古代文明

ギルガメシュ叙事詩とシュメール王ギルガメシュ 「神か?人間か?」

ギルガメシュ
※シドニー大学のグラウンドにあるギルガメシュ像 D. Gordon E. Robertson

世界最古の王にして、女神より生まれし英雄。神話の世界と現実の境界で見え隠れするその人物は、シュメール語で語られた伝承のみでしか知ることが出来ない。

あらゆる神話の原点ともいえるギルガメシュ叙事詩の主人公であるギルガメシュについて調べてみた。

シュメールの王


※アッカド語の楔形文字

ギルガメシュ(アッカド語/古代メソポタミアの共通言語)は、古代メソポタミアシュメール初期王朝時代の伝説的な王である。メソポタミアは、ギリシャ語で「複数の河の間」の意味であり、チグリス川とユーフラテス川の間の沖積平野である。現在のイラクの一部にあたる。

シュメール王名表によれば、ウルク第1王朝第5代の王として126年間在位した。もちろん、この在位期間は神話的な発想であり、彼は紀元前2600年頃の人物とされているが信憑性は非常に低い。なお、その名は「祖先は英雄」を意味していた。

ウルク第1王朝の伝説的な王ルガルバンダを父に、女神リマト・ニンスンを母に持ち、シュメールの最高神(天空神)アヌ・主神(大気神)エンリル・水神エアから知恵を授かる。その体は3分の2が神、3分の1が人間という半神半人であった。

これらの話は、粘土板に楔形文字で記された「ギルガメシュ叙事詩」をもとに読み解くしかないため、ほぼ神話と考えて読まないといけない。

ただし、ギルガメシュという王が実在したの可能性は高い。

ギルガメシュ叙事詩


※ライオンを捕獲したギルガメシュのレリーフ

ギルガメシュの力は強大で、ウルクで彼に敵うものはいなかった。ライオンを捕らえ、ペットのように扱うなど、ただの人間ではないことがわかる。

しかし、彼の力は驕りとなり、やがて暴君へとなった。

都の乙女たちを奪い去るなどの悪行に耐えかね、ウルクの人々が神々に訴えると、大地の女神アルルは粘土からエンキドゥという野獣のような猛者を造り上げた。
ギルガメシュとエンキドゥとは長きわたる戦いの末に、互いを認め合い無二の親友となった。
それからのギルガメシュは己の行動を改め、エンキドゥと行動のすべてを共にするとともに、王政も穏やかになり民から愛される王となる。

その後は、二人で遠い森に住む恐ろしい森番フンババを倒したが、ウルクに帰ると女神イシュタルがギルガメシュの英姿に魅せられて誘惑するようになった。その誘いを断ると怒ったイシュタルは天の神アヌに強要して、天の牛によりウルクを滅ぼそうとする。それに対して二人はまたしても力を合わせ天の牛に勝ったのだ。

しかし神々はエンキドゥにフンババと天の牛を殺した償いに死を宣告、エンキドゥはギルガメシュに見守られて息を引き取る。このとき、ギルガメシュは今まで見せたことのない悲しみを表したという。

残されたギルガメシュは永遠の命を求め「不死の草」を探す旅に出たのだった。

世界最古の物語

ギルガメシュ
※ジョージ・スミス

楔形文字の解読は1861年から始まっていたが、世界を驚かす発見は1872年に発表された。

イギリスの考古学者でアッシリア学者でもあるジョージ・スミスが、ギルガメシュ叙事詩を解読し、聖書の「ノアの箱舟」と同じような大洪水伝説がこの叙事詩のなかにも記されてることに気付いたのだ。

それまで、ヨーロッパの人々は「聖書」こそ世界最古の物語であると信じており、それより以前に原型ともいえる物語があったことに驚愕した。

解読が進むにつれその文学性に注目が集まり、19世紀末には更に研究が進みジョージ氏没から15年の時を経た1891年、1人の研究者が登場人物の名を「ギルガメシュ」と初めて正しく読むことに成功する。以降1900年の独訳を始めとして各国語への翻訳が進み、各地の神話・民話との比較が盛んになる。

神か?人間か?

ギルガメシュ

実在のギルガメシュ自身に関する考古学的資料は現在までのところ発見されていない。

しかし、伝説や碑文の中でギルガメシュと共に登場するエンメバラゲシの実在性が確実視されていることから、ギルガメシュも紀元前2600年頃には実在したとされている。

エンメバラゲシは、古代メソポタミア、シュメール初期王朝時代のキシュ第1王朝の伝説的な王である。シュメール王名表に記載されている王の中で、考古学的に実在が確認されている最古の王でもある。その時代は紀元前2800年頃と推定されており、その200年ほど後のギルガメシュの存在もまた確かなものであると言われているのだ。

しかし、ギルガメシュは死後に神格化され、冥界神として崇められたという説もあり、人間的な友情や、自然との戦い(大洪水)、不死の追求など人間が古代から身近に感じる要素を詰め込んだ後世のフィクションといったほうがいいだろう。

最後に

ギルガメシュがバビロニアの王だったという話もよく聞くが、これはバビロニアにおける「捨て子伝説」がギルガメシュ叙事詩と結び付けられ、捨て子だった赤子ギルガメシュが後にバビロン王となったというものだ。

しかし、バビロニア第1王朝は紀元前1900年頃に栄えており、後の世の創作である。

 

gunny

gunny

投稿者の記事一覧

gunny(ガニー)です。こちらでは主に歴史、軍事などについて調べています。その他、アニメ・ホビー・サブカルなど趣味だけなら幅広く活動中です。フリーでライティングを行っていますのでよろしくお願いします。
Twitter→@gunny_2017

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. モアイだけじゃない!イースター島の「鳥人間伝説」とは
  2. アメリカ大陸最古(1万3000年前)の骨製ビーズが発見される 「…
  3. ズールー族の伝説に登場する 「3つの恐るべき怪物」
  4. 【娘と馬が夫婦になって父が激怒】東北地方に根ざした「オシラサマ信…
  5. 『神話と伝承に潜む怪魚たち』アウニュ・パナ、ジフィウス、奔䱐、万…
  6. 【神話に潜む美の恐怖】 世界の『宝石』にまつわる怪物たちの伝承
  7. 日本最古の天皇陵は160年前に決められた? たった7カ月で築かれ…
  8. 恐るべき古代の「鳥人間」伝説 ~ハーピーから姑獲鳥まで

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

現代科学で検証した「長篠の戦い」の真実 【織田鉄砲隊の三段撃ちはなかった】

長篠の戦いとは長篠の戦いとは、戦国時代の天正3年(1575年)5月21日、三河国長篠城を…

【女装したスパイ】 シュヴァリエ・デオンの異色の人生 「フランスとロシアを繋いだ男」

18世紀のヨーロッパは、各国が自国の利益確保と領土拡大に熱心な時代でした。そんな時代…

徳川家康の死因は「鯛の天ぷら」だったのか?

時は元和2年(1616年)4月17日。徳川家康が75歳の生涯に幕を下ろしました。人質の身分か…

【誰でもわかる古事記】 天岩戸隠れをわかりやすく解説 「暴れるスサノオ、引きこもるアマテラス」

『古事記』とは『古事記』は、日本最古の歴史書であり、奈良時代の712年に完成したものである。…

なぜ九州の『宇佐神宮』が 伊勢神宮と共に「二所宗廟」として扱われたのか?

宇佐神宮は、全国4万6000千社以上ある八幡神社の総本宮である。6世紀に宇佐の地に八…

アーカイブ

PAGE TOP