目次
エピローグ ~東福寺・泉涌寺とその塔頭の庭園~
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画像:霊雲院の遺愛石(撮影:高野晃彰)
魅力ある名所・旧跡が目白押しの京都。そんな京都には各時代に作られた数多くの庭園があり、種類も坪庭から、枯山水、池泉廻遊式などバラエティーに富んでいます。
各々の庭園には造られた時代の歴史・文化が反映され、庭園ゆかりの人々の想いが込められているのです。
京都を旅する目的は、人により様々でしょう。時には、庭園に絞って京都を訪れるのも良いのではないでしょうか。
今回は、京都駅からほど近い、東福寺・泉涌寺とその塔頭の庭園をご案内します。
まずは京都一とされる巨大な伽藍が建つ東福寺へ向かいましょう。
東福寺 ~重森三玲作庭のモダンで斬新な庭園~
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画像:東福寺臥龍橋からの眺め(撮影:高野晃彰)
東福寺へはJR京都駅から奈良線に乗り換えると、最寄り駅である東福寺駅まで3分。駅からは徒歩約10分で、東福寺に到着します。
東福寺は鎌倉時代前期の1236(嘉偵2)年、時の関白九条道家が「京都で一番大きな寺を・・・」と建立。
奈良の東大寺と興福寺から1字ずつとって「東・福・寺」と名付けました。山や渓谷を取り入れた広大な境内には、三門や方丈など禅宗建築を今に伝える巨大な建築物が建ち並び、紅葉の時期にはたくさんの観光客が訪れます。
巨大な伽藍の間に見ごたえある庭園が配されています。その中心となるのが方丈を取り囲むように東西南北に配された「八相の庭」(方丈南・北・東・西庭)です。
いずれも著名な昭和の作庭家・重森三玲によるもので、釈迦が一生に経た八つの重要な段階である八相成道をテーマにしています。
4つの庭はどれも日本庭園の伝統を踏襲しながら、美玲独特の斬新な技法を余すことなく駆使。そのモダンなデザイン感覚がダイレクトに伝わってきます。
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画像:東福寺方丈南庭(撮影:高野晃彰)
方丈南庭は大小の石で四仙島を表現。
庭園の奥に建つ巨大な伽藍を背景とすることで庭のスケール感を際立たせる。
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画像:東福寺方丈南庭(撮影:高野晃彰)
方丈北庭は馬杉苔と角石を互い違いに並べて「市松模様」を表現、渓谷・洗玉澗に架かる通天橋を借景にする、緑と白のコントラストが美しい庭。
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画像:東福寺方丈北庭(撮影:高野晃彰)
北斗の庭とも称される方丈東庭は、雲文様の白砂の上に北斗七星を表わした円柱形の柱石を立て小宇宙を演出する斬新なデザイン。
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画像:東福寺方丈東庭(撮影:高野晃彰)
そして方丈西庭は、サツキの刈込みと葛石(縁石)で表現された市松模様の庭。
俗に「井田の庭」とも呼ばれ、砂地・苔・立体的なサツキの刈込みによる色彩の変化が楽しめる。
東福寺にはこの他、開山堂庭園と、三玲が作庭した枯山水庭園である龍吟庵西・東庭があります。
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画像:東福寺開山堂と庭園(撮影:高野晃彰)
聖一国師を祀る開山堂は、上層に楼閣がある独特の建築。堂の前の開山堂庭園は、市松の砂紋をつけ鶴亀を象った石組を配した枯山水と、その対面にある築山風の池泉式庭園で、禅院式と武家書院式との調和を図っています。
東福寺境内の東に位置する塔頭・龍吟庵には東庭・西庭の2つの庭園があり、秋の特別拝観時に公開されます。
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画像:龍吟庵東庭(撮影:高野晃彰)
東庭は、東福寺開山の大明国師が幼少の頃高熱のために荒野に倒れた時、2匹の犬が狼から守ってくれたという寓話を石組みにより表現。
敷かれている赤い砂は鞍馬石を砕いたもの。また、西庭は、龍が海から黒雲に乗って昇天する姿を石組で表現。
竹垣には、稲妻模様が施されています。
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画像:龍吟庵西庭(撮影:高野晃彰)
霊雲院 ~三玲の手による独創的な2つの枯山水~
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画像:霊雲院の瓢箪型手水鉢(撮影:高野晃彰)
東福寺の次は、隣接して建つ塔頭の霊雲院を訪ねてみましょう。同寺は、室町3代将軍足利義満の時代、1390(明徳元)年に東福寺80世の岐陽方秀により開かれました。
江戸時代に入ると、熊本出身の第7世住職・湘雪和尚の時に、熊本藩主細川家から厚い帰依を受けます。また、幕末には西郷隆盛と勤皇僧月照が討幕の密議を交わした舞台としても有名だ。
霊雲院もまた、重森三玲の手による2つの庭があります。
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画像:霊雲院九山八海の庭(撮影:高野晃彰)
書院前の九山八海の庭は、江戸中期の「遺愛石」が印象的な庭。この石は、湘雪が細川家から寺宝として贈られたもので、須弥台の上に載せられた四角い石舟の中で青みを帯びています。
九山八海の庭は、300年の歳月により荒廃したため、1970(昭和45)年に三玲により修復されました。三玲は「遺愛石」を中央に据えて、これを仏の住む須弥山に見立てたようです。
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画像:遺愛石と取り囲む白砂(撮影:高野晃彰)
そして「遺愛石」を取り囲む白砂が、仏教の世界観を表わす九つの山と八つの海を表現します。
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画像:霊雲院臥雲の庭(撮影:高野晃彰)
書院の西庭・臥雲の庭は、渓谷より流れ出た水が空をゆうゆうと流れる雲の下を潜り、大海にと流れてゆく様を表現。
寺号の「霊雲」を主題にした創造的な枯山水で、雲・水・渓谷を鞍馬砂、白砂の波紋・石組で表現。夕日に照らされた雲が、赤い輝きをみせるのがとても印象的です。
芬陀院 ~画聖雪舟作庭と伝わる京都最古級の枯山水~
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画像:芬陀院の勾玉の手水鉢(撮影:高野晃彰)
雲霊院に隣接するのが、塔頭・芬陀院で、鎌倉末期の元亨年間(1321~1324年)に創建された関白一条家の菩提寺です。
方丈の前に広がる南庭は、室町中期に一条兼良の依頼により水墨画家・雪舟が作庭したとされる禅院式枯山水庭園で、京都で最古級の枯山水と伝わります。
火災や長い歳月で荒廃していたこの庭を、1939(昭和14)年に三玲が復元。その際、一石も補足することなく修復しました。
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画像:伝雪舟作庭の禅院式枯山水庭園(撮影:高野晃彰)
真っ直ぐに砂紋が描かれた白砂と折鶴を表わす鶴島。二重の基壇により亀の姿を表現した大きな亀島が、背後の竹林と相まってまるで一遍の水墨画のよう。
まさに画聖・雪舟ならではの庭といえます。
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画像:動く亀島と呼ばれる石組(撮影:高野晃彰)
とはいうものの、雪舟作庭を立証する資料は確定されていません。しかし、兼良も雪舟も、東山文化に深く関わった人物だけに、単に伝承とするよりはロマンがあるのではないでしょうか。
そして、もう一つの方丈東庭は、三玲が新しく作庭した庭。仙人が住む不老不死の地とされる蓬莱の連山を表わす鶴亀の島を配した苔の庭です。
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画像:丸窓から見る方丈東庭(撮影:高野晃彰)
ここは茶室・図南亭の丸窓の障子越しに眺めてみましょう。
まるで一幅の絵画のように、なお一層の風情が感じられます。
雲龍院 ~自然美溢れる苔庭に置かれた巨石の正体は~
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画像:書院からのぞむ雲龍院庭園(撮影:高野晃彰)
芬陀院の次は、泉涌寺の塔頭・雲龍院へ。のんびり歩いても20分ほどで到着します。
雲龍院は、1371(応安5)年に後光厳上皇により創建された由緒ある寺院。後に、後柏原天皇より御黒戸御殿を賜り、写経道場となりました。
兵火や地震などにより一時荒廃したものの、江戸初期の1639(寛永16)年に、後水尾上皇の援助で、黒戸御殿をはじめとする諸堂を再建。
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画像:自然美溢れる書院前庭園(撮影:高野晃彰)
書院前の庭園は、一面の苔庭で、樹木も多く植えられた自然美溢れる趣きに満ちています。
初夏の新緑・秋の紅葉・冬のワビスケツバキと、変化に富んだ四季の移り変わりが美しく、どの季節に訪れても楽しめます。
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画像:庭園に置かれた伝方広寺大仏殿礎石(撮影:高野晃彰)
ここは書院の座敷に座り、ゆっくりと眺めるのがおすすめ。この時に目に飛び込んで来るのが、正面に据えられた2つの大きな石です。
前後に低いツツジの刈り込みが配された、この巨大な石の正体は、豊臣秀吉が建立した方広寺大仏殿の礎石とも。
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画像:書院左端にある真円の悟りの窓(撮影:高野晃彰)
書院の左端には真円を描く悟りの窓があります。障子の間、短冊状の空間から一握りの庭の景色を楽しむのもまた一興です。
東福寺 HP:https://tofukuji.jp/
霊雲院 HP:https://reiunin.jp/
芬陀院 HP:https://funda-in.com/
雲龍院 HP:https://www.unryuin.jp/
※参考文献
高野晃彰編・京都歴史文化研究会著 歴史と文化を愉しむ 京都庭園ガイド メイツユニバーサルコンテンツ 2010年7月
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