現在、日本の防衛政策は大きな転換期を迎えている。
その中心に据えられているのが、敵基地攻撃能力、すなわち「反撃能力」の保有である。
これまで専守防衛を原則としてきた日本が、なぜ自ら攻撃能力を持つに至ったのか。その背景には、中国や北朝鮮の軍拡、そしてロシアのウクライナ侵攻といった国際情勢の急速な変化がある。
特に中国は、南シナ海や東シナ海での軍事活動を活発化させ、日本周辺の安全保障環境はかつてないほど厳しさを増している。
こうした状況下、日本は自衛のための抑止力を強化する必要に迫られたのである。
日米同盟の新たな局面と九州の戦略的価値

画像 : 防衛装備庁の航空装備研究所新島支所で行われた12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型)の発射試験の様子。※防衛省
反撃能力の保有に際し、その拠点として特に注目されているのが九州である。
陸上自衛隊は、長射程ミサイルである「12式地対艦誘導弾能力向上型」を、熊本市東区の健軍駐屯地へ、2025年度末と2026年度の2段階で配備することを発表した。
このミサイルは、射程が約1,000kmとされ、中国や北朝鮮沿岸部を射程に収めることが可能となる。九州が選ばれた背景には、その地理的な優位性がある。
九州は、中国大陸や朝鮮半島に近く、有事の際に迅速な対応が可能となる。また、沖縄県の在日米軍基地との連携も容易であり、日米同盟の強化を図る上でも重要な拠点となる。
また、健軍駐屯地には既に地対艦ミサイル連隊があり、訓練基盤と整備基盤が整っていることが選定理由の一つと九州防衛局は説明している。
このように、九州は日本の防衛における最前線基地としての役割を担うことになったのだ。
ミサイル配備がもたらす抑止力とリスク
長射程ミサイルの配備は、中国や北朝鮮に対する強力な抑止力となることが期待されている。
敵が日本への攻撃を企図した場合、日本側が反撃能力を持つことで、その攻撃を躊躇させる効果が見込まれる。
しかし、その一方で、ミサイル配備は新たなリスクも生じさせる。それは、九州が敵の第一標的となる可能性が高まることだ。
有事の際、敵は日本の反撃能力を無力化するため、配備されたミサイル基地を攻撃目標とすることが考えられる。
これまでの「攻撃されることはない」という安全神話は崩れ、九州はより一層の緊張下に置かれることになる。
地方自治体と住民の選択

画像 : 熊本 健軍駐屯地 wiki c 副局長
このような防衛政策の転換は、当然ながら地元住民の間に大きな波紋を広げている。
現時点では、九州防衛局が熊本県庁と熊本市役所で説明を行った段階で、住民向け説明会は今後の課題となっている。
国は、地域の安全保障を高めるためとしてミサイル配備の必要性を説くが、住民からは「かえって危険になるのではないか」「なぜ私たちの住む場所が標的にならなければならないのか」といった不安の声が上がっている。
長崎の平和学習に象徴されるように、九州には戦争の悲劇を経験した歴史がある。
だからこそ、防衛力の強化と平和共存のバランスをどう取るべきか、その問いは重くのしかかっている。
問われる日本の未来
反撃能力の保有は、日本の防衛における大きな一歩である。
しかし、それは同時に、日本が自国の安全保障を自らの手で担うという覚悟の表れでもある。
抑止力の強化は、平和を守るための重要な手段だが、それが新たな紛争の火種とならないよう、外交努力との両輪で進めていく必要がある。
九州に配備されるミサイルは、単なる兵器ではなく、日本の未来、そしてアジアの平和を左右する象徴となりつつある。
私たちは今、自国の安全保障について真剣に考え、議論しなければならない。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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