国際情勢

習近平氏が「台湾制圧」を目論む本当の狙いとは?

習近平国家主席は、「台湾統一は中国共産党にとって譲れない歴史的使命」と繰り返し主張し、台湾を中国の一部とする立場を崩さない。

この強硬な姿勢は、単なる領土問題を超えた戦略的意図を秘めている。

台湾は世界の半導体産業の中心地であり、特にTSMC(台湾積体電路製造)は、最先端半導体の生産で圧倒的なシェアを誇る。

習近平氏の真の狙いは、台湾を支配下に置くことでこの半導体産業の利権を掌握し、経済的・軍事的覇権を強化することにあるだろう。

さらに、台湾は西太平洋における地政学的要衝であり、中国の軍事進出の最前線基地としての価値も高い。

半導体ハブとしての台湾の価値

画像 : TSMC R&D センター wiki©曾 成訓

台湾が世界経済で果たす役割は、半導体産業において特に顕著だ。

TSMCは、スマートフォン、自動車、AI技術に不可欠な最先端半導体の約6割を生産し、米国のアップルやエヌビディアなど主要企業に供給している。

中国は自国の半導体産業を強化しようとしているが、技術的ギャップは大きく、TSMCの技術力には遠く及ばない。

習近平氏が台湾を制圧すれば、この技術と生産能力を手中に収め、グローバルサプライチェーンにおける中国の影響力を飛躍的に高めることができる。

さらに、半導体の供給をコントロールすることで、米国や日本など西側諸国に対する経済的圧力の手段ともなり得る。

台湾の半導体産業は、習近平氏にとって経済覇権を握るための切り札なのだ。

西太平洋の軍事戦略と台湾

画像 : 左が第一列島線、右が第二列島線 public domain

台湾の地政学的価値も、習近平氏の野心を後押ししている。

台湾は「第一列島線」の要に位置し、中国が西太平洋へ進出する際の戦略的拠点となる。

中国人民解放軍は、台湾を掌握することで、南シナ海や東シナ海での軍事プレゼンスを強化し、米国や日本の影響力を牽制できる。

2020年代に入り、中国は空母や戦闘機の配備を増やし、台湾周辺での軍事演習を頻繁に実施している。
これらの行動は、台湾を軍事基地化し、西太平洋での覇権を確立する意図を示している。

習氏にとって、台湾は単なる領土ではなく、中国の海洋進出を支える前哨基地としての役割を担うのだ。

国内統治とナショナリズムの利用

画像 : 習近平 CC BY 3.0

習近平氏の台湾統一へのこだわりは、国内統治の観点からも重要だ。

中国共産党は、経済成長の鈍化や社会的不満の高まりに直面しており、国民の支持を維持するためにナショナリズムを煽る戦略を取っている。

台湾統一は、「中華民族の偉大なる復興」というスローガンの象徴として、国民の団結を促す道具となっている。

SNSや国営メディアを通じて、台湾問題をめぐる愛国心が強調され、習氏の指導力への支持を固める役割を果たしている。

しかし、このナショナリズムの高揚は、失敗した場合の反発リスクも孕む。

台湾への軍事行動が失敗に終われば、習氏の権威は大きく揺らぐだろう。

国際社会との緊張と今後の展望

画像 : 台北101とスカイライン wiki © Heeheemalu

台湾制圧を巡る中国の動きは、国際社会との緊張を高めている。

米国は「台湾関係法」に基づき、台湾への武器供与を続け、軍事的支援の姿勢を明確にしている。
日本やオーストラリアも、台湾海峡の安定を重視し、中国への牽制を強めている。

一方、中国は経済的圧力や軍事演習を通じて、台湾とその同盟国に圧力をかけ続ける。

もし中国が武力による台湾統一に踏み切れば、半導体サプライチェーンの混乱や西太平洋での軍事衝突が現実のものとなる可能性がある。

習近平氏の狙いは、経済的・軍事的覇権の確立にあるが、その代償として国際的孤立や戦争のリスクを冒すことになる。

今後、台湾問題は中国と西側諸国の対立の焦点として、一層の注目を集めるだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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