神話、伝説

世界の神話や伝承に登場する恐ろしい「カニのような怪物」4選

カニのような怪物

画像 :美味しそうなカニ料理 pixabay cc0

カニは、高級食材である。

美味なカニを心ゆくまで味わうことは、庶民にとっても夢の一つである。

しかし、神話や伝承には、逆に人間を餌食とするような恐ろしいカニの怪物たちが登場する。

今回は、そのような恐ろしいカニや、ヤドカリやサソリにまつわる怪物たちについて解説する。

1. サラタン

Saratan

画像 :サラタン 草の実堂作成

サラタン(Saratan)は、アラビアの伝承に登場する巨大なカニ、あるいは亀である。(今回はカニ特集なので、カニという前提で解説を行っていく)

この名はアラビア語でカニ・かに座・癌などを意味する。

サラタンは非常に巨大で、甲羅には木々が生い茂り、海に浮かぶその姿は一見して小さな島と見間違えるほどである。

普段は海上を漂い、休眠状態にあるが、船乗りたちが誤って甲羅に上陸して火を焚いた場合、その刺激でサラタンが目を覚まし、海中へと潜り始めるという。その際、逃げ遅れた船乗りたちは海に引きずり込まれ、命を落とすことになる。

サラタンに関する最古の文献は、9世紀のイラクの文学者アル・ジャーヒズによる『動物の書』である。
しかし、ジャーヒズはサラタンの伝承を「信憑性に乏しい作り話」と、同書内で述べている。

現在、サラタンは「ザラタン」と呼ばれることが多くなっており、これは作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスが1960年代に出版した『※幻獣辞典』の影響であると考えられる。(※幻獣辞典とは、世界中のあらゆる伝説上の怪物について解説した、いわば百科事典のような書物)

ボルヘスは同書において、サラタンをカニとは説明せず、「ザラタン」として紹介している。
ボルヘスが意図的にそうしたのか、ただの誤りなのかは不明であるが、アラビア圏において「サラタン」は単にカニを意味する一般名詞に過ぎず、読者が混同しないよう配慮したものと考えられる。

2. 蟹坊主

蟹坊主

画像 :蟹坊主 草の実堂作成

蟹坊主(かにぼうず)は、日本各地に伝わる寺に現れるカニの妖怪である。

山梨県にある長源寺という寺の山号(寺院の称号)は「蟹沢山」というが、これは以下の伝承が由来だとされる。

かつてこの寺では、住職が次々と変死(または失踪)するという事件が起きていた。
とうとう代わりの住職がいなくなり寺は無人となっていたが、とある高僧が噂を聞きつけ、真相を確かめるべく寺に一晩滞在することにした。

そして夜になると、闇の中から何者かが謎かけをしてきたという。

「両足八足。横行自在。眼、天を差す。これ如何に?」

しかし高僧は慌てず騒がず、淡々とこう答えた。

「汝、カニ也」

高僧が、すかさず手にした独鈷杵(仏教の飛び道具)を投げつけると、悲鳴と共に闇の中から巨大なカニが出現した。
この巨大カニこそ、住職を次々と血祭りにあげていた犯人であった。

カニは甲羅から血を流し逃げ去ったが、翌日には死体となって見つかったという。
その後、怪異が起こることはなくなり、高僧はこの寺の住職になったとも伝えられている。

3. カボ・マンダラット

Kabo-Mandalat

画像 :カボ・マンダラット 草の実堂作成

カボ・マンダラット(Kabo-Mandalat)は、ニューカレドニアに伝わる「疫病の女神」である。

見た目は、巨大なヤドカリそのものであり、ヤシの木のように太い脚と強靭なハサミを持つとされる。

カボ・マンダラットは「象皮病」を司る神だという。
象皮病とは、フィラリアという寄生虫が人間に感染することで引き起こされる疾患であり、まるで象のごとく皮膚が肥大化することからこの名が付けられた。

カボ・マンダラットの意に背くものはたちまち感染させられ、見るも無残な姿になるという。
逆に熱心な信者には、象皮病にかからないよう加護を与えるとされている。

4. ギルタブルル

Girtablulu

画像 : ギルタブルル イメージ 草の実堂作成

ギルタブルル(Girtablulu)は、メソポタミアの神話に伝わる、サソリの怪人である。
その名は現地の言葉で「サソリ人間」を意味するという。

上半身は人間のような姿をしているが、サソリの下半身を持つとも、鳥のような脚とサソリの尾を持つともいわれる。

古代の粘土板に刻まれた伝説「エヌマ・エリシュ」によれば、ギルタブルルは海の女神ティアマトが生み出した、11種類の怪物の1柱であるとされる。

人類史最古の文学作品といわれる「ギルガメシュ叙事詩」においては、男女のギルタブルルが登場する。

彼らは「マーシュ」という天界と冥界に繋がる山の門番をしており、その姿は「死」そのものと形容され、見た者は恐ろしさのあまり死んでしまうという。

しかし、彼らは理知的な存在であり、交渉さえすれ道を譲ることも厭わないようだ。

参考 :
幻獣辞典』『日本伝承大鑑』
『Encyclopedia of Demons in World Religions and Cultures』
文 / 草の実堂編集部

 

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『神々の股間をめぐる戦い』3つの古代文明の恐ろしい去勢神話
  2. 『風刺画』に描かれた怪物伝承 ~歴史が映し出す風刺のモンスター
  3. 『世界の魔女伝説』上半身だけで飛ぶ女、痕跡を消して飛ぶ老婆、顔を…
  4. 古代人は何を見たのか?実在すると信じられていた「怪人種族」たち
  5. 『江戸時代にUFO漂着?』宇宙人を思わせる世界の奇妙な怪異伝承
  6. 『門や扉をつかさどる神々』ローマ・中国・魔術書に描かれた守護の伝…
  7. 世界の伝承に見る「眠りの神・悪魔・精霊」ゾロアスター教から日本ま…
  8. 「流行病」にまつわる怪異伝承 〜疱瘡婆・アメリカ狐・黒死病の天使…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

中国は本当に日本に対して強硬姿勢なのか? 現実的な本音とは

最近、中国が日本に対して厳しい姿勢を取っている、といった報道が増えている。例えば、輸入規制や…

「同性愛の秘密を握られ国家機密を売った」オーストリア将校レードルの二重スパイ事件

第一次世界大戦前夜、ヨーロッパ列強は激しい緊張状態にありました。ドイツ、フランス、イギリス、…

江戸時代創業(400年前)の「箱根 甘酒茶屋」は海外の旅行客にも大人気だった

日本はもちろんのこと、海外からの観光客にも大人気の箱根。訪日観光情報サイト・ジャパン…

これで戦えと?戦国時代の雑兵たちに支給された「御貸具足」が貧弱すぎる

戦国時代のハイライトと言えば、やはり合戦。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」でも、合戦シーンを楽…

熊本の猫寺「生善院」に伝わる恐怖の伝説とは ~無実の僧の死が招いた祟り

熊本県球磨郡水上村にある寺院「生善院(しょうぜんいん)」は、山門脇に狛犬ならぬ「狛猫」がいる…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP