国際情勢

『台湾で何が起きているのか』義務兵役復活、市民が銃を学ぶ、避難用シェルター検索アプリ

台湾海峡での緊張が高まる中、台湾社会は有事に備えた具体的な変化を遂げている。

政府は市民の安全確保と防衛力強化に向けた施策を加速させ、民間でも自衛意識が高まりを見せる。

避難用シェルター検索アプリの導入、徴兵制の延長、民間軍事会社による訓練の普及など、台湾は有事への備えを社会全体で進めている。

シェルター避難や徴兵制の延長

画像 : 変わる台湾社会 イメージ

台湾政府は、市民が迅速に避難できるよう、スマートフォン向けの「避難用シェルター検索アプリ」の活用を開始した。

このアプリは、GPSを活用して最寄りのシェルターをリアルタイムで表示し、地下鉄駅や公共施設の防空壕情報を提供する。

2021年の国防報告書では、中国の「グレーゾーン脅威」への警戒が強調され、サイバー攻撃や認知戦への対抗策として情報リテラシー教育も強化されている。アプリの普及は、市民が有事を身近な脅威として捉え、日常的に備える姿勢を反映している。

2024年には、シェルターの点検と拡張も進められ、台北市だけで新たに500カ所の避難施設が指定された。

徴兵制の改革も大きな変化である。

台湾は1951年から徴兵制を採用してきたが、2018年末に志願制へ移行した。しかし、中国の軍事圧力の高まりを受け、2022年12月に蔡英文政権は2024年1月から1年間の義務兵役を復活させた。

新制度では、新装備の操作訓練や実戦的な演習が義務付けられ、従来の4カ月間の訓練よりも内容が強化された。陸軍は義務役兵主体の歩兵旅団を7個新編し、2024年から受入れを開始した。

X上では、若者の間で訓練の厳しさに対する不満も見られるが、多くは「国を守る責任」を受け入れる姿勢を示している。

台湾市民が銃器の使用について学ぶケースも

画像 : 台湾各地にある民間シェルター Solomon203

民間レベルでも、有事への備えが広がる。

民間軍事会社が主催する軍事訓練が人気を集め、市民が銃器の扱いや基礎戦術を学ぶ機会が増加している。これらの訓練は、都市戦やゲリラ戦を想定し、実戦的なシナリオに基づく。

2024年には、女性や高齢者向けの軽装備訓練も開始され、参加者が多様化している。
X上では、市民の自衛意識の高まりが話題となり、一部では「全民防衛」の機運が強まっているとの声もある。

また、2021年に設立された「全民防衛動員署」は、民間人の動員体制を強化し、有事での即応力を高める。
民間企業も防災訓練を拡充し、医療や食糧備蓄の準備を進めている。

これらの変化は、台湾社会が中国の軍事侵攻を現実の脅威と捉えている証左といえよう。

2024年の台湾総統選挙で頼清徳氏が当選し、蔡英文路線を継承する中、中国は「台湾は中国の一部」との主張を強め、軍事演習を活発化させている。

台湾の備えは、こうした圧力への直接的な応答であり、市民と政府が一丸となって有事に備える姿勢は、今後さらに加速するだろう。

社会全体の団結は、台湾の抵抗力を象徴するが、平和の維持には国際社会の支援が不可欠である。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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