
画像:景信山から見た高尾山 右手前は小仏城山 wiki c Sphl
都心部から電車で約1時間ほどでアクセスできる高尾山。
2007年、ミシュラン・グリーンガイドで三つ星に認定された観光地として、国内はもとより訪日外国人客にも有名です。
杉材を使った個性的なデザインの高尾山口駅から歩いて約5分で、ケーブルカーやリフト乗り場に到着。
そこまではお土産店や蕎麦店などもあり観光地らしい賑わいをみせています。
しかし、いざ山に一歩足を踏み入れると、その印象はガラッと変わります。
杉木立に囲まれた山道、緑の清々しい香り、ピンと張りつめた空気、そして随所に現れる歴史と信仰に触れられるスポットなど、徐々に俗世から離れていくような気分になります。
古くから「天狗の棲む山」と呼ばれてきた高尾山は、修験道の霊山として信仰を集め、今も山中にはその名残りが色濃く点在。
「ここなら天狗がいても不思議ではない」と感じるほど大自然に囲まれ、いつ来ても不思議な空気を感じます。
今回は、2026年の無事を御護摩祈祷してもらうため、混雑する三が日を外して訪れました。
高尾山の成り立ちや天狗伝説を紐解きつつ、現地で感じた「霊山としての高尾山」の姿を、写真とともにご紹介したいと思います。

画像:杉の木をふんだんに使用した高尾山口駅(撮影:桃配伝子)

画像:駅に隣接する「極楽湯」ではさ温泉浴や食事が楽しめる。登山後に立ち寄る人も多い。(撮影:桃配伝子)
世界一の登山者数を誇る高尾山はどんな山?
高尾山は、東京都八王子市にある標高599メートルの山です。
この地を訪れる人は、年間約300万人以上で、世界一の登山者数を誇っているそうです。
登山コースは全部で8コース。自分のレベルや目的に合った好きなルートを選べます。
上級者向けのコースだけではなく、難易度が低い初心者向けコースもあるので、初めての人も安心でしょう。
もし、脚力や体力に自信がない人は、麓の駅から中腹までショートカットできるケーブルカーやリフトがおすすめ。
特にリフトは絶景を眺められ、風を感じながらの空中散歩を楽しめます。(リフトは高所恐怖症の人は、絶景過ぎてちょっと怖いかもしれません)

画像:ケーブルカーで途中まで行くことも(撮影:桃配伝子)

画像:空中散歩が楽しめるリフト。特に下りは見晴らしがいい。(撮影:桃配伝子)
五つの仏の徳を持つ飯縄大権現
高尾山は、縁起によれば、奈良時代の天平16年(744)、聖武天皇の勅命を受けた僧侶・行基によって開かれたと伝えられています。
山腹にある「高尾山薬王院」は、創建当初、薬師如来をご本尊としたことに由来しています。
永和年間(1375)には、京都醍醐山より俊源大徳が入山し、今のご本尊「飯縄大権現(いづなだいごんげん)」を奉祀し中興(ふたたび繁栄させる)しました。
飯縄大権現は、信州飯縄山に対する山岳信仰をもとに生まれた「神仏習合」の神で、不動明王、荼枳尼天、迦楼羅天、歓喜天、弁財天という五つの仏さまの徳をあわせ持つ存在とされています。
その姿は、剣と縄を手にした烏天狗が白いキツネに乗る姿で表されることが多く、翼や嘴を備えた、いかにも霊力を感じさせるものです。
戦勝の神として武将たちから信仰される一方で、農耕や火伏せの神としても人々の暮らしを見守ってきた存在でした。

画像:高尾山薬王院の飯縄権現銅像 wiki c 1m064
飯縄大権現の眷属である天狗
飯縄大権現の眷属である天狗は、除災開運、災厄消除、招福万来や神通力を持つとされ、随所でその姿を見かけることができます。
薬王院の少し手前にある「天狗の腰掛け杉」という樹齢700年もの大きな杉の木に腰掛けて下を見下ろし、悪い人間が入ってこないように見張っているという伝説もあります。
また高尾山は、修験道根本道場としても有名です。
昔、山伏が籠って難行苦行を重ね、高尾山の霊気と融合し、呪力、験力を体得した姿が天狗と同一視されることも多かったそうです。

画像:薬王院境内の天狗像。左は小天狗、立派な鼻を持っているのが大天狗。(撮影:桃配伝子)
多くの武将からも守護神として崇敬された
飯縄大権現は、戦国時代には「武将の守護神」としても篤く信仰され、上杉謙信や武田信玄をはじめ、多くの武将たちが戦勝を祈って崇敬しました。
戦国時代になると高尾山は北条氏が治める領土となり、薬王院や山の自然は手厚く保護されました。さらに、江戸期に入ると徳川家(特に紀州家)との仏縁により隆盛を迎えたそうです。
そして、明治時代の神仏分離令で打ち壊しの危機を迎えるも、薬王院は寺院であることを主張し、難を逃れました。
さらに、大正時代の関東大震災、戦時中の造船、終戦後の家屋再建などで多くの木々が伐採され、高尾山の自然はかなりダメージを受けることに。
けれども、昭和25年に東京都立高尾陣馬自然公園に指定、昭和42年には国定公園に指定され、高尾山の貴重な自然は守られるようになりました。

画像:途中途中、都心のほうまで見晴らせる場所が。(撮影:桃配伝子)
歩きながら触れる高尾山の見どころ
今回はケーブルカーを使い、駅から徒歩で一号路を薬王院へ向かいました。
杉木立に囲まれた静謐な空気が流れる山道を進んでいくと、徐々に“俗世”から“信仰と修行の世界”に足を踏み入れていくような気持ちに。
単なる観光に来る場所ではなく、古くから人々の信仰を集めてきたという敬意を持って訪れる山なのだな、という感じがします。
道すがら、そんなスポットが点在しています。

画像:杉の木に囲まれた薬王院に続く山道(撮影:桃配伝子)
開運のご利益があると伝わる「たこ杉」
駅から歩いて数分のところで出会うのが、樹齢約450年の大杉です。
昔、参道を切り開くときにこの木を伐採しようとしたところ、一夜にして根っこが後のほうにくるりと曲がったそう。
まるで、たこの足のようだったので「たこ杉」と呼ばれ、人々は、これを天狗様の神通力として感謝したそうです。
以来、このたこ杉は“道を開く=開運”ということで「開運の杉」として祀られました。
山をいく人々は、みな御利益を求めて根を触るようになったのです。
ただし、触り過ぎると木によくないため、代わりに「開運ひっぱり蛸」の石碑ができました。
ご利益を授かりたい人は、この石碑を撫でてみてください。

画像:高さ37m、周り約6mの大きな「たこ杉」(撮影:桃配伝子)

画像: 頭を撫で拝むと、仕事や人などからひっぱりだこになるご利益が。(撮影:桃配伝子)
この先は霊気の満ちた聖域になる「浄心門」
たこ杉をさらに登ると「浄心門(じょうしんもん)」があります。
1200年以上もの歴史ある「高尾山薬王院」の境内への入り口で、ここをくぐると、この先は霊気に満ちた聖域になります。
薬王院は仏教寺院ですが、この門は神社の鳥居の形で、神仏習合の歴史を感じられる場所です。
見上げると、霊気に満ちた山ということを表す「霊氣満山」という扁額がかけられています。
この門をくぐることで、参拝者は心を清め、邪念を取り払い、心身を正すという意味を持つそうです。
門をくぐると、役行者を祀る「神変堂」、さらに進むと左には「殺生禁断」の碑が。
高尾山は、古くから殺生を厳しく戒めていたおかげで、豊かな自然が残されているそうです。

画像:ここから薬王院の境内で聖域「浄心門」。(撮影:桃配伝子)
急な石段の「男坂」と緩やかに登りが続く「女坂」
さて、次に目の前に現れるのが二股に分かれた道です。
左は「男坂」右は「女坂」。
「男坂」は急な階段で、人間の煩悩の数「百八段」あります。
さまざまな苦しみや悩みを乗り越えるように、一歩ずつ「なむ、いつな だいごんげん」と念じながら登りましょう。
「女坂」のほうは、なだらかな坂道です。
急な階段が苦手な人や脚力に自信がない人は「女坂」のほうがいいでしょう。
ただし、女坂のほうは“緩やかな登りの坂”がずっと続くので、人によってはこちらのほうがしんどいかもしれません。
「男坂」は急勾配でキツイのですが、見上げると終点が見えます。
そのため、延々続くような気がする女坂よりも気分的に楽なので、私はいつも「男坂」を一気に上ります。(途中で休みますが)
男坂と女坂は、登り切ったところでお茶屋さんがあるので、そこで休憩するのもいいでしょう。

画像:左は「男坂」で右は「女坂」に行く分かれ道。(撮影:桃配伝子)

画像:百八段ある「男坂」は見上げると終点が見える。(撮影:桃配伝子)
「苦抜けの門 三密の道」
「男坂」の階段を登り切ったところに、「苦抜け門 三密の道」があります。
門を潜ったところから続く石段があり、その先には釈迦の遺骨を収める仏舎利塔があります。
「三密」という言葉はコロナ禍の時によく耳にしましたが、もともとは密教の言葉です。
弘法大師空海が、唐で学んだ密教を教義に、平安初期に開いた真言宗の教えにある言葉だそうです。
真言宗の三密とは、「身密(しんみつ)行動」「口密(くみつ)言葉」「意密(いみつ)心」のこと。
この三密を研ぎ澄ますことで、現世でも心穏やかに過ごせるという教えだそうです。

画像:「苦抜けの門 三密の道」(撮影:桃配伝子)
高尾山信仰の中心的な存在、薬王院へ
さて、山門を潜って薬王院の境内へ。
仏教では、山門をくぐること自体が一種の修行で、心身を清めてこれからの参拝や修行に心を整える儀式のような意味を持つそうです。
境内に入ると、すぐに力強い天狗の像があります。
また、石に開いた「輪」をくぐってから錫杖を鳴らすと願い事がかなう「願叶輪潜(ねがいかなうわくぐり)」。
右手に石車を回せば、眼耳鼻舌の穢(けが)れを清浄にしてくれる「六根清浄石車」もあり、参拝者に人気があります。
そして、階段を登りオレンジ色の仁王門をくぐると、薬王院で一番大きなお堂「本堂」が。
ここでは、御護摩祈祷を行っています。時間が決まっているので確認してから、社務所にて護摩焚きの申し込みをしましょう。
迫力のある護摩焚きの炎や太鼓の音に没入する時間を過ごすと、いろいろなものが浄化されていくような気がします。
本堂の左の長い階段を登り、鳥居をくぐると本社「飯縄権現堂」があります。
薬王院の中心となるお社で周辺にも、福徳稲荷社や天狗社などお社がたくさんあります。さらに、階段を登ると、山頂までの道が続いています。
今回は薬王院で、新年の護摩焚きをしてもらいお札を授与するのが目的だったので、山頂までは行きませんでしたが、天気のいい日は気持ちがいいので、ぜひ山頂まで登ってみてください。

画像:山門を潜って薬王院の境内に。(撮影:桃配伝子)

画像:境内を進むと仁王門が。ここを潜ると本堂。(撮影:桃配伝子)

画像:薬王院の本堂。(撮影:桃配伝子)

画像:薬王院の境内にある「願叶輪潜」(撮影:桃配伝子)

画像:本堂の東側には真っ赤な愛染堂が。恋愛成就と縁結びの神様、愛染明王祭る。(撮影:桃配伝子)

画像:薬王院で入手できる諸願成就の「かなう守」。これを入手して「願叶輪潜」をするのがおすすめ。(撮影:桃配伝子)

画像:護摩祈祷をお願いするといただける御供物やお守りなど。(撮影:桃配伝子)
最後に
来た道をゆっくりと下っていくと、“山岳信仰息づく聖域から、徐々に人間の活気あふれる現世に降りてきた”……そんな感じもします。
麓では名物のお蕎麦を食べたりお土産を買ったりなど、観光地らしい楽しみ方もできます。
都会から近いのに、不思議と異界と現世の境目のような気配がはっきりと息づいている高尾山。
いろいろな精神的なモヤモヤが飛んで、大きなパワーを頂いたようなすっきりした気分になるので、定期的に訪れています。
これからは、山全体が新緑に染まり、清々しい緑の空気を胸いっぱいに吸い込める初夏もおすすめです。

画像:ふもとの蕎麦屋さんで名物の自然薯蕎麦を。(撮影:桃配伝子)

画像:創業明治30年代に大本山高尾山御用達となった「有喜堂本店」の高尾まんじゅう。ふわっとしていて美味しい。(撮影:桃配伝子)
文:撮影 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部
























この記事へのコメントはありません。