台湾統一は、中国共産党(中共)にとって長年の「核心的利益」とされ、習近平政権下でその達成への意欲が一段と高まっているように見える。
しかし、冷静にその動きと歴史的背景を分析すると、この「統一」は、単なる通過点に過ぎない可能性が高い。
それは、中共の真の目標が、地域覇権の確立と国際秩序の書き換えにあるからだ。
中共が台湾を欲する理由の多くは、内政的な正当性の維持、軍事的な地政学的優位性の確保、そして経済的な戦略的価値(特に半導体産業)に求められる。
しかし、これらはあくまで台湾を「手に入れる」ための直接的な動機に過ぎない。
台湾統一が達成された後、中共がその活動を停止し、現状に満足するとは考えにくい。
地政学的優位性と国際秩序の書き換え「南シナ海・東シナ海問題」

画像 : 左が第一列島線、右が第二列島線 public domain
台湾を支配下に置くことは、中国の地政学的立場を劇的に向上させる。
具体的には、台湾を「不沈空母」として利用することで、中国人民解放軍は、米国の「第一列島線」を突破しやすくなる。
この第一列島線とは、九州、沖縄、台湾、フィリピンなどを結ぶラインであり、中国の海洋進出を抑制する上で極めて重要な意味を持つ。
台湾を掌握すれば、中国の海軍力と空軍力は太平洋へより容易に展開可能となる。
その結果、中国は埋め立てによる軍事拠点化、頻繁な空域侵入や接近航行、海上封鎖や通商の妨害、海警や海上民兵を用いた航行妨害、さらには情報工作や経済的圧力など、さまざまな手段を通じて現状の勢力均衡を徐々に書き換えようとするだろう。
こうした一連の動きが加速すれば、南シナ海や東シナ海での既成事実化が進み、周辺国への威圧は一段と強まると考えられる。
中共の目的は、単に「中国の領土を回復する」ことではなく、「アジア太平洋地域における米国の影響力を排除し、自国主導の地域秩序を構築する」ことにある。
この観点から見ると、台湾統一は、この地域覇権を確立するための最初で最大のステップなのだ。
台湾が持つ民主主義という価値観と、海洋進出を阻む地理的な障壁の二つを同時に排除することで、中共は次の段階、すなわち、東南アジアやオセアニアへの影響力拡大へと進む準備が整う。
イデオロギーの対立と普遍的価値観の否定「民主主義との戦い」

画像 : 台湾の頼清徳総統 public domain
さらに、中共の野望は単なる領土や軍事的な問題に留まらない。
台湾は、中国語圏における民主主義の成功例として存在している。これは、一党支配体制を敷く中共にとって、体制の正当性に対するイデオロギー的な脅威となっている。
台湾を統一し、その自由な政治体制を破壊することは、中共が世界に示す「中国モデル」の優位性を証明する行為となる。
彼らは、リベラルな民主主義の価値観が、アジアや発展途上国にとって唯一のモデルではないことを、世界に強く印象付けたいのだ。
したがって、台湾統一は、中共が描く新世界秩序の実現に向けた、非常に重要なマイルストーンと言える。
それは、地域覇権の確立、海洋進出の足掛かり、そして最終的には、権威主義的体制が民主主義体制に優るというメッセージを世界に発するための、単なる通過点なのである。
この通過点をクリアした後、彼らの視線は、さらに遠く、グローバルな影響力の最大化へと向けられることになるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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