イスラエルで保守強硬派のネタニヤフ政権が誕生して以降、中東ではイスラエルとイランの軍事衝突を懸念する声が聞かれる。
米国とイスラエルは2023年1月、米兵6000人とイスラエル兵1000人あまりが参加し、核搭載可能な戦略爆撃機B52を含む爆撃機など140機と、艦船10隻あまりを投入した大規模な合同軍事演習「ジュニパー・オーク」を行った。
この軍事演習について、米軍は「特定の敵に照準を合わせたものではない」としながらも、その矛先はイランがあることは間違いない。
そして、イランではその直後、中部イスファハンにある軍事工場に小型爆弾を積んだドローン3機が飛来する事件があり、イランは「軍事工場の破壊を狙ったイスラエルによる仕業」との声明を発表し、報復措置も辞さない構えで強くけん制した。
米軍は依然としてクウェートやバーレーンなど中東に駐留しているが、以前と比べ中東における影響力が低下し、イスラエルとイランを巡る関係でも影響力の低下を露呈する。
そして、それに伴って中東で影響力を高めているのが中国だ。
目立つ中国の存在感
それを象徴する出来事が2023年3月にあった。
イランとサウジアラビアは3月10日、外交関係を正常化させることを発表した。
両国は2016年、サウジアラビアによるシーア派聖職者の処刑を巡り緊張が高まり、テヘランにあるサウジ大使館が襲撃されたことを受けサウジがイランと断交した。
イスラム教スンニ派の盟主であるサウジアラビアは長年、アラビア半島で影響力を拡大しようとするシーア派の盟主イランの動きを強く懸念し、両者は中東での覇権を巡って争ってきた。
2015年以降のイエメン内戦では、サウジアラビアはイエメン政府側へ軍事支援を行い、イランは反政府勢力のシーア派武装勢力フーシ派を支援し、両国はイエメンで事実上の代理戦争を繰り広げてきた。
フーシ派がサウジ領内へのミサイル発射を繰り返し、サウジアラビアのイランへの不満や警戒も強かった。
その両国を説得し、外交関係の回復にまでこぎ着けたのが中国だ。
イランは長年中国と良好な関係を維持する一方、サウジアラビアと米国の関係はバイデン政権になって急速に冷え込み、脱石油の経済多角化を目指すサウジアラビアはここ数年中国へ接近を試みてきた。
2022年12月には、習国家主席がサウジアラビアを訪問し、投資拡大やエネルギー協力など経済分野で関係を強化していくことで一致した。
中東の2地域大国を和解へと導いた中国を、中東諸国はどう評価するだろうか。
様々な意見はあろうが、これは中東において影響力拡大を目指す中国にとって大きな一歩になったことは間違いなく、他のアラブ諸国にも大きな影響を与え、上述のイスラエルにとっては対アラブ諸国で大きな変化を与えるかもしれない。
日本にとっては脅威となるのか
だが、エネルギーを中東に依存する日本は、2つの懸念を検討するべきだろう。
1つは、中国がこういった影響力拡大を台湾侵攻への足掛かりと位置付ける可能性である。
台湾侵攻において中国が重視するのは、どれくらいの国が沈黙するか、非難しないか、中国に制裁しないかである。
習政権としては、侵攻までの期間、中国の国際評判を高めることで侵攻しやすい政治的環境を作り出したく、そういう意味では、今回の中東の大国サウジアラビアとイランの国交正常化を手伝い、国際評判を高めたことには大きな意義があろう。
また、中国は中東の石油利権を獲得したい。
仮に中国が大きな利権を確保することになれば、日中関係の悪化に伴って中国が日本に対して政治的揺さぶりを掛け、日本のエネルギー安全保障の安定に悪影響を与える恐れがある。
ここにもエネルギー資源の多角化を目指すべき理由がある。中国は中東で存在感を明らかに強めている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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