級だった恐竜まで幅広く存在した初期の恐竜の代表格であり、竜脚類とは違う独特の容姿から進化への過程が見られるのが興味深い。

今回は、恐竜進化の証人というべき原竜脚類を紹介する。

原竜脚類の特徴

原竜脚類

原竜脚下(Prosauropoda)イメージ画像

古竜脚類など様々な呼び名で呼ばれている原竜脚類だが、初期の恐竜らしく竜脚類にはないユニークな特徴が見られる。

竜脚類と同じく首や尾が長いのは言うまでもないが、ブラキオサウルスなどの竜脚類が完全四足歩行で、現在の象の脚に似た構造だった(指で物は掴めない)のに対して、原竜脚類は基本的に四足歩行だったものの、後ろ足で立ち上がってからの二足歩行も可能であり、指で物を掴むなどある程度自由に動かす事が出来た。

原竜脚類の指に注目すると、獣脚類顔負けの鋭い鉤爪が目を引く。

この鉤爪を使って主食である植物を掴んで集めていたと言われているが、身を守る武器として肉食恐竜と戦う時に使っていたという説も有力である。

三畳紀後期からジュラ紀前期に掛けて最大級のサイズを誇っていた原竜脚類恐竜の巨体から、自慢の鋭い鉤爪で攻撃されたらさすがの肉食恐竜もただでは済まなかっただろう。(もっとも、原竜脚類に匹敵するサイズを持った肉食恐竜は当時存在しなかったため、原竜脚類に挑む命知らずはほとんどいなかったと思われる

原竜脚類が繁栄した理由

恐竜が現れた当初、どの恐竜も小さく小型の肉食恐竜が恐竜の世界を支配していた。(当然ながら恐竜以外の生物も存在しており、恐竜以上に大きな生物もいたが、ここでは恐竜に絞る

原竜脚類

パンファギア(学名:Panphagia)復元画像

初期の恐竜の一つで南アメリカ(アルゼンチン)に生息していたパンファギアは「全てを食べる者」というの名の通り雑食の恐竜であるが、この恐竜から進化したのが原竜脚類と竜脚類を含む竜脚形類である。(パンファギアも竜脚形類に分類されている

巨大恐竜の先祖として重要なポジションを担うパンファギアは全長1.5メートルしかなく、生き残るためには身体を大きくして敵から狙われないよう進化するしかなかった。

そんなパンファギアが進化して原竜脚類が生まれた訳だが、大きな身体になって敵から狙われにくくなった以外にもメリットはあり、高いところにある植物にも届くようになると、他の草食動物が食べられない位置にある植物を独占する事が出来た。

アンキサウルスのように小型の恐竜もいたが、豊富な食料によって順調に身体が大きくなっていった原竜脚類は当時陸続きだった大陸を移動してアジアやアフリカ、北アメリカにヨーロッパと世界中に広がり、恐竜時代初期の一大勢力を作る事に成功した。

原竜脚類は雑食性?

生き残るために草食専任となった原竜脚類だが、場合によっては肉も食べる雑食性だったという説も長く主張されている。

原竜脚類

原竜脚下目 マッソスポンディルスの頭骨

原竜脚類の歯は噛み切るのに適したギザギザ(鋸歯)があり、主食の植物を食べる時に使っていた。(竜脚類の歯はスプーン状だったり鉛筆状だったりと、原竜脚類に比べて大きく異なっている

ティラノサウルスなどの獣脚類が持っている事から肉食恐竜の特徴というイメージが強い鋸歯だが、現代に生きるイグアナにも鋸歯があるように、草食動物でも持っている事があるため、原竜脚類に鋸歯があっても不思議な事ではない。

また、最初の竜脚形類のパンファギアが雑食だった事もあり、進化を重ねるごとに草食への比重を増やす事はあっても、いきなり完全な草食に切り替わったと考えにくいのも事実である。

現時点で雑食から草食に変わるターニングポイントとなった「ミッシングリンク」となる恐竜は発見されていないが、パンファギアが発見されたのも2006年(種として認められたのが2009年)とつい最近の話である。

更なる発見によって世界を驚かせる可能性は十分有り得るため、近い将来に大きな発見がある事を期待したい。

原竜脚類が原竜脚下目になった理由

原竜脚類

原竜脚下目 アンキサウルス (Anchisaurus)

冒頭にも書いたが、研究が進んだ結果「原竜脚類」の名前は消えており、現在は使われていないグループの名称である。

これまでは原竜脚類が進化して竜脚類が生まれたとされて来たが、最新の研究ではパンファギアという同一の祖先を持った姉妹グループ(側系統群)であり、現在は竜脚形亜目に属する原竜脚下目竜脚下目に分類されている。

もう少し詳しく解説すると、原竜脚類が徐々に進化を重ねて竜脚類となった訳で、原竜脚類と竜脚類に分類するよりも竜脚形類に統一する方が適切な訳だ。(思えば、獣脚類もダチョウ恐竜など別の進化を辿った恐竜がいるのに一貫して「獣脚類」に分類されているので、竜脚形類に属する恐竜を原竜脚類と竜脚類に分ける理由は確かにない

プラテオサウルスのように二足歩行も四足歩行も出来る大型の恐竜が更に巨大化して完全な四足歩行になり、大型の竜脚類へ進化したという、物語として辿っても飽きないほど美しい。

進化を重ねるとともに原竜脚類は衰退し、ジュラ紀の前半には姿を消す事になるが、恐竜の進化の歴史を示す証人として重要な役割を担っており、双方の特徴を持ったミッシングリンクとなる恐竜も続々と発見されている。

原竜脚類を調べると竜脚類に進化する過程が見られて非常に興味深いが、まだまだ謎が多いので、その謎を明らかにすべく新たな発見に期待したい。

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