2024年の米大統領選を機に、ドナルド・トランプとイーロン・マスクは、一時「ブロマンス」と称されるほどの親密な関係を築いた。
マスクの巨額の選挙資金提供やトランプのテスラ支援は、両者の利害が一致した蜜月時代を象徴していた。
しかし、2025年6月、両者は公然と対立。互いを「恩知らず」「失望」と罵り合う事態に至った。
この劇的な決裂の背景には、何があったのか。
利害の一致から始まった蜜月

画像 : イーロンマスク氏 public domain
トランプとマスクの接近は、2024年7月のマスクのトランプ支持表明に始まる。
マスクは約3億ドル(約420億円)の巨額献金をトランプ陣営に投じ、選挙戦での影響力を拡大。
トランプはこれを歓迎し、マスクを「偉大な革新家」と称賛。
2025年1月のトランプ政権発足後、マスクは「政府効率化省(DOGE)」のトップに任命され、連邦政府のコスト削減や規制緩和を主導した。
トランプは、マスクのテスラやスペースXに有利な政策を打ち出し、特に宇宙政策では「マスク・ファースト」とまで評された。
一方、マスクはトランプの「米国第一主義」を後押しし、自身のビジネス拡大を目論んだ。
この時期、両者は互いの利益を最大化するパートナーだった。
自由への渇望と政府の統制
しかし、両者の理念は根本的に異なっていた。
マスクは「言論の自由絶対主義者」を自称し、X(旧Twitter)を買収して自由な発言の場を構築。
政府の介入を嫌い、規制撤廃を強く主張した。
一方、トランプは「米国第一主義」を掲げ、関税強化やEV補助金削減など、国家主導の経済政策を優先。
マスクのテスラは、中国市場やEV普及に依存するビジネスモデルだったが、トランプの関税政策はこれを直撃。
不買運動が広がり、テスラの株価は2025年6月5日に14%急落、時価総額1520億ドルが吹き飛んだ。
マスクはトランプの政策を「景気後退を招く」と批判し、自由市場を重視する自身の理念との齟齬を隠さなかった。
法案を巡る対立の火種

画像 : 2025年7月4日、ホワイトハウス南庭にて『ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法 One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)』に署名するトランプ大統領 public domain
決裂の直接の引き金は、トランプが推進した「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」だ。
この大型減税・歳出法案は、2017年のトランプ減税法の延長に加え、議会共和党が追加したさまざまな項目で肥大化。
マスクはこれを「法外な利益誘導の塊」と呼び、Xで猛批判を展開。
トランプは「私がイーロンを助けてきたのに」と失望を表明し、マスクの企業への政府契約解除をちらつかせた。
これに対してマスクは「私がなければトランプは選挙に勝てなかった」と反撃。
さらに、トランプが「エプスタイン・ファイル」に名を連ねるとの投稿で個人攻撃に走り、両者の応酬は泥沼化した。
この対立は、単なる政策の不一致を超え、互いのエゴの衝突を露呈した。
報復の連鎖と経済への波及

画像 : カリフォルニア州にあるスペースX本社(Steve Jurvetson CC BY 2.0)
トランプは報復として、テスラの自動運転技術に対する調査強化やスペースXの政府契約見直しを示唆。
連邦航空局(FAA)や証券取引委員会(SEC)を動員し、マスクのビジネスに圧力をかける可能性も浮上した。
一方、マスクはスペースXの宇宙船「ドラゴン」の運用停止を匂わせ、NASAへの影響を牽制。
この応酬は、テスラ株のさらなる下落や共和党内の分裂を招き、トランプの政治的遺産である法案の成立も危うくなった。
マスクのXでの発信力はトランプの「トゥルース・ソーシャル」を圧倒し、SNS上での影響力の差も明確に。
両者の対立は、経済や政治に深刻な波及効果をもたらしている。
修復の可能性と未来への示唆
6月11日、マスクは「言い過ぎた」と一部投稿を削除し、関係修復の可能性を示唆。
トランプも「彼の幸せを願う」とトーンを抑えたが、早期の和解には否定的だ。
両者の決裂は、互いのエゴと野心が交錯した結果であり、単なる個人的な衝突ではない。
マスクの自由市場志向とトランプの国家統制主義は、根本的な相性の悪さを露呈した。
この対立は、米国の政治と経済の分断を象徴し、今後の政策や市場の不安定さを予見させる。
マスクが新党設立を仄めかすなど、両者の影響力は依然として大きいが、蜜月は再び訪れるのか。
それとも、新たな対立の火種となるのか。世界が注視する。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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