国際情勢

中国漁船は“ただの漁師”ではない? 尖閣諸島で進むグレーゾーンの海上戦略

日本の排他的経済水域(EEZ)内、特に尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺海域での中国海警局の活動や、中国漁船の領海侵入は、長年にわたり日本の主権に対する深刻な挑戦となっている。

しかし、ニュース映像や政府発表だけでは、この海域で長年操業してきた日本の漁師たちが抱える不安や緊張感の全体像は見えにくく、現場では映像以上に切迫した状況が続いていることがうかがえる。

本稿では、各地で伝えられる事例を通じて、中国側の挑発行動の具体的な実態を考察する。

最前線で直面する漁師の恐怖と怒り

画像 : 石垣島の漁港の風景(2023年) Syced CC0

石垣島や宮古島を拠点とする日本の漁師にとって、尖閣諸島周辺は豊かな漁場であると同時に、常に死と隣り合わせの危険な海域へと変貌している。

彼らが語る中国漁船の行動は、単なる「操業」とはかけ離れている。

現地では、中国漁船による威圧的な接近や包囲、追尾といった行動が繰り返されているとの証言がある。

夜間、集魚灯をつけて操業している最中に、中国漁船が高速で接近し、衝突寸前まで迫ったり、網の回収を妨害されたりした例も報告されており、漁業者からは「あれは完全に体当たりを狙っていた」という声も上がっている。

挑発はそれだけではない。

中国漁船は集団で現れることが多く、日本の漁船を包囲するような動きを見せたり、大音量の汽笛やライトで威嚇したりするのである。

彼らの多くは、漁具を持たない、あるいは極めて簡素な装備の船であり、実際には漁業を目的としていない「民兵」的な役割を担っているのではないか、と指摘する声もある。

海保の巡視船が近づくと、彼らは連携して逃走したり、逆に海保の動きを妨害したりする行動を取ることも頻繁に報告されている。

日本の漁船が中国漁船との衝突を避けようと操業を断念せざるを得ないケースは後を絶たず、これは事実上の「漁業権」の侵害となっている。

統制された行動と漁船に隠された意図

画像 : 中国の漁船の光景イメージ Jesse Hull CC BY 2.0

中国漁船の行動が単なる個々の暴走ではないことは、その組織的かつ統一された動きから明らかだ。

彼らは中国海警局の艦艇と連携し、無線で連絡を取り合っている様子も目撃されている。

これは、中国政府が尖閣諸島周辺の「実効支配」を強化する戦略の一環として、漁民を最前線のツールとして意図的に利用していることを示唆している。

さらに、一部の中国漁船は、船体に不釣り合いなほど強力な通信機器や監視装置を搭載しているとされる。

これらの船は、漁業という経済活動の裏で、日本の海上保安庁や自衛隊の活動に関する情報収集を行っている可能性が高い。

尖閣周辺での一連の行動は、海警法によって武装権限を強化した中国海警局の活動を補完し、グレーゾーンにおける軍事的なプレゼンスを強化する狙いが隠されていると言えるだろう。

国際社会への問題提起と日本の取るべき道

画像 : 尖閣諸島のうち3島の位置 青:魚釣島、黄:久場島、赤:大正島 Jackopoid CC BY-SA 3.0

日本の漁師たちが体験しているリアルな挑発行動は、単なる日中間の外交問題に留まらない。

これは、海洋国家日本の主権と、自由な経済活動の権利、そして国際法秩序に対する挑戦である。

漁師たちは「日本のEEZなのに、なぜ安心して漁ができないのか」と、政府のより強固な対応を求めている。

日本政府は、国際社会に向けて中国の挑発行動の具体的な実態をさらに広く発信し、国際世論の支持を得る必要がある。

同時に、海上保安庁の体制強化、そして漁業者に対する直接的な支援と安全確保策を急ぐことが、尖閣諸島を守るための喫緊の課題であるといえるだろう。

参考 : 海上保安庁 「2010年中国漁船公務執行妨害等被疑事件」報告
Sasakawa Peace Foundation(島嶼研究所)レポート 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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