平安時代

本当に「平家物語」は平家の怨霊を慰めるためにつくられたのか?

「『平家物語』は平家の怨霊を慰めるためにつくられた」というような話を聞いたことがある。これは果たして本当のことなのであろうか。調査をしてみた。

井沢元彦「学校では教えてくれない日本史の授業」

2011PHP研究所から出版された井沢元彦学校では教えてくれない日本史の授業」という本がある。

教科書は何事をも教えてはくれぬものである」という旨の主張は、音楽ユニットTM NETWORK9枚目のシングル「Self Control(方舟に曳かれて)」でも言及されているところである。

教科書に楽書きをしながら、外ばかり眺めて学生時代を過ごしていた私のような者の心を大いにつかむものがある。

この実に魅力的なタイトルの本に「『平家物語』は平家の怨霊を慰めるためにつくられた」という説が書かれているのを私は見つけた。

井沢氏は同書の「『驚くべき真実』まえがきに代えて」においてこのように述べる。

日本史の専門学者こそ日本史を知らない」

その根拠として井沢氏は「異言語を学ぶからこそ自言語の特徴に気づく」という語学学習の事例を根拠にして、「ずっと日本史しかやっていない専門学者では、日本史の特徴は見えない」と主張する。
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井沢氏は同書の第三章「桓武天皇と藤原氏は怨霊を恐れていた!」の中で、「御霊信仰」についての教科書の記述を引用して、「まるで日本の怨霊信仰は平安時代から始まったかのような誤解を与えてしまう危険性があります」と述べる。(*御霊信仰とは、天変地異や疫病流行などを、「非運にして生命を失った者の怨霊」によるものと考えて、彼らを「御霊神(ごりようじん)」として祀ったものを言う。)

そして井沢氏は、奈良時代における「長屋王の変」を取り上げ、「長屋王の祟り」を恐れたことが聖武天皇の時代の「遷都」や「大仏の建立」へと繋がったという指摘をする。

また「桓武天皇が弟・早良親王の祟りを恐れて平安京へと遷都した」との旨も述べ、「怨霊信仰は教科書にあるように平安中期に御霊信仰として始まったものではなく、もっと古くから実在し、日本人に恐れられてきた信仰だ」としている。

また「『源氏物語』は怨霊鎮魂の書だ!」と述べた後、いよいよ当記事の本題である「平家物語と怨霊」について言及する。

こうした流れを知っていれば、この『平家物語』も、平氏の怨霊を鎮魂するためにつくられたものであることが容易に想像できると思います。」

井沢氏は「耳なし芳一」の逸話を引用しながら「特に注目してほしいのが、平家の怨霊が自ら『平家物語を語ってくれ』と言い、芳一の弾き語りを涙を流しながら熱心に聞いていることです」と述べて「『耳なし芳一』の話は、『平家物語』よりもずっと後のものですが、『平家物語』における鎮魂の方法論がとてもよく表れていると言えます」とする。

そして「『平家物語』の作者を突き止める史料」として「徒然草」の226段を引用する。

「後鳥羽院の御時、信濃前司行長、稽古の誉ありけるが、(中略)この行長入道、平家物語を作りて、生仏といひける盲目に教へて語らせけり。」

また井沢氏はこのように述べる。

さらにもう一つ、私が『徒然草』の記述で着目していることがあります。それは多くの学者の先生方も、意外に見逃してしまっていることですが、慈円が『パトロン』となって書かせた、と明記されていることです

と、痛烈な学者批判をしながら「平家物語成立に天台座主慈円が関わっていた」と指摘する。

井沢氏はさらに慈円の著書である「愚管抄」に着目し、

彼は『この世の乱れはすべて怨霊が原因だ』と書いているのです。つまり、彼もまた怨霊信仰の信者だったのです。慈円が『平家物語』を書かせたのは、平氏の怨霊を鎮魂するために間違いありません。

と述べる。

そして「怨霊をまったく恐れず、鎮魂をしようともしない源氏の姿に、慈円を始めとする貴族たちは大きくショックを受けたことでしょう」として、「自らも怨霊信仰の信者である慈円は、人々の思いを汲み、この国の将来のためにという使命感を以て、平氏の怨霊鎮魂という大プロジェクトのプロデュースを引き受けた」と結論づけている。

以上が井沢元彦氏の論である。私がどこかで聞いた論というのも大体こんな感じであった。
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