神話、伝説

これぞ大自然のお仕置き?理不尽すぎるアイヌの物語「トーロロ ハンロク ハンロク!」

かつて北海道を中心に、千島列島や樺太、そして東日本地域に住んでいたと伝わるアイヌたち。

彼らは厳しい大自然の中で独自の文化をはぐくみ、文字を持たぬ彼らは口承によって伝えてきました。

ユーカラを聞かせるアイヌの長老(イメージ)

そんな彼らの口承文学をユーカラ(yukar)と言いますが、そこには大いなる知恵や教訓のみならず、一見理不尽にも思えるストーリーが展開されることもあります。

今回はそんな一話「トーロロ ハンロク ハンロク!」を紹介。主人公は一匹の蛙。果たして彼はどんな末路をたどるのでしょうか。

タルケピ、ヤイェュカラ……

Terkepi yaieyukar,(蛙が自分の体験を物語る)

“Tororo hanrok hanrok!”(トーロロ、ハンロク、ハンロク!)

※アルファベット表記は出典より。カッコ内は筆者による意訳。以下同じ

一軒家を見つけた蛙。悪戯を思いついて……(イメージ)

Tororo hanrok hanrok!(ケロケロ、クワックワッ!)

Shineantota muntum peka terketerkeash(ある日、草原を跳ねまわって)

shinotashkor okayash aine ingarash awa,(遊んでいて見かけたのは)

shine chise an wakusu apapaketa payeash wa(一軒家。そこで玄関に行くと)

inkarash awa,chiseupshotta ikittukari(家の奥に宝の山があった)

chituyemset chishireanu.Amset kata(その近くに高床があり、そこには)

shine okkaipo shirkanuye kokipshirechiu(一人の若者が鞘を刻んでいた)

okai chiki chirara kusu tonchikamani kata(私は悪戯を思いついて)

rokash kane.”Tororo hanrok,hanrok!” ari(敷居の上でケロケロと鳴いた)

rekash awa,nea okkaipo tam tarara(しかし若者は驚かず、作業の手を止めて)

unnukar awa,sancha otta mina kane,(私の方へニコニコ笑いかけた)

“Eyukari ne ruwe? esakehawe ne ruwe?(それは君の歌かね?喜びの歌かね?)

na henta chinu.” itak wakushu(もっと聞かせておくれ。と言うので)

chienupetne,”Tororo hanrok,hanrok!” ari(私は喜んでもっと鳴いた)

rekash awa nea okkaipo ene itaki:-(若者は笑顔を絶やさず)

“Eyukari ne ruwe? esakehawe ne ruwe?(それはユーカラかい?サケハウかい?)

na hankenota chinu okai.”(もっと近くで聞かせておくれ)

hawashchiki chienupetne,outurun(私はもっと嬉しくなって、彼の下座に近づいて)

inumpe kata terkeashtek,(囲炉裏の側まで飛びあがって)

“Tororo hanrok,hanrok!” rekash awa(もっと鳴き声を聞かせてやった)

nea okkaipo shui ene itaki:-(若者はニコニコ笑顔で)

“Eyukari ne ruwe?esakehawe ne ruwe?(それはユーカラかい?サケハウかい?)

na hankenota chinu okai.” hawash chiki,(もっともっと近くで聞かせておくれ)

shino chienupetne,roruninumpe(私は本当に嬉しくなって、彼の上座へ近づいて)

shikkeweta terkeashtek,(囲炉裏のすぐ近くまでやってきて)

“Tororo hanrok,hanrok!” rekash awa(聞かせてやった。トーロロ、ハンロク、ハンロク!)

arekushkonna nea okkaipo matke humi(すると若者は瞬時に立ち上がり)

shiukosanu,hontomota shi apekesh(燃えた大きな薪を握り)

teksaikari unkaun eyapkir humi(私の脳天へ叩きつけた)

chiemonetok mukkosanu,pateknetek(目の前が真っ暗になって)

nekona neya chieramishkare.(何が何だか分からなかった)

Hunakpaketa yaishikarunash inkarash awa,(気がついて辺りを見ると)

蛙の死(イメージ)

mintarkeshta shine piseneterkepi(ゴミ捨て場の片隅に、腹のふくれた蛙が一匹)

rai kane an ko ashurpeututta okayash kanan.(その耳と耳の間に私の魂が座っていた)

pirkano inkarash awa,useainu unnchisehe(あの時、単なる人間の家だと)

ne kuni chiramuap Okikirmui kamui rametok(思って入ったのはオキキリムイの家)

unchisehe neawokai ko(神のごとき者の家であった)

Okikirmui nei ka chierampeutekno(そうとも知らずに)

iraraash ruwe neawan.(無謀にも悪戯をたくらんだ報いであった)

Chiokai anak tane tankorachi toi rai wen rai(私はこのようにしょうもない最期を)

chikishiri tapan na,tewano okai(遂げてしまった。どうか同胞子孫たちよ)

terkepiutar itekki ainuutar otta irara yan.(決して人間に悪戯をしてはならぬ)

ari piseneterkepi hawean kor raiwa isam.(と言い残して、ふくれた蛙は死んでしまった)

終わりに

……かいつまんで紹介すると「一匹の蛙が家に入ったら、中の若者(オキキリムイ)におびき寄せられ、ついには殴り殺された」というお話し。

最後に「決して人間に悪戯をしてはならぬ」と言い残して死んでしまう様子が、何とも哀れでなりませんね。

ちなみにサケハウ(酒声)とは宴席で歌われるもので、オキキリムイが蛙の鳴き声を「ユーカラ(何か大事な言い伝え)か、それともサケハウ(酒宴の座興)か」と尋ねているのは「本気か、冗談か。覚悟があるならもっと近くで鳴いてみろ」という意味だったのでしょう。

なお「耳と耳の間に座っていた」というのは、そこから魂が抜けて死んだという意味。他のユーカラでも見られます。オキキリムイは叩き殺した蛙をゴミとして捨てたんですね(ひどい……)。

何も殺さなくて(追い払うくらいで)いいじゃないか、と思います。しかしこれは、恐らく蛙と人間の関係を人間と自然に置き換えたものとは考えられないでしょうか。

アイヌ達の狩猟。自然は人間に生きる恵みを授ける一方、理不尽に命を奪う厳しさも併せ持っている(イメージ)

自然はいつも雄大で人間を包み込むような優しさを感じさせながら、つい近づきすぎた人間をほんの気まぐれで殺してしまうものです。

ちょっとした悪戯を見逃すことも、何も悪くない者を殺すことも、すべては神の思し召し。大自然のお仕置きとは得てしてそういうものではないでしょうか。

偉大なる自然を前に、人類はもっと謙虚にならねばいけません、そんな警鐘が聞こえてくるようです。

他にもユーカラにはたくさんの作品があるので、読んでみると興味深いですよ!

※参考文献:

  • 知里幸惠『アイヌ神謡集』岩波文庫、1978年8月
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角田晶生(つのだ あきお)

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