国際情勢

『保守派の高市新総理誕生』中国はどう対応しようとしているのか?

長らく日本の政界でその動向が注目されてきた高市氏が、ついに日本の新総理の座に就いた。

強硬な保守思想を持ち、台湾問題や安全保障政策において明確な対中警戒姿勢を示してきた高市氏の誕生は、隣国である中国にとって、看過できない重大な外交課題を突きつけることになる。

中国は、日本の新政権に対し、伝統的な外交手法と新たな戦略的アプローチを組み合わせた、複雑な二面性を持つ対応を試みると予測される。

「硬」の側面:歴史認識と安全保障上の楔打ち

画像 : 高市早苗氏 首相官邸 CC BY 4.0

中国共産党にとって、高市総理は「歴史問題」において最も厳しい姿勢を持つ政治家の一人である。

靖国神社参拝などの歴史認識を巡る問題は、中国が日本に対し外交的な圧力をかける際の最大の「武器」であり続けてきた。

高市総理の誕生直後、中国政府及び国営メディアは、総理の過去の発言や行動をクローズアップし、歴史問題に関する厳格な「レッドライン」を改めて提示するだろう。

これは、国内のナショナリズムを刺激し、日本への不信感を煽るための常套手段である。

安全保障面でも、中国は強い警戒感を示す。

高市総理が進める可能性が高い「防衛費の大幅増額」「敵基地攻撃能力の具体化」「台湾有事への備え」といった政策は、中国の核心的利益に直接触れるものと見なされる。

中国は、これらの動きを「アジアの平和と安定を損なうもの」として国際的に非難するとともに、東シナ海や尖閣諸島周辺での軍事的な威嚇行動を一時的にエスカレートさせる可能性がある。

これは、新総理の政策実行を牽制し、日本の世論と国際社会に「高市政権は危険である」とのメッセージを植え付けるための「楔打ち」となる。

「軟」の側面:経済的利益の強調と実務的なパイプ構築

画像 : 習近平国家首席 public domain

一方で、中国は、日本との関係を完全に冷え込ませることは望んでいない。

その最大の理由は、経済的な相互依存関係の深さにある。
日本企業は依然として中国市場にとって重要な投資元であり、サプライチェーンの一端を担っている。

特に、習近平政権が重視する半導体やハイテク分野において、日本の素材・部品技術は依然として不可欠である。

したがって、中国は、外交チャネルを通じて、高市総理に対し「日中経済協力の重要性」を強く訴えかけるだろう。

政治・安全保障では対立しつつも、経済面では実務的な対話を維持するという、「政経分離」の構えを見せる可能性が高い。

具体的には、ハイレベルな経済対話やビジネス交流を早期に再開し、日本経済界を懐柔しようとする動きが強まることが予測される。

さらに、中国は、日本国内の親中派・経済界・公明党などのパイプを通じ、高市政権の対中政策を内側から軟化させるための工作を強化するだろう。

これは、保守強硬な総理が誕生した際でも、外交上の柔軟性を失わないための中国の戦略的対応と言える。

台湾を巡る外交戦と「分断」の試み

画像 : 台湾海峡 public domain

高市総理誕生後の日中外交の最大の焦点は、台湾問題となる。

高市総理は、台湾との関係強化に前向きな姿勢を示しており、これは中国にとって最も敏感な問題である。

中国は、日本が台湾問題に深く介入することに対し、強硬な警告を発する一方で、高市政権を「米国追従路線」であると位置づけ「アジアの安定を損ねているのは日米である」とのプロパガンダを国際社会に向けて展開するだろう。

同時に、日米間の外交的・安全保障上の「分断」を試みる動きも強化される。

例えば、中国は日本に対し、米国が推進する対中包囲網への参加を控えるよう水面下で圧力をかけ、日本が独自の判断を下すよう誘導するだろう。

結論として、高市新総理誕生に対する中国の対応は、「強硬な政治的・軍事的牽制」と「柔軟な経済的・実務的協力の維持」という、「二刀流」戦略となる。

中国は、時間をかけて高市政権の対中政策の限界を探りつつ、自身の国益を最大化するための慎重かつ計算された外交戦を展開していくはずである。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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