東京都知事選、ポスター騒動で混乱
今回の東京都知事選挙は、候補者のポスターを巡って様々な問題が発生し、選挙戦に大きな混乱をもたらしています。
告示日当日(6月20日)には、「ほぼ全裸」の女性が写ったポスターが掲示され、警視庁は「都の迷惑防止条例違反の可能性がある」として候補者に警告を行い、女性のポスターは即日撤去されました。
また、NHK党は24人の候補者を擁立し、選挙掲示板の「ハイジャック」を呼びかけました。同党は寄付者に掲示板のスペースを提供するという戦略を取り、選挙とは無関係のポスターが多数掲示される事態となります。
渋谷区の選挙掲示板に貼られた24枚のポスターには、女性向け風俗店を宣伝するQRコードが含まれており、このQRコードを読み取ると、その店の元従業員とみられる人物のSNSアカウントに誘導される仕組みになっていました。
NHK党の立花孝志党首は、警視庁から風営法違反の可能性を指摘され、警告を受けたことを明らかにしました。立花氏は自身のYouTubeチャンネルを通じて、問題のポスターを別のものに差し替えたと説明しています。
上記のように今回の都知事選では、前例のないメディア戦略が展開され、多くの有権者が戸惑っているような状態です。
現代社会において候補者のメディア戦略は、選挙の勝敗を決める重要な要素の一つと言っていいでしょう。
歴史をさかのぼると、選挙のメディア戦略を効果的に展開した政党として、真っ先に名前が上がるのは「ナチ党(ナチス・ドイツ)」になります。
歴史上、最も悪名高い政党の一つであるナチスですが、その台頭と権力掌握にはイデオロギーや軍事力だけでなく、巧妙なデザイン戦略が大きな役割を果たしました。
今回の記事では、ヒトラー率いるナチスのメディア戦略を見ていきたいと思います。
ヒトラーの美術的背景
アドルフ・ヒトラーは若い時期、画家になることを夢見ていました。
ウィーン美術アカデミーには入学できなかったものの、美術への関心は深く、ナチスのビジュアル面(党の旗、ポスター、制服のデザインなど)に大きな影響を与えています。
シンボルマークの作成、ポスターのデザイン、そして制服のスタイルなど、ナチスは視覚的なアプローチを使うことで、有権者へのアピールを成功させたのです。
ナチスのシンボルで最も有名なのは、言うまでもなく「鉤十字(ハーケンクロイツ)」になるでしょう。
古代のシンボルを採用することで、ナチスは「アーリア人の純血性」という神話的な概念と結びつけたのです。シンプルで力強さを感じさせるシンボルは、瞬時にナチスと認識でき、強い印象を与えました。
またナチスは「赤、白、黒」という強烈な色の組み合わせを採用。赤は情熱と革命を、白は純粋さを、黒は力強さを象徴しています。
この配色は、ナチスの旗や腕章、ポスターなど、あらゆる場面で一貫して使用され、強力なブランドイメージを形成しました。
SS(親衛隊)の黒い制服は、ナチスのデザイン戦略の代表例です。
これらの制服は、現在でも有名なファッションブランドである「ヒューゴ・ボス」によってデザインされています。機能性と美しさを兼ね備えたこれらの制服は、若者たちの心を掴み、ナチ党への加入を促進しました。
ナチスは文字デザインとして「ゴシック体」を多用しています。この文字体は「ドイツ的」と見なされ、ナショナリズムを視覚的に表現することを可能にしました。
ナチスのプロパガンダ(選挙)ポスターは、シンプルで力強いメッセージと鮮烈なビジュアルで知られています。
また、レニ・リーフェンシュタールの映画「意志の勝利」や「オリンピア」は、ナチスの理想を視覚的に表現し、国内外に強い印象を与えました。
デザインの影響力
ナチスのデザイン戦略は、とくに若者への煽動に効果的でした。
制服や腕章、ポスターなど一貫したデザインを毎回使用し、ドイツ国民に強い印象を与えることで、ナチスの主張や価値観を無意識に受け入れていったのです。
しかしナチスの例が示しているように、デザインは人々の心を動かし行動を促す強力なツールです。時にはデザインの力が悪用される危険性もはらんでいます。この強力な力を私たちは再認識し、責任を持って使用する必要があります。
現代社会において、メディアリテラシー(デザインリテラシー)の重要性はますます高まっています。
インパクトのあるデザインや言葉に惑わされることなく、その背後に潜んでいるメッセージや意図を批判的に判断する能力を持つ必要があるでしょう。
参考文献:鳥飼行博(2011)『写真・ポスターに見るナチス宣伝術 : ワイマール共和国からヒトラー第三帝国へ』青弓社
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