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京都嵯峨野の絶景トロッコ列車に乗ってみた 〜時速25キロで保津川渓谷の絶景旅

京都の人気観光地・嵯峨野嵐山と亀岡の間、7.3kmを保津峡沿いにゆっくり進む「嵯峨野観光鉄道・嵯峨野トロッコ列車」。

本格的な梅雨に入る前、渓谷沿いの緑がまぶしい6月1日、レトロで素朴なトロッコ列車の小旅行を楽しんできた。

画像:新緑の中をゆっくりと進む嵯峨野トロッコ列車(撮影:高野晃彰)

スタンダード車両とリッチの両方に乗車

京都駅から山陰本線で約15分。

JR嵯峨嵐山駅に隣接するトロッコ嵯峨駅に到着したのは、朝の8時。

今日は、梅雨の合間の晴天を狙って、嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車に乗車する。

乗るのは、トロッコ嵯峨駅を9時2分に出発する「嵯峨野1号」。

終点のトロッコ亀岡駅で折り返し、9時30分発の「嵯峨野2号」で再びトロッコ嵯峨駅へ戻るという、いわば“トロッコ列車満喫作戦”ともいえる計画だ。

画像:鮮やかボディカラーが旅気分を盛り上げる(撮影:高野晃彰)

嵯峨野観光鉄道は、トロッコ嵯峨駅とトロッコ亀岡駅の間、全長約7.3キロを約25分で結んでいる。

このうち、トロッコ嵐山駅とトロッコ亀岡駅の間は、1989年(平成元年)に廃線となった旧山陰線の路線を利用している。

保津川沿いを走るトロッコ列車は、通常、トロッコ亀岡駅で下車し、そこから保津川下りで嵐山へ戻るのが一般的なルートだ。

しかし今回は、異なるタイプの車両(スタンダード車両とオープンタイプのリッチ号)に乗ってみたいという思いから、あえて往復ともトロッコ列車での移動を選んだ。

画像:スタンダード車両は窓付でも眺望は抜群(撮影:高野晃彰)

過去にも数回、嵯峨野トロッコ列車には乗車しているが、往路・復路ともにトロッコ列車というのは今回が初めての体験である。

さて、嵯峨野トロッコ列車の魅力といえば、素朴ながら開放感あふれる車両と、眼下に広がる保津川渓谷、そして四季折々の絶景を楽しめる点に尽きるだろう。

往復で約1時間という短い旅ではあるが、今回は梅雨の時期により一層色濃くなった、眩い新緑の渓谷美を堪能したかったのである。

画像:車窓には保津峡の美しい景観が広がる(撮影:高野晃彰)

ここで、嵯峨野観光鉄道のチケット購入方法について少し説明しておこう。

人気の観光路線だけに、できれば事前にチケットを購入するのがベストだ。
当日券も用意されているが、週末や休日には希望する列車に乗れないことが多いという。

チケットは、WEBでの購入がおすすめだ。嵯峨野観光鉄道のホームページ内、チケット予約欄(https://ars-saganokanko.triplabo.jp/home)から簡単に予約が可能である。

オープン車両「リッチ号(5号車)」に乗車を希望する場合は、WEB予約の際に「5号車」を選択するか、窓口で乗車券を購入する際に「5号車に乗車希望」と申し出る必要がある。

かくいう筆者は、トロッコ嵯峨駅で当日券を求めることにし、早めに駅へと向かった。

画像:JR嵯峨野嵐山駅とトロッコ嵯峨駅(撮影:高野晃彰)

発売時間までまだ時間があるもののトロッコ列車乗車券売場前には、すでに10人近くが列を作っていたため、慌ててその列に加わった。

そうして無事に往復の指定券(上り:スタンダード3号車右側ボックス席の窓際、下り:5号車リッチ号 左側ボックス席の窓際)を手に入れることができたのである。

観光スポットしても楽しめるトロッコ嵯峨駅

さて、改札がまだ開く気配がないので、トロッコ嵯峨駅を探索してみることにした。

さすがは京都の人気観光スポット・嵯峨嵐山の中心的ターミナルだけあって、駅構内だけでも十分に楽しめる施設が充実している。

そのひとつが、構内にある「19世紀ホール」だ。

ここでは、歴史を支えてきた蒸気機関車「D51」「C56」「C58」が、当時の姿のまま展示されている。
また、音楽芸術の発展に貢献してきたグランドピアノや大型オルガンも展示されており、クラシックな雰囲気に包まれている。

併設のカフェでは、トロッコ列車の乗車前後にゆったりとくつろぐこともできるだろう。

画像:2019年12月29日まで静態保存されていた「D51 51」(撮影:高野晃彰)

余談になるが、かつてトロッコ嵯峨駅前には「D51 51」が静態保存されていた。

しかし、50年近くにわたる屋外展示で各部の劣化が進んだことから、2019(令和元)年12月29日(日)が最後の公開日となった。
「ありがとう!D51」のヘッドマークが取り付けられた「D51 51」に別れを告げるため、熱心な鉄道ファンが集まったという。

さて、もう一つの見どころが、「ジオラマ京都JAPAN」だ。

こちらは西日本最大級の鉄道ジオラマで、京都の街並みをイメージした中を、HOゲージの新幹線や特急列車などの鉄道模型が走り抜ける。
鉄道ファンのみならずうれしいのは、本物の列車の運転席と同じマスターコントローラーを使って模型を操作できる点だ。

また、嵯峨嵐山の観光名所「竹林」をコンセプトにしたお土産コーナー「竹の道 嵯峨の庵」では、トロッコオリジナルの八ッ橋や、嵯峨野トロッコ列車を模した「千寿せんべい」など、京都の老舗和菓子店とコラボした限定商品が並ぶ。

ここで、こだわりの京都土産を求めるのも良いだろう。

画像:5両のトロッコ車両を牽引するDE10形ディーゼル機関車(撮影:高野晃彰)

そうして構内をぶらぶらしているうちに、「嵯峨野1号」の改札が始まった。

ホームに入ると、DE10形ディーゼル機関車と5両の客車が、静かに出発の時を待っている。

まずはDE10形を撮影し、亀岡方面への先頭車両である1号車もカメラに収める。
次々と乗客たちがホームに現れ、トロッコ列車をバックにうれしそうに記念撮影を楽しんでいる。

そして定刻の9時2分、「嵯峨野1号」は、ホームに並んだ嵯峨野観光鉄道の職員たちに見送られ、ゆっくりと出発した。

トロッコならではの乗り心地を楽しむ

「嵯峨野1号」は、ゴトゴトという独特の響きとともに速度を上げていく。

嵯峨野ならではの竹林の風景を車窓に映しながら、わずか3分でトロッコ嵐山駅に到着した。ここは、天龍寺や二尊院など、嵯峨野・嵐山観光の最寄り駅である。

亀岡方面からの上り列車では多くの乗客が降りるが、下り便では誰も降りることなくそのまま発車した。

画像:トロッコ嵐山駅(撮影:高野晃彰)

トロッコ嵐山駅を出ると、列車はすぐに古めかしいトンネルへと突入し、車内は一転して真っ暗に包まれる。

トンネルを抜けると、しばらくは保津川の渓谷を左手に見ながら走る。

やがて鉄橋を渡り、再びトンネルを抜けると、トロッコ保津峡駅に滑り込んだ。

画像:トロッコ保津峡駅では大小の狸たちが出迎えてくれる(撮影:高野晃彰)

この駅は、水尾や清滝方面へのハイキングコースの拠点として、観光シーズンには多くの乗降客でにぎわうという。

また、列車の到着とともに鐘の音が鳴り響いたり、ホームには大小さまざまな信楽焼の狸たちが置かれていたりと、とにかくサービス精神にあふれている。

列車と美しい渓谷美の両方を満喫

トロッコ保津峡駅を出発した列車は、保津川渓谷を縫うようにさらに上流へと進んでいく。

荒瀬・淵・瀞場など、変化に富んだ渓谷美が左右の車窓に次々と現れる。

途中、絶景ポイントでは数分間停車するサービスもあり、旅の楽しさを一層引き立ててくれる。

画像:急流・保津峡の景観(撮影:高野晃彰)

やがて進行方向の先に亀岡の街並みが遠望できるようになると、まもなく終点のトロッコ亀岡駅に到着した。

ここで多くの乗客が下車し、保津川下りの乗船場や接続するJR馬堀駅へと向かっていく。

一方、ホームには9時30分発の上り「嵯峨野2号」に乗車する乗客があふれており、この観光列車が年間90万人もの利用客を誇る人気列車であることを実感する。

発車時間まで残りわずか5分。筆者は急いで5号車の「リッチ」車両へと向かった。

画像:開放感あふれるオープン車両のリッチ号(撮影:高野晃彰)

この「リッチ」車両と往路で乗車したスタンダード車両との最大の違いは、窓がなく、天井がガラス張りになっていることだ。

復路では、より開放的な車両の中で風や音を間近に感じながら、半日ほどの嵯峨野観光鉄道トロッコ列車の旅を満喫したのである。

旧線の記憶を受け継ぎながら、今も嵯峨野の自然とともに走り続けるトロッコ列車は、京都の観光文化に新たな息吹を与え続けている。

文:写真/高野晃彰 校正/草の実堂編集部

高野晃彰

高野晃彰

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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