ソーシャルメディア(SNS)は、現代社会において情報発信や意見交換の場として革命的な役割を果たしている。
特に、独裁政権下での民衆の不満や抗議の声が瞬時に広がるその力は、政権にとって脅威となり得る。
アラブの春や、近年のバングラデシュ反政府デモなど、SNSが政権崩壊に寄与した事例は多い。
しかし、独裁者たちもまた、SNSを監視やプロパガンダの道具として利用し、対抗策を講じている。
今回は、SNSがどのようにして独裁政権に挑戦し、あるいは利用されてきたのか、具体的な事例を通じて考察する。
アラブの春:SNSが火をつけた革命

画像 : アラブの春 public domain
2010年末から2011年にかけて中東・北アフリカで起きた「アラブの春」は、SNSが政治変動に与えた影響を象徴する出来事だ。
チュニジアでは、露天商のモハメド・ブアジジが抗議の焼身自殺を図ったことをきっかけに、FacebookやTwitterを通じて反政府デモの呼びかけが広がった。
これにより、約23年間続いたベン・アリー政権は、2011年1月に崩壊した。
エジプトでも同様に、ホスニ・ムバラク大統領に対する抗議運動がタハリール広場を中心に展開され、SNS上で共有された動画や画像が国際的な注目を集めた。
ムバラク政権はインターネットを遮断するなど情報統制を試みたが、かえって民衆の怒りを増幅させ、約30年の長期政権はわずか数週間で終焉を迎えた。
SNSは、孤立していた人々を結びつけ、「多数の無知」を打破する役割を果たしたのだ。
バングラデシュ:若者とSNSの連帯

画像 : バングラデシュ暴動 道路を封鎖する学生(7月6日)Rayhan Ahmed CC BY-SA 4.0
近年では、2024年のバングラデシュ反政府デモが、SNSの影響力を再び示した。
ハシナ首相の長期政権に対する不満が高まる中、学生や若者たちがSNSを活用して抗議活動を組織化したのである。
デモの様子や政府の過剰な武力行使を撮影した動画が、TwitterやInstagramを通じて瞬時に拡散され、国内外の世論を動かした。
特に、若者たちが投稿した映像は、政府の弾圧の実態を暴き、国際社会からの圧力を高める要因となった。
結果、ハシナ政権は2024年8月に崩壊し、彼女は国外へ逃亡する事態に至った。
バングラデシュの事例は、SNSが民衆の声を増幅し、政権の正当性を揺さぶる力を改めて証明した。
独裁者の逆襲:SNSの統制と利用
しかし、独裁政権もSNSの力を無視しているわけではない。アラブの春以降、政権側はSNSを監視・統制する技術を強化している。
例えば、エジプトでは軍事政権がSNSを活用して自らのプロパガンダを展開し、反体制派の動きを監視した。
バーレーンでは、政府が支持者にハマド国王の写真をSNSに投稿させるキャンペーンを展開し、世論操作を試みた。
イランでは、2019年に抗議運動の拡散を防ぐため、インターネットを一時遮断する強硬手段に出た。
さらに、独裁者たちはフェイクニュースや偽情報を流すことで、SNS上での反政府の声を中和する戦術も採用している。
これらの事例から、SNSは民衆だけでなく、政権側にとっても強力な武器となり得ることがわかる。
SNSの二面性と今後の展望

画像:SNSイメージ
SNSは確かに独裁政権に対する民衆の武器となり得るが、その効果は一時的かつ限定的である場合もある。
アラブの春ではチュニジアやエジプトで政権が崩壊したものの、シリアやバーレーンのように内戦や弾圧が長期化した国も多い。
また、政権側がSNSを逆利用する術を学んだことで、単純な情報拡散だけでは変革が難しくなっている。
バングラデシュの成功は、若者の団結と国際的な圧力が結びついた結果ともいえる。
今後、SNSが独裁政権への脅威であり続けるためには、情報の真偽を見極めるリテラシーや、オンラインとオフラインの運動の連携が不可欠だ。
民衆の声が世界に届く一方で、独裁者もまたその声を抑え込む新たな方法を模索し続けるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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