フォトジェニックな街並みが話題のポルトガルの首都『リスボン』に隣接する都市「シントラ」は、城跡と宮殿が集結した世界遺産の街だ。
ポルトガル王家の避暑地として栄えていた時代を思い起こすかのように、宮殿の周りには涼しげな木々が広がっている。
イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアに続く偉大な逸材としても名を馳せた、同じくイギリス出身の詩人ジョージ・ゴード・バイロンは、自身の物語詩の中でシントラの街を『この世のエデン』と語り、絶賛していた。
実際に世界中を旅しながら詩を描き続けた彼の目にも、「シントラ」の風景が自身が望む理想の居場所として、とても美しく写っていたのだろう。
目次
シントラの街に実在する華美を極めた「ペーナ国立宮殿」とは?
ポルトガルのシントラには、「ペーナ国立宮殿(ペーナ宮殿とも呼ばれている。)」という一際目立つ迫力満点の文化財があり、シントラの観光業を支えている存在でもある。
まず観光に訪れた人々の目を引くのは、宮殿のイメージとは掛け離れた「ペーナ国立宮殿」の外観だ。
宮殿には珍しい朱色や黄色、青といった多彩な色使いで非常にインパクトが強い。
その影響もあってか、人々からはテーマパークのセットを連想させる印象や、まるでオモチャのブロックで組み立てられたような宮殿らしくない世界遺産だといった感想が聞こえてくる。
見る人の心に強く残る「ペーナ国立宮殿」の色彩豊かな風貌は、文化的景観としての要素を発揮していると評価され1995年に世界遺産登録された。
シントラの街の歴史を物語る遺産というよりも、見る人の気持ちを楽しませる「ペーナ国立宮殿」の独特な建築様式が最大の魅力とされているのだ。
イスラム寺院の丸みを帯びたモスクを象ったような屋根に、ファンタジー映画に登場するようなアーチ型の出入り口、そして壮大な八角形の塔といった、ちぐはぐな「ペーナ国立宮殿」の建造様式を見る限り、発案者の好みだけを存分に詰め込んだ理想の宮殿ともいえる。
個性的な建造物のアイディアは、ポルトガル国王が描いた空想世界そのもの
「ペーナ国立宮殿」が建設される以前、その場所にはペーナ修道院が建設されていた。
その後、1755年に発生したポルトガルの歴史上に残る大規模な震災『リスボン大震災』の被害を受け、ペーナ修道院は倒壊してしまうのだが、奇跡的に礼拝堂部分だけは倒壊を免れるかたちとなった。
現在も「ペーナ国立宮殿」の一角にこの礼拝堂は大切に保存されており、その場所は、朱色に塗装された外観部分に当たるという。
そんなペーナ修道院の奇跡的な出来事に感銘を受けた人々の中に、「ペーナ国立宮殿」の発案者でもあるポルトガル国王『フェルナンド2世』の姿があった。
彼は震災で崩壊したシントラの街の状況に驚きながらも、このペーナ修道院の跡地に、自身が思い描いた理想の離宮を建設させるのだという強い野望を抱き始める。
その信念を貫くように彼はすぐさま、遥々ドイツから建築家を呼び寄せ、着々と「ペーナ国立宮殿」建設の計画を進めていくのであった。
「ペーナ国立宮殿」から連想される2人の国王の存在
自身の世界観を追い求める『フェルナンド2世』という人物像を知れば知るほど、ドイツの名城「ノイシュヴァンシュタイン城」の建設に莫大な金額を注ぎ込んだ『ルートヴィヒ2世 (バイエルン王)』の姿と重なる部分が多い。
自身の理想に対する情熱と、思い描いてきた空想の世界を再現することに没頭する姿勢、建造物の完成を見届けることなくこの世を去ってしまう運命まで類似している2人。
この2人の生涯が大きく影響してなのか、2人は親族関係にあたるという諸説まで生まれ「ペーナ国立宮殿」は、『ポルトガルのノイシュヴァンシュタイン城』と呼ばれることも多くなった。
純粋に夢とロマンを追い続けた彼らが、互いの存在を意識していたかは分かり兼るが、少なくとも互いに似ている思考や夢にかける情熱には通じ合うものがあったに違いない。
「ペーナ国立宮殿」に託された皆が憧れる夢の国
多様な色彩やデザイン性が溢れる「ペーナ国立宮殿」は、『フェルナンド2世』が独自に描き続けた夢の世界そのものが宮殿全体に広がっている。
薔薇や蛇、騎士の正装といった統一性のない彫刻の数々や、ポルトガルを象徴する装飾タイル『アズレージョ』が内装の壁から外壁までふんだんに施されていることからもその独自の世界観が強く伝わってくる。
一定のコンセプトを基に建設されたものではなく、宮殿のどこに居ても、宮殿のどこから眺めても、常に自身の趣向に合った景色が目に入るように設計された『フェルナンド2世』邸と述べた方が正しいくらいだ。
一度、目にしたら忘れない色彩豊かな「ペーナ国立宮殿」は、完成から約100年以上もの間、『フェルナンド2世』の感性と柔軟なデザイン性の高さを世界中に広めると共に、ポルトガル・シントラから国王が実現させた夢の国を人々に伝え続けている。
この記事へのコメントはありません。