べらぼう~蔦重栄華之夢噺

みんな大好き?「屁!屁!屁!」の狂歌3選を紹介【大河べらぼう】

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」皆さんも楽しんでいますか?

第21回放送「蝦夷桜上野屁音(えぞのさくら、うえののへおと)」では、狂歌師たちが大集合しての「屁!」コールが後半の見せ場?でした。

四方赤良(大田南畝)「俺たちは、屁だぁ~!」

踊りとかけ声の合間から、リズミカルに狂歌を詠み連ねていく様子に、各人の才気が感じられます。

今回は、劇中で詠まれたそれぞれの狂歌について、詳しく見ていきましょう。

四方赤良「七へ八へ……」

画像 : 中澤年章「太田道灌山吹の里」

七へ八へ(七重八重≒七屁八屁) へをこき井手(いで)の 山吹の
みのひとつだに 出ぬぞきよけれ(清けれ)

※四方赤良(大田南畝/桐谷健太)

【意訳】七度も八度も連続で屁をこき出(いだ)している。しかし花が咲いても実が出ない(ならない)山吹と同じく、私の尻からは実(固形物)は出ていないぞ。だから清い≒汚くないだろう?

要するに「屁はしているが、中身を漏らしてはいないから、汚くないだろう」と言いたいようですね。人前で放屁する時点で、キレイ汚い以前に下品です。

※厳密に言うと、放屁の中には大腸菌などが含まれているため、衛生的にも決してよくはありません。

この狂歌には本歌(ほんか。元ネタ)があり、かつて戦国武将の太田道灌(おおた どうかん)が、外出中のにわか雨で村娘に蓑(みの。身体にまとう雨具)を借りようとして断られたエピソードに由来します。

七重八重 花は咲けども 山吹の
実のひとつだに なきぞかなしき

【意訳】山吹は七重にも八重にも美しい花を咲かせますが、実は一つもつけません。転じて貧乏な我が家には、「実の」ひとつもない山吹のように、「蓑」一つないのでございます。

山吹の花に和歌を添えて差し出した村娘の教養深さに、道灌は大層感心したのでした。

このエピソードは落語にもなっており、「道灌」というタイトルで現代でも親しまれています。

ちなみに狂歌の井手とは現代の京都府井手町にあたり、古くから歌枕・山吹の名所として親しまれてきました。

それが「……屁をこき井手(こき出す)の……」に改変されてしまうのは、ちょっと複雑ですね。

元木網「芋を食ひ……」

雲間の月(イメージ)

芋を食ひ 屁をひる(放る≒昼)ならぬ 夜の旅(度≒夜ごと)
雲間の月を すかしてぞ見る

※元木網(もとの もくあみ/ジェームス小野田)

【意訳】芋を食うと屁が出るが、白昼堂々ひる(放屁する)のは品がない。だから夜の旅路で(旅⇒度。夜の度に⇒毎夜)雲間の月をすかし見るように趣き深く、人に感づかれない隙を狙ってそっとすかし屁をするのだ。

放屁する「ひる」を昼とかけ、夜の旅と度をかけ、そして雲間の月をすかし見る趣きをすかし屁とかけました。

何だったら雲間とは尻の間、月とはその穴に喩えているのかも知れません。

より穿ちを加えて「すかしてぞ見る」は「すかし屁を試みる」と喩えで、気づかれないようにすかし屁を試みる緊張感を表わしているのかも知れません。

堂々と放屁して周囲からの顰蹙を買うか、他人に責任をなすりつけられるワンチャンに賭けてすかし屁を試みるか……悩ましいところです。

周囲とすれば放屁の音によって続く悪臭に警戒できた方がよいか、あるいは不快な音は聞かず後から何となく変な匂いを感じるのがマシか……これまた微妙なところでしょう。

智恵内子「芋の腹……」

イメージ

芋の腹 こき出でてみれば 大筒(おおづつ)の
響きにまがふ(まごう) 屁い(兵)の勢ひ

※智恵内子(ちえの ないし/水樹奈々)

【意訳】芋を食って腹にたまった屁をこき出してみたところ、大砲の響きとも間違えるほど兵(屁い)の勢いが盛んであった。

こちらの本歌は、法勝寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどう さきのかんぱくだじょうだいじん)が詠んだ「わたの原 漕ぎ出でてみれば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波」ですね。

両方の歌を照らし合わせてみましょう。

わたの原 漕ぎ出でてみれば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波

芋の原 こき出でてみれば 大筒の 響きにまがふ 屁いの勢い

語呂のよさとシンクロ率が絶妙ですね。

先ほどの四方赤良もそうですが、これはパクりではなく本歌取りと言って、古典に対する教養があることを示す意味でも高く評価されました。

元の和歌は「大海原(わたのはら)に漕ぎ出してみれば、沖合では雲と見間違えるほどに大きな白波が立っていた」という雄大な自然の風情を詠んでいます。

いっぽう智恵内子の狂歌では「芋を食って屁をこき出してみれば、大砲かと勘違いするほど響き渡った」という、情緒もへったくれもない笑いに変えられてしまいました。

法勝寺入道前関白太政大臣が聞いたら怒ってしまうかも知れませんが、江戸っ子たちはこうした教養とパロディを楽しんでいたようです。

終わりに

画像 : 四方赤良。北尾政演筆 public domain

今回は「大河べらぼう」劇中で狂歌師たちに詠まれた屁!の狂歌を3首紹介してまいりました。

何だか小学生のようなノリですが、これにつき合えるかどうかで本作に対する評価が大きく変わっていくでしょう。

実際に劇中でも、彼らの屁!コールにうんざりしてしまった恋川春町(岡山天音)は蔦屋重三郎(横浜流星)の前で矢立(筆入れ)を放り、筆を折ってしまいました。

「恋川春町、これにて御免」

次週の第22回放送「小生、酒上不埒にて」では、恋川春町が狂歌師・酒上不埒(さけのうえの ふらち)として生まれ変わる様子が見どころとなるでしょう。

これから大いに繰り広げられる天明狂歌の世界。屁!ばかりではないので、風刺やユーモアを大いに堪能したいと思います。

文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

角田晶生(つのだ あきお)

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